第2話

「ふぅ、やっとエンディング。あ〜長かった」


 俺は人気、名作、クソゲーと数多くあるゲームの中でも、隠れた名作を探し出しプレイするのが好きで過去に発売されたゲームをプレイしていた。


 そして、今俺がクリアしたゲームも十数年前に発売されたらしいゲームだったが、俺の好みのゲームだった。


 それはドラゴンブレイブというタイトルだったが、それを俺は三ヶ月かけてクリアした。


 まあ、その背景には、俺は社会人でゲームをする時間が限られていたというのもあるが、六人いるヒロイン、その全てのエンディングを見ようとした結果でもある。


 ドラゴンブレイブというのはレドラ王国の第一王子、アレスが主人公で、学園が舞台のギャルゲーなんだけど、これがギャルゲーとは思えないほどRPGパートが充実していた。

 まあ、俺はパッケージ裏を見てRPGゲームだと思って購入してしまったんだけどね。結果オーライだったけど。


 ただ魔法やスキルなんかは雑というか適当なところがあるけど……


 それでも、親しくなるヒロインの好感度によってストーリーが変化するマルチストーリー。俺がハマったのもマルチストーリーだったからというのもある。


 ただ残念だったところが、学園パートにデートパートのほかに、最も好感度を上げやすいRPGパートに、ヒロインを一人だけしか連れて行けないというところだ。旅の仲間はかなり多かったけど。


「これでようやく六人目のヒロインもクリアだな」


 ヒロインの肩を抱き王城から城下町を見下ろす主人公とヒロイン。


 夕焼けに照らされた二人の影が重なるようにキスをすると、画面が暗くなりFinの文字が現れる。なんとも物足りないエンディングなんだけど、今回は六人目だ。これで終わりではない。


 Finの文字のすぐ下に、↓マークが出て、決定ボタンを押す、ある表示された。


【おめでとうございます。おまけモードが解放されました】


「ふふふ、やった。ついにやったぞ。これで好感度限界突破にハーレムエンドにも挑戦できる」


 そう、このゲーム、ヒロイン六人全てクリアすると、クリア特典があって、隠れボスや裏ボスなどが出現したおまけモード、追加シナリオができるようなる。


「ではでは早速やってみますか……ロードっと、まずは……?」


【婚約者が解放されたした】


「えっ? 婚約者? 婚約者って何?」


 俺はゲーム画面をそのままに攻略本を手に取り、婚約者について調べてみた。


「え、まじか」


 なんとこれもおまけモードになり解放されたようで、攻略可能なヒロインらしい。ただ、彼女を連れて状態で他のヒロインに遭遇する有無を言わさず他のヒロインの好感度が下がるとある。せっかくハーレムモードを楽しめると思っていただけにちょっとがっかり。


「婚約者がいるなんて……ハーレムエンドまで結構ハードなのか? ……まあいいとりあえずは学園から出てRPGパートに切り替えよ……いきなり婚約者に出会うってこともないだろうし」


 俺はクリアデータからロードを完了させると、学園パートからRPGパートに切り替える。


 これはただ王都の外、フィールドに出るという選択をするだけでいい。

 画面がすぐに学園パートからRPGパートに切り替わった。


 そして俺はキャラをフィールドに待機させたまま再び攻略本に目を移す。


「ふふふ、婚約者よりも、まずは色欲リングを手に入れないとね……学園の森? か。そこにストーリーの序盤で魔物に殺されたと思っていた同級生クライ・ネックラが覚醒していて隠れボスとして現れるのか。

 ふむふむ。ネタキャラっぽい名前だっと思ったけど、ちゃんと隠しイベントが用意してあったのね」


 俺はキャラを操作してすぐ近くにある学園の森に入るが、この辺の魔物は弱いから戦闘は発生しない。


 ドラゴンブレイブには戦闘オンオフ親切機能があって、それはレベル差が十以上離れた弱いザコ魔物を出現さないというもの。


 俺の場合、ドロップアイテムを狙っている時以外は面倒なので、この親切機能を有効にしている。


「この森のダンジョンは一本道だったよな。魔物も出てこないから楽なダンジョンだわ」


 俺は攻略本の通りに操作キャラを森の奥に進める。すると森の奥で魔物を侍らせた目的の人物クライの姿があった。


「おっ、本当にいたよ」


 近づくとすぐに隠しイベントが始まった。


 王子〈クライ!? お前生きていたのか!?〉


 クライ〈なぜここに来た。出て行け。俺はここで静かに過ごしている〉


 王子〈何を言ってるんだクライ。お前が居なくなって残された家族がどれだけ悲しんでいたことか。さあ俺たちと一緒に帰って安心させてやろう〉


 ヒロインA〈そうよクライ。みんな待ってるわ。学園に帰りましょう〉


 クライ〈うるさい、うるさいっ。そんなの知るか。それにネックラ家には俺がいなくても優秀な弟がいる。だから俺は帰る必要はない。俺のことなど忘れて、とっととこの森から出て行けっ〉


 王子〈なっ!? クライ。そうか魔物か? お前、周りの魔物に操られているのだな!?〉


 クライ〈それは違う、だがお前に話すことなどない。関わりたくない。お前たちが出ていかないのならば、力ずくで追い返すまでだ〉


 王子〈待てクライっ、くっ、やるしかないのかっ!? みんなやるぞ。クライを正気に戻してやるんだっ!〉


 ヒロインA〈はい〉

 仲間A〈おお〉

 仲間B〈分かったっ〉


 そこで画面は戦闘シーンへと切り替わるが、俺は楽に倒したいから攻略方法を確認するためにもう一度攻略本に目を移す。


 俺の購入していた攻略本は完全版の攻略本だからかなり分厚くクライ・ネックラの挿絵まで入っていて、攻略本を眺めるだけでも見るに飽きない。


 クライは細身猫背姿で前髪は長く目元まで伸ばしている。僅かに見える目元にはくっきりと深い隈がある。とてもカッコいいとは言い難い個性的なキャラに描かれていた。


 クライはストーリーの序盤、入学してすぐに親睦を深めるための学校行事、学園の森にハイキングに行こう。というそのイベントで、突然現れた魔物の群れに襲われる。これは邪竜復活の予兆だと後になって知るのだが。


 集団行動を嫌い、単独行動をしていたクライはそこで捕食型の魔物にさらわれて死亡扱いになる。


 クライの人物設定によると、ネックラ家は魔眼を宿しやすい家系で、クライは十二歳の頃に魔眼の一種、色眼を宿したとある。


 色眼は、その瞳を見たものを数時間だが、自分の虜にし、意のままに操るというもの。


 不幸にもクライは、突然宿った色眼が上手く制御できず、信頼していたメイドに欲望のまま襲われ心に深い傷を負う。それは目を閉じる度に思い出し夜が寝られないほどに。


 そのメイドは責任を負って屋敷から追放されたのだが、後になってその原因は自分の色眼にあったのだと知り、さらに後悔して心に深い傷を負う。


 時が経つとともにその傷は両親への恨みへとかわる。

 なぜ、魔眼を宿しやすい家系だと早くに教えてくれなかったと……

 クライはずっと両親を恨みつづけ家族とも距離も離れ始める。


 描かれたクライの深い隈にはそういった背景があり、前髪を伸ばしていたのも、その深い隈や色眼を隠すためとあるとの記載がある。


「なんだよこいつ。殺されてかわいそうなヤツかと思ったけど、ぜんぜんだったわ。生きてるし。メイドさんから欲望のまま襲われたなんて、童貞の俺からしたら……寧ろご褒美じゃねえか。くぅ、うらやま、けしからんヤツめっ……爆発しろ!」


 覚醒して隠しボスとなった現れたクライ・ネックラは色眼を使い魔物を意のままに操るらしいが、隠れボスだけあって弱点という弱点はなく、魔法や剣を使った斬撃も強力で、攻略するのなら、クライを常に庇う周りの魔物から地道に崩していくしかない。


 クライを見事倒すと王子の説得に改心したクライが協力を申し出て色眼の効力を付与させた色欲リングをくれる。


 俺が狙っているのもこのリング。


 装備すると、ヒロインたちの好感度が限界突破して上がるようになり、デレたヒロインたちの立ち絵や会話を楽しめるのだと友人に聞いている。


 しかも、通常なら一人のヒロインとデートをすれば他のヒロインの好感度は下がってしまう。だが、このリング装備するだけで誰とデートしても好感度が下がらなくなるというのだ。もう取るしかないよな。


「婚約者って誰か知らんけど、婚約者にも有効なんだろうか? 載ってないな。まあいいや」


 婚約者に関しての記載はなかったが、それはそれで別に構わない。だって、それがあればRPGモードで複数のヒロインを連れて歩けるようになるのだから。


 しかも宿に泊まるとムフフなおまけなども盛り沢山なんだとか。

 ちなみに攻略本では、それっぽい画像写真が載っているが黒塗りされていて自分の目で確かめてみよう♡と意味深な記載があるのみ。


 極め付けに、ヒロイン全ての好感度が、限界突破をさせゲージをMAXにしてから、裏ボスを倒すと真のエンディング、ハーレムエンディングを見れるらしいのだ。


 この場合婚約者はどうなるのか気にはなるが。まあいいや。

 でも婚約者エンドらしきものもあるっぽいので後で探してみよう。


「よーしクライ。お前なんてサクッと俺に倒されて、色欲リングさっさとよこしやがれ」


 俺は攻略本からゲーム画面へと視線を戻しクライとの戦闘を再開すことにした。


「ん? え、何。こいつがクライなの? 前髪、なんであげてんの? 攻略本の挿絵と違ってカッコよすぎじゃない? ぐぬぬ……まあいい。

 クライ・ネックラ覚悟しろや、すぐに最強魔法で蹴散らして……って、え、あ、やべ、ちょっと、待って。強すぎ……クライ待て、やべ、やべ、チートすぎじゃね? やば、これ全滅するわ、ああ、ああぁぁぁ、ああああ」


【ヒロインたちの好感度が半減した】


「り、リセット……」

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