戦闘欲VS性欲
57
帰宅すると紫先輩に思いっきり泣かれてしまった。
胸をポカポカと叩かれて、ただいまのキスをするどころではなかった。
なんでも俺が死んだと思ったらしく実際にこうして見るまでとても不安だったそうだ。
その原因は、テレビに映し出されたとんでもなくでかいモンスターと落下している俺の映像――そこに五石家から生死不明との連絡を受けての事だったらしい。
愛衣先輩からは、「克斗君が悪いんだからきちんと慰めてあげなきゃだめなんだよ」と言われ今にいたる。
とりあえず、頭を撫でてはみたが効果はなく。時間だけが過ぎていた……。
正直なところ、紫先輩にこんな女の子っぽいところがあるとは思わなかった。
*
翌朝のニュースにはカネルが自首し首謀者が逮捕されたというコメントがメインになるかと思いきや。
昨晩同様にどでかいモンスターと、隕石みたいに落下するおれの映像。それと崩壊したオフィス街からの中継が主だった。
それでも一連の事件の首謀者が逮捕されたらしいというコメントは少なからずあった。
今後の展開が気になるところではある。
もう戦う必要がなくなったからという事で、俺もみんなと同じ朝食を食べていた。
紫先輩の機嫌はとても悪く、話しかけてもあまり反応がよろしくない。
かと思えば、事後処理であろう、五石家とのやり取りは、はきはきとした口調でしっかりこなしている。
もしかすると紫先輩が悪い笑みを浮かべてろくでもないことを考えている時の方が俺は好きなのかもしれない。
ついついそんなことすら思ってしまう状況だったりする。
そんな中――。
戦いの疲れが急に出たのか知らないがめちゃくちゃ眠くなったので寝室へと向かった。
*
ノエルの目には見慣れた天井が映っていた。
「起動。……否定。克斗の意識覚醒を確認できません」
身体を動かす優先順位が克斗よりもノエルの方が上になっていた。
「原因。不明。確認。必要」
リビングに行くと紫が居た。
「確認。愛衣お母さんはどこ?」
「なっ⁉」
紫は克斗の声でしゃべる異質な存在にがくぜんとした。
予期していたとはいえ、本当にこのような事態になってしまったことに心底驚いていた。
「要求。問題発生。至急改善を求めます」
「ノエルなのか?」
「肯定。現在克斗との意思疎通に問題発生」
紫は、大きなため息をついてから話し始めた。
「先ほどの質問の答えがまだだったな。愛衣なら今は買い物だ」
「残念。最後にお別れの挨拶を要求したかった」
「最後? つまりお前さんはこの状況を改善できる手段を知っているのか?」
「肯定。ノエルの破壊」
「つまり、それを私にしろと言うのか?」
「肯定。紫お姉さんは特別。壊されても問題ないと判断」
どうやってノエルを破壊するかは別としてそんなことをしたら克斗に嫌われてしまう。
紫は少し悩み別の案を提示することにした。
「残念ながら私は脳外科医ではないのでな貴様を取り出したり破壊したりは出来ない」
「拒否。現状では克斗の行動が不能と判断。よって至急対処すべき」
「ところでノエル。お前さんはどこまで自分の意思で意識を封じる事が可能なんだ?」
「不明。このシステムはプレイヤー№1により即席で作られたシステム。よってあらゆる不具合が想定されています」
「だったら、停止は可能か?」
「了解。停止モードに移行します」
糸の切れた操り人形のように克斗の身体は倒れた。
慌てて紫は駆け寄り克斗の身体を起こす。
「おい、どうしたノエル⁉ 成功したのか⁉」
反応は、なかった――。
完全に脱力していて、寝ているというよりは意識不明といった方がしっくりきた。
慌てて父に診てもうらおうかとも思ったが――上手く説明できる自信がなかった。
そこで、とりあえず寝室に運んで様子を見る事にしたのだった。
*
いったい何時間寝ていたのだろうか?
「ノエル。今何時だ?」
いつもならすぐに返ってくる返事が来ない。
そういえば、いつも俺が起きるとかならず『起動。克斗の意識覚醒を確認』とか言ってたはずである。
それがないのだ。
おかしい、明らかにおかしかった。
慌てて身体を起こすと気難しい顔をした紫先輩が居た。
「克斗。調子はどうだ?」
「悪くないっていうか普通だとは思うんですけど! おかしいんですよ!」
「ノエルの声が聞こえなくなったか?」
「えっ⁉」
「悪いがノエルには停止してもらった」
「えっ? ちょっ、どういう事すっか⁉」
「ノエルが言ってきたのだよ。このままだと貴様の行動に支障が出るから壊してほしいとな」
「なっ! なんすかそれ⁉」
「危険性に関しては最初から理解していたのではなかったのか⁉」
確かにブラックさんにもいろいろと言われたし、それなりの覚悟をしてきたつもりでもいた。
でも、だからって急にこんな……。
「そこでだ。提案なのだが脳外科医を目指してみる気はないか?」
「は? なんでそんな話になるんすか?」
「ノエルは停止しただけであって、破壊したわけではない。上手く取り出せば何らかの形で再現出来るとは思わないか?」
「そう…なんですかね……」
なんかいきなりのこと過ぎて頭がついていかない。
「なに、今すぐ決めろとか言う話でもない。考えるだけはしてみても損はないと思うぞ」
「そうですね……それと、ありがとうございます」
「あぁ、存分に恩に着ろ」
やっぱり紫先輩は少し悪い顔してるくらいの方がなんか安心すると思った。
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