レベル2開始
44
今日も朝からサイレント関連のニュースが中心だった。
中でも深夜に何らかが爆発したと思われる校庭の大穴についてのコメントが特にひどかった。
数日前に他の高校の校庭でも生徒がいるにもかかわらず危険な行為を楽しんでいた事にされていて、今回も同様の目的だろう、というのが大筋だった。
正直なところ見ていても気分が悪くなるだけなのだが、情報収集は大切である。なにせテレビの影響は強い。間違った事や嘘を簡単に真実だと思い込ませてしまうのだから。
だからこそ紫は朝食を作りながらも耳を傾けていて、愛衣はコメントをする人達の思惑を知るために目を離さない。
黒焦げになり、大きく曲がった刀もどきを見れば昨晩の相手がいかに危険なヤツだったかなんて子供でも分かりそうなものである。
大穴にしたってそうだ、克斗が偽の情報を書き込んだからこそ被害者が出なかったことを称賛すべきなのに実際は逆。
嘘の書き込みをして多くの人を混乱させた罪は大きいという流れである。
万が一にでも被害者が出ていれば、それはそれとして大叩きするくせに……実に気楽な商売だなぁなんて思いながら愛衣は口を開いた。
「ねぇ、こんちゃん。買い物っていつ行くの?」
「激戦の後で疲弊した戦士に鞭を打ちたいというのなら起こしてこればいいじゃないか」
「どうして、こんな意地悪なことしか言わないこんちゃんの方がいいんだろ?」
「飯が美味いからじゃないのか?」
絶対に嘘である。いちいち確認するのもばからしい。
「いいもん! 起こしてくるもん!」
実際は、お金の事ばっかり考えてコメントしてる連中の目を見るのが嫌になったからだった。
寝室に入りベッドに腰掛けながら克斗の寝顔を見る。
純粋に可愛いと思った。とても命懸けで戦っている戦士には見えない。
それこそ戦闘狂だなんて思いたくもなかった。
でも、事実である。理由は分からないが、戦いに巻き込まれ――今では戦場こそが生きる場所だと認識しているのだ。
無性にイライラした。面白くなかった。
だから父親に電話して八つ当たりしてやった。
――そう。全部お母さんのしてることを暴露してやったのだ。
これでもう裁判にはならないだろう。双方が不貞を隠していたのだからお互い様である。
どうせ壊れる予定だった家庭が少しばかり早く崩壊しても大した問題にはならないだろうし。
運が良ければ、自分の所に入ってくる予定だったお金が増えるかもしれない。
父親の声色から感じ取った安堵の気持ちの大きさからすると期待してもいいと思う。
だったら今日は少しくらい散財しても問題ないだろう。
「えへへ~♪ 誘惑しちゃうんだから楽しみにしててね♪」
*
お肉の焼ける美味しそうな匂いに釣られて目覚めると、愛衣先輩が近くに居た。
「あ、おはようございます。なにか用ですか?」
「も~! 買い物!」
「あ、そうでしたね! ちょっと待ってください、今確認するんで。ノエル! 今の修復具合はどんな感じだ?」
【回答。右腕以外の修復は完了。右腕完全復旧まで約6時間】
「分かった、引き続き頼む」
【了解】
「どうやら右腕以外は大丈夫みたいなんで、またご飯食べさせてもらってもいいですか?」
「じゃぁ、ご飯と私どっちが食べたい?」
「ご飯でお願いします」
「も~! ノエルちゃんからOK出てるんだから気にする必要ないのに」
「や、今日からレベル2に入ったんでしっかり食っておかないとダメだと思ったんで!」
「で、その心は?」
「分かってても、聞くんですね?」
「だって、実際に言われてみたいセリフだもん!」
「そうなんですかね? ただ、命懸けでも先輩を守りたいってだけですよ?」
予想に反し愛衣先輩は頬を赤くしていた。
「あ、うん、わかってたけど、やっぱりちょっと恥ずかしいもんだね……えへへ」
「そうですか? こんな個人的な理由で戦ってるって知ったら、どっちにしろ文句言われそうな気がしますけど?」
俺だって掲示板書き込む時に少しくらいはコメントを拾っている。実に賛否両論で、誹謗中傷も多い。
特に昨日なんて嘘書いたんだから相当荒れていることだろう。
「それはそれ、これはこれだよ~」
「あと、愛衣先輩のこともきちんと好きですから」
「こんちゃんの次にでしょ?」
「まぁ、今のところはそうですね」
「もう! そこは、嘘ついてもいいところなんだよ!」
「そしたら、すねますよね?」
「すねるもん! ご飯食べさせてあげないもん!」
「まぁ、そうなったらそうなったで紫先輩に食べさせてもらうからいいんですけどね」
「む~!」
少しむくれながらも、愛衣先輩はお腹いっぱいになるまで食べさせてくれた。
――肉中心の料理を。
なんでも身体作りの基本は肉だそうだ。
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