11
俺は身体を起こして、二人を両脇に抱えて膝で歩く。
反対側のホームで耳を押さえて見てる者達の中には、その無様な退避行動をみて嘲笑する奴らもいた。
「ぷっ、なんだあれは、かっこわりーなぁ」
「たかが、リモブ相手になにやってんだか」
《キュイーン》
モンスターは相手を止まらせてからいたぶるのが好みだったらそしく。再び襲い掛かる音波による攻撃はどこか楽しげに響く。
「ぐわ~~!」
「っゃ~~!」
反射的に先輩達は手で耳を押さえて守るが。俺は、お構いなしで進む。
「っくしょー、なんなんだよこりゃ」
【敵モンスターによる音波攻撃により聴覚に深刻なダメージ確認。戦闘行動に問題発生。至急撤退行動を開始してください】
「もとより戦ってなんかねぇだろ! 全力で逃げてんだよ!」
俺は歯を食いしばって、ずるずると膝を引きずりながらの退避を続ける。
いくら痛みを切り離したとはいえダメージは深刻みたいだ。頭がふらふらする。
思考力を根こそぎ奪っていかれる感覚だった。
【了解。今後の行動は敵モンスターからの撤退に決定。敵モンスターによる遠距離攻撃範囲からの離脱に成功。報告。敵モンスターの攻撃は3メートル以内に対象が居なければ発生しない事が判明。敵モンスター移動開始。現在の移動方法による最大移動速度は秒速10センチメートルと判明。秒速10センチメートル以上の速さでの撤退を順守して下さい】
「了解だ。始めて意見が合ったな、ナナシ」
【了解。今後は退避行動を第一と考えてサポート致します】
通常時なら秒速10センチなんて徒歩でも楽勝だろうに……
今の状態では、あまり余裕がないと感じた。
幸いにも、モンスターの発生した場所が自動販売機の中だったため、モンスターがホームに降り立つまではアドバンテージがある。
ずるずるずると――
モンスターは、自動販売機を這い降りるとコンクリートの上を俺達に向かって進み始めるかと思えば⁉
《ズガン》
トゲの付いた触手をコンクリートに打ち付けて跳躍。
【報告。敵モンスターの移動速度に変化発生。新たな移動方法による最大速度は秒速1.5メートル以上と推定。次の行動まで3秒】
「はぁ⁉ なんだよそりゃ⁉」
《ズガン》
再び、地面から伝わる振動を感じる。
【警告。敵モンスターが攻撃による有効範囲に到達する可能性大。現在の退避速度では回避不能と判断。速やかに錘を捨てて単独退避する事を提案】
オモリ⁉ 先輩達がオモリだと‼ 捨てろだと‼ ふっざけんじゃねー‼
【報告。敵モンスター移動を選択】
意地でも放してなるものかと膝をすりながら全力でホームの端を目指す。そこに何かがあるわけじゃない。
ただただ、逃げるだけ。どんなに不恰好でも逃げる事しか頭になかった。
《ズガン》
モンスターが跳躍し、俺の前にべしゃりと嫌な音を立てて舞い降りた。
始めて目にしたモンスターはヒトデとタコを足して二で割ったような姿をしていて。触手と思われる四本にはそれぞれ先端に鋭い爪があり。
真ん中の盛り上がった部分には、大きな穴が三つ。先程飛ばした、突起物が在った場所だ。
それが、こちらを向いていて、ゆっくりと――先程コンクリートに突き刺さった物と同じ物が中から顔を出してきた。
後は、それが三人めがけて放たれるだけである。
【警告。敵モンスターに回りこまれました。】
もしも、話し合いが通じなくて圧倒的で一方的な暴力を仕掛けて来るヤツに遭ってしまったのならば――
交渉なんて諦めろ。謝って許してもらおうなんて思うな。そもそも何も悪いことしてないのに謝って許しを請うこと自体が間違っている。
逃げたって無駄。どうせ追い迫られて痛い目を見るだけだ。
だから――
そんな境遇に出くわしたのならば、正解は一つ。玉砕しかない。
どうせヤラレルならば、自らその身を差し出す他選択の余地はないのだから。
分かっていた。そんな簡単なこと身をもって知っている。
でも――
俺は、それ以上に二人を守りたかっただけなのだ。
もう、笑うしかなかった。
あはははは、バカだな俺は…。でもまぁいいか…。死ぬ前に女二人も抱きかかえて両手に花なんだぜ。
鬼畜だの外道だのとののしられるであろう日々の中で最後に見た夢だとすりゃ、じゅうぶん過ぎんだろ、これ。
一人は、すっげー綺麗だった。眼が怖くて怖気づいたけどな。
もう一人は。すっげー可愛かった。胸も大きくてふかふかしてそうだった。しかも、今なんて脇に抱えてるから腕に当たってるんだぜ。もっとも、その感触を味わってる余裕なんてなかったけどな。
そんな、幸せな終わり方を噛みしめる中――
【警告。至急錘を捨て退路を確保して下さい。現在のまま攻撃が再開された場合の生存率0%。報告。敵モンスター攻撃を選択。先の尖った硬化外皮の射出攻撃と断定。次の攻撃まで3秒】
「また意見が合ったな。その案にも賛成だ!」
抱えていた先輩達を放し左右に突き飛ばした。
左で抱えた大きな先輩は、なんとか反応し転がりながらも対角線上に退避した。
右で抱えていた小さな先輩は、「いやー! 捨てないで~!」予想に反して抱きついて来た。
横からのタックルをまともに食らい。その衝撃で俺と小さな先輩は地面に倒れこむ。コンクリートの硬さが不思議と気持ち良く感じた。
あぁ…こんな可愛い娘と最後を迎えられるなんて俺は最高の幸せ者だな。
そんな夢心地の視界には予想外の黒い物体が映り込んでいた。
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