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「なぁ、ノエル! 弱点とかってないのか?」

【回答。敵モンスターに弱点は無し。一定のダメージポイントを稼ぐ必要あり】


 どちくしょ―!


 初日のヤツよりも今回の方が溶解レベルが高い、なにかないかと周りを見ても俺に何とかできそうな物はなにもなかった。


【報告。敵モンスター溶解液攻撃を選択。ターゲットはブルー。次の攻撃まであと3秒】

「ブルー! 溶解液攻撃か来る何とかして相手の口をふさいでくれ!」


 まるなげもいいところのひどい指示である。

 まるでブラック企業の上司みたいだと思っていたのは俺だけだったらしい。


「了解だ!」


 言うが早いか、ブルーは近くに在った自動販売機を軽々と引っこ抜き巨大金魚の口を見事に塞いで見せた。

 なんつーパワーだよ! 俺もレベルが上がるとあんな事が出来るようになるんか⁉

 少なからず漏れた溶解液が地面を溶かしたりしてるが、幸いなことに人的被害はない。

 ブラックさんが手あたり次第、近くに居た人達を半ば力づくでどかしてくれたからだ。 


【報告。敵モンスターこちらに防御手段ありと認識。突撃攻撃を選択。ターゲットはブルー。攻撃開始まであと3秒】

「ブルー次は突撃してくる! カウンターを食らわせてやってくれ!」

「了解だ!」

「なぁ、ノエル! 俺も一撃くらい入れられねぇか?」

【可能。各部誘導優先順位を変更することで、ある程度のダメージは期待できます】

「だったらブルーのカウンターに合わせて相手が止まったところを串刺しにしてやれ」

【了解。安全装置解除。肉体制御開始。運動領域抑制装置解除。各部伝達系統正常に接続完了。基本運動性能150%で固定。動体視力向上完了。味覚、嗅覚神経遮断。心拍数正常に上昇中。各部神経伝達速度最大で固定。感覚判断基準完全共有回路構築成功。各部誘導優先順位。第一をノエル。第二を克斗に変更】


 ノエルによる身体の使い方は、ある意味すっごく勉強になった。

 ブルーが見事に右の拳でカウンターを食らわせたところに合わせて大きく右足を踏み出し。全身を鞭のようにしならせながら左肩に担いだ刀もどきを左手一本だけで投げ飛ばすと――半回転し見事に金魚のどてっぱらに突き刺していた。

 そこにとどめとばかりにブラックさんが上空から強烈な、かかと落としでモンスターを地面と激突させて撃破していた。

 キーンとかん高い音を立てて刀もどきが地面に転がる。


【報告。戦闘終了。各部誘導優先順位。第一を克斗。第二をノエルに変更。確認、克斗の意思で肉体制御は可能ですか?】

「あぁ。ばっちりだ」


 身体は普通に動いてくれた。


【報告。各種感覚機器及び動作機器を初期状態に復帰完了。各種動作機器に複数の問題発生】


 ――そして。


 俺はまたしてもお姫様抱っこで式部家の屋上まで送られてきたのである。


「まさか、自分で言ってた事を無視してまでモンスターを1日2回も発生させるとは思わなかったよ」


 ブラックさんが今日の反省会を始めた。


「やっぱ、カネルのヤツは信用できねぇっすよ!」

「そうだな、相手がなりふり構わずと言うのならば、こちらも相応の覚悟が必要だろうな」

「あの~。素朴な疑問なんですけどカネルって人はそんなに悪い人なんですか?」

「あぁ、私達の事は実験動物くらいにしか思っていないような輩だよ」

「げ……確かに悪人ですね」

「そんなことよりもレッド! お前ってホントスゲーんだな!」

「そうですかね……今回は俺、一撃入れただけですよ」

「や、そうじゃなくってだな! 俺ら二人だけだったらどんだけ被害出てたか分かんねーような状況だったんだぞ!」

「確かにブルーの言う通りだ。正直自動販売機一つくらいでなんとかなるなら安いものさ」


 そういえば、レベル3クリアが目標とか言ってたもんな。

 今のところまだレベル1だし、もっと強いモンスターが湧くとなると……前途多難なきがしてならない。


「ちなみに、二人が叶えたい願いってなんなんですか?」

「私は、国家転覆だな」

「俺は、警察が正義の組織だって立証する事かな」


 聞き違いかな? 今ブラックさんとんでもないこと言ったような気がしてならない。


「あの~。なんか二人の叶えたい願いって正反対じゃないですか?」

「そうでもないのさ。私が願うのは私達の情報は一切漏らさない事」

「そして俺が願うのは警察に自首してもらうことだからな」


 なんかすごく平和的な内容な気軽すのになぜに国家転覆?


「まぁ、詳しい理由ははぶかせてもらうが。ようするにカネルが警察に自首した時。私は特定の者がこのスーツを悪用すると考えている」

「そして俺は、警察がそんなことするはずないって思ってるってことさ」

「正直なところ2人だけになってしまった時にはどうなることかとも思ったがキミが居てくれれば何とかなるかもしれない」

「そうですかね?」

「あぁ、今日だって2回目はねぇって完全に油断してたからな。もしレッドが書き込みしてくれてなかったらって思うと吐き気がするぜ」

「確かに、とんでもない大惨事になり。警察どころか軍隊が動いていたかもしれない」

「言われてみれば、確かに……」


 あれだけ強大な金魚もどきが殺戮の限りをつくしていたかもしれないと思うと吐き気がする。


「とりあえず明日から私達は掲示板を確認する頻度を高めレッド一人に負担がいかないようにしよう」

「了解っす」







 なんとかして家までたどり着いた俺は――。

 またしても玄関で倒れこみ、二人から手厚い看護をしてもらったのである。






次回【レベル1ボス戦】

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