06
「すまん。こうなった理由はたぶん俺のせいだ。とにかく普通に会話したい。だからとりあえずキミの名前を教えて欲しい」
【否定。現状はプレイヤーNo.2の戦線離脱に伴う欠員補充。確認。会話に関しては問題ないと判断。問題があれば指摘して下さい。可能な限り改善を試みます。説明。現在名前と呼ばれるものは設定されていません。提案。名前を付けた方が良いと判断したのであれば容認】
だめだった、普通の会話をしたいという意思を伝えたくても伝わらない娘らしい。
もう、ツッコミ出したらキリがないくらい、つっこみどころが満載である。
相手が、自分の言いたいことしか言わないのなら、こちらも言いたいことだけを言おうと決めた。
「とりあえず、呼び名は必要だ。俺は
【了解。今後はプレイヤーNo.7を克斗と呼ぶことにします。確認。克斗と呼ぶ事に問題はありませんか?】
生まれて始めて女性に呼び捨てにされた気がした。
思ってた以上に悪い気はしなかった。
「っと! すまんが、もう一度頼むっ!」
【質問。もう一度とは何をすればよろしいのでしょうか?】
「ああ、克斗って呼んでくれ」
【了解。克斗】
思った通りだった。思い描いていた以上に女の子の声で自分の名前を呼び捨てにされるのは心地良かった。
にやけているのが自分でも分かる。やはり病んでいる。確実に自分は病んでいると思った。
思わずガッツポーズなんぞとっちまってた。がぜんやる気が満ち溢れてきた。
「っと、そうそう。とりあえずキミの名前なんだが、後でじっくり考えるから、とりあえずナナシとでもしといてくれ」
【了解。初心者用サポートシステムはナナシと呼ばれる事を容認します。確認。初心者用サポートシステムをナナシと呼ぶ事に問題はありませんか?】
「ああ、問題ない。どうせ直ぐに名前は決めるつもりだからな。それといちいち確認なんかしなくていい」
【了解。暫定名称ナナシに決定。以後、ナナシとおよび下さい】
「了解だ!」
《おはよー! 今日も元気出していこー!》
携帯の目覚まし機能が、今日も変わらず励ましのエールを送り始めた……。
入学早々ひどく落ち込んだ気分を少しでも癒そうとダウンロードした人気アイドルグループの一人。
リサちゃんの元気な声が今日は不思議と遠く感じた。
昨日までは、何度となくリピートされる彼女の声を聞いて無理やり気合を入れていたのに。
例え、見えなくとも、触れられなくとも、誰かが自分と共に居てくれるという安心感にも似た感覚。
朝起きたら変な声が聞こえて、妙な文字が見えるようになりました。
そんな事言ったら確実に入院コースな出来事に直面しているというのにである。
《おはよー! 今日も元気出していこー!》
枕元に在る携帯を拾って目覚ましを止めれば、待ち受けに設定している青と白のストライプビキニを着たリサちゃんと目が合う。
この笑顔にずいぶん支えられてきたはずなのに…なぜか、ただの水着写真にしか見えなかった。
軽く首をひねってみるが答えは分からない……。
その代わりだろうか。全く的外れな名案が思い浮かんだ。それは、リアルモブ情報局の存在であり。
ある意味。自分の脳内にとつじょ居候し始めたと言っているナナシとの共同作業ともいえる。
ギャルゲーを借りる際に言われた言葉。それを鵜呑みにするわけじゃないんだが。
ナナシと共に生きようと決めたのならば、こういうのもアリだと思ってリアルモブ情報局というサイトに接続した。
携帯の画面には相変わらずの痛いトップページが表示され――
そこには、でっかく赤い文字で、世界は未曾有の危機に見舞われている。なんて書いてあるのだ。
基本的に現在確認されたモンスターの種類や攻撃方法から危険度等々。主にモンスターに出遭ってしまった時の対応が記されている。の…だが。ザコもザコ。あまりの弱さからゲームに出てくるザコモンスターの総称。通称モブキャラ扱い。
見た目は子供の落書きみたいで、今はソフトボールよりも少し大きいくらい。
それがリアルに湧くから、略してリモブとか、落書きみたいだからラグモンとか呼ばれるようになった存在である。
最近では、それなりに迷惑もかけているらしく。サイトに書かれた文章も多少はその価値を見い出しているようにも感じた。
起きがけに、いきなり言われた、モンスターの発生予告。
それがリモブの事だと安易に直結し。疑う余地もないくらい――ココ最近では、その存在が常識化されつつあった。
俺は、ちょっぴりわくわくした気分でサイト内にある掲示板のページを開き書き込みを始める。
大半はガセネタや、いいかげんなことばかりが書かれているのだが。
中には本当に発生した場所がリアルタイムで書き込まれる事もあるし。それを見て行動する者も少なからず居る。
はっきり言って、モンスターが湧いたからといってそれほど騒ぎ立てるほどのものじゃないのだが。
ソレを狩る存在には興味があった。モンスターが湧くようになってから現れた 戦隊ヒーローもどき。サイレントと呼ばれる連中である。
一部動画サイトでは彼らがモンスターと戦う姿をアップテンポなBGMに乗せて配信していて。日増しに視聴カウンター数の増加率も増していた。
俺にとっては地元の話。出来る事ならあんな映像ではなく、直に見て見たいと思っていた。
【警告。現在克斗が行おうとしている行為は敵プレイヤーに対する情報提供に該当します。提唱。即時に現在の行為を中止し情報保守をして下さい】
「は…? なに、もしかしてヤバいの?」
予想外の横槍に対し、思わず普通の人と会話しているみたいに応えていた。
【回答。ルール違反にはなりません。警告。敵プレイヤーにモンスターを横取りされる可能性が発生します。提案。直ちに現在の行為を中止し単独撃破による最高ポイント獲得を狙うべきと判断】
「はいはい、そうですかっと」
やはり、ただ時間と場所を書いただけでは、外した時に恥ずかしいし。情報の信憑性なんて半分も信じちゃいない。
それでも先程ナナシから聞いた時間と場所を再確認すると――書き込みボタンを押した。
後は、運次第。本物が拝める事を祈るだけだった。
【質問。克斗の意図が判断できません。現在の行為に対する理由を教えて下さい】
「簡単な答えだろ。敵が居るってんならお手並み拝見といこうかと思ってな」
【了解。克斗の判断は的確と認めます。提唱。ナナシは敵の詳細情報入手が可能。確認。本日の行動目的は戦闘ではなく、敵プレイヤーの情報収集と判断してもよろしいですか?】
「ああ、元よりそのつもりだ」
【了解。本日の行動は敵プレイヤー視察と判断します】
「それから、この文字ってゆーか、ウィンドウって消せねぇのか?」
ゲームやってる時には、特に気にならなかったが――文字が表示されてる時の死角がとにかく大きい。
普通に階段踏み外しそうで怖い。
【警告。現在克斗が使用可能な言語には同音類義語が多数存在。よって戦果が低下する可能性があります】
「いいんだよ! とにかく消せるなら消してくれ!」
【了解。サポートシステムのレベルを落とします】
「お……」
普通になった。どこを向いても普通に見える。
「よしっ! んじゃちょっと早いが行くとしますか!」
俺は身支度をすると学校とは反対側の駅に向かって歩き始めた。
ほんの少しではあるが彼女とのデートみたいで足取りはとても軽かった。
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