第48話 とある『ルート』の話 side???
「…………え」
目が覚めた。
いや、正確には目が覚めた訳ではなかった。
俺は知らない場所で
(どこだ……? ここ……)
どこかの街の、寂れた路地裏にも見える。
空は夕焼けが近いのか、ぼんやりと赤く染まっていた。
全く、身に覚えのない場所だ。
(確か俺は、ダンジョンでゴブリンジェネラルを倒して、そこから──)
覚えていない。
エイミはどこにいったのか。
ダンジョンから脱することは出来たのか。
────俺は、どうなったのか。
そんな、幾つかの疑問が涌き上がる。
しかし、今は考えていても仕方がなかった。
俺は状況を確認するために裏路地を抜けようと歩き始め──、
そこで、とあること気付いた。
(……なんか、
そう、目線が高いのだ。
そう疑問に感じた俺は、自分の体を見下ろして。
「────え?」
俺の喉から、間の抜けた
俺は、制服を来ていた。
あの、
「 」
絶句する。
なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ、なんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれ──、
なんなんだ、コレは。
その錯乱した思考の中で、俺はとある仮定を出した。
(……もしかして、
だがしかし、辺りの、路地裏とはいえいかにも西洋チックな光景がその可能性を切り捨てる。
(夢……なのか? いたっ)
頬をつねるが、痛い。
夢では無さそうだった。
それからずっと考え込んでいたが、ついぞ結論が出ることは無かった。
幾多のトライアンドエラーに俺が諦めかけていたその時、突如として女性の悲鳴が聞こえた。
それと同時。裏路地を形作っていた家が一部、いや半分
「!?!?!?」
俺のちょうど目の前を、家が分解されながら飛ばされていく。
轟音
俺はその猛威に目を瞑ることしか出来なかった。
だが、直接当たって無いとはいえ俺の元にも突風が牙を剥いた。その突風の勢いに耐えることの出来なかった俺は、後ろへと吹き飛ばされ何十回と路地裏を転がっていく。
「~~~~~っ!?」
(いたいいたいイタイ!?)
たったそれだけで激痛が全身を襲った。
(もしかして、ステータスも戻ってる!?)
この程度、今までなら何とも無かった筈だ。
それなのに、こうまで痛いのはそれしか考えられなかった。
「あぅ」
そして、体が止まる。突風も止んでいた。
未だに激痛が全身を支配するが、体に鞭を打ち、無理矢理立たせる。
そんな俺を待っていたのは、残酷な光景だった。
先ほど、
(一体、何が)
俺は足を引き摺りながら、皮肉にも家が無くなったおかげで
「 」
絶句した。
結論から言えば、ここはジガートでは無かった。
俺の前方には、大きな城が立っていた。
土地はジガートとは比べ物にならないほどに広いことが見てとれる。そしてそれは、どこかの王都を彷彿とさせた。
だが
荘厳だったであろう城は、何故か途中で途切れていたのである。上半分がすっぽりと無くなっており、不格好極まりない城になっていた。
街は燃え、崩れていた。
夕焼けかと思っていた赤は、それだった。
文字通り、ぐちゃぐちゃだ。
黒煙が至るところで立ち上っている。
人の姿は欠片も見当たらず、辺りには炎が立ち上がる音だけが虚しく響くだけだった。
「……っぁ」
俺は何分かの間、固まっていた。
完全に俺のキャパシティの限界を超えていたからだ。
気が付いたら前世の姿で知らないところにいて、挙げ句そこは既に崩壊していた、なんて誰が想像出来よう。
数分後。
俺は
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おかぁさん、痛いよぉ……」
「!」
20分ほど街をさ迷っていると、微かに声が聞こえた。俺はその声のする方へと足を引き摺りながら歩いていく。声は脇の路地裏から聞こえていた。
そこには、年端もいかない少女がいた。少女は半壊した建物に寄り添いながら足を抱えて座っている。
「大丈夫か!?」
俺がそう言いながら早足に近寄るが、少女はこちらに気付かず、俯いたままだった。
俺は少女の肩に手を伸ばす。
「……あ」
そこで気付いてしまった。
少女の右腕が、肩から無くなっていることに。
「うわぁっ!?」
俺はヘタレた声を上げながら情けなく尻餅をついた。
少女の右肩からは、未だに血が流れていた。
「痛いよぉ……」
少女は未だに俺に気付いていない。
(そ、そうだ、回復魔法……!)
俺は咄嗟に回復魔法を詠唱するが、そこで違和感を感じた。
詠唱をすると必ず周囲に拡散する筈の魔力が、一向に出てこないのだ。
だが、あぁ、そうだったと。
今さらながらに思い出す。
(ステータス、戻ってるんだ……)
魔法のない前世の体に戻ったと言うことは、つまりそういうことであった。魔法が使えない。いくら詠唱を覚えていようとムダである。
だが、それで諦めるのもまた違った。
もしかしたら近くに回復魔法が使える人がいるかも知れない。その人の所にこの少女を連れていくことくらい、出来るかもしれない。
少なくとも、今の俺にだってそれくらいは出来る。その俺は一縷の望みに掛けて、少女に手を伸ばし──、
「──え?」
その手は、敢えなく宙を切った。
いや、宙を切ったというのは語弊がある。
正確には、俺の手が少女に
少女を傷付けることもなく、ましてや俺の手も無事。
なぜか。
「 」
一瞬思考が停止する。
未だに少女はこちらに気が付かない。
いや違う。
そもそも、
(姿だけじゃなく、声だって認識してもらえない)
つまりそれは、この少女に対して俺は何も出来ないということだった。
それを肯定するかのように、少女の体はゆっくりとこちらへ傾き、俺の脚にもたれ掛かることもなく、透けて、地面へと臥せた。
「……っ」
少女の青白い頬には涙が伝っていたが、それが新たに供給されることはもう無い。
シニカルに少女の血だけが、腕から細々と流れ続けていた。
いつかそれも止まるだろう。
「……なんだよ、これ」
誰にも届くことの無い声が、この世界に消えていく。
「なんなんだよこれ!」
それでも声は俺の無力を嘲笑うかのように、路地裏に響いていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「 は?」
それから更に一時間ほど歩いた頃、俺はそれを見た。
あの、途切れた城の前だった。
俺は見上げていた。
なぜならば、そこには山があったから。
いや、山というよりは丘くらいの大きさだ。
それでも俺は、それがどんな山よりも高く感じた。
その山は、カラフルだった。
いろんな色でできていた。
緑に、青、黒や白。
そして、
その山は、
「うっ……ぷ」
吐き気を催すほどの劣悪な
山は現在進行形でカラフルから
その山は恐らく、
「 」
言葉が出ない。
だが、それだけでは終わらなかった。
吐き気を催して尚、俺の目線はその頂上から離すことができないでいた。
「……な、んで」
そこには、彼女がいた。
山の上に立って、全てを見下ろしていた。
彼女には、表情が無かった。
彼女は、赤に染まった剣を持っていた。
彼女は、
彼女は、見慣れた姿をしていた。
間違える筈もない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます