どうやら俺は、たぬきっ娘に転生してしまったようです(キレ気味)

阿紫楽斎(Acixa)

幼年期

第1話 思ってたのと違うんだが……!?


 『転生』と言う言葉をご存じだろうか。

 そう、あの転生だ。


 ラノベ等で、使い古されてしまっている、アレ。

 トラックに轢かれることが前提条件みたいなものになってしまっている、皆さんご存知のアレのことだ。


 あまりにもテンプレ過ぎるその展開に、ラノベの一読者いちどくしゃである俺でさえも『飽きてきたな』と思わざるを得なくなってきていた、そんな矢先だった。


 

 トラックに轢かれ、そして───


 のは。



 因みにだが、自分が死んだときに神にも出会わなかったし、チートなスキルを与えられることも無かった。


 でも、大体こういう系の大道ってやっぱりハーレムじゃん?


 チートは無くとも、今もこうして前世の記憶があるし、ちょっと期待した。

 いや、かなり期待した。転生先が有力な大貴族だったり、めっちゃイケメンでモテたり……なんてことを想像していた。



 でも、違った。


 


 俺は………俺の今世は………


 タヌキの獣人(♀)だった。



 ど う し て こ う な っ た


 まあ、そうは云ったものの、心当たりはあるんだけど。


 別に、特別タヌキが好きだったという訳ではない。確かに可愛いけれど、俺は猫派である。



 しかしあの日───俺が死んだ日。


 高校への登校途中で、道路にタヌキが横たわっているのを見かけたのだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



『こんなところにタヌキ?』


 勿論、最初はスルーしようとした。


 けれど、もし帰る時に轢かれたタヌキを発見してしまったりすれば、罪悪感がヤバいことになるだろう。

 そう思った俺は、俺は仕方なくタヌキを森に帰すことにしたのである。


 時刻は朝6時半であり、車はまだ比較的少ない時間。

 実際、車は見当たらない。


 自転車を道路の脇に止め、タヌキに近づく。

 すると、タヌキは警戒したようにゆっくりと俺から後ずさりしたのち、力が抜けるように崩れた。



『っ! おいっ、大丈夫か!?』



 言葉が通じる筈も無いのに、思わず呼び掛けてしまう。

 当たり前だが返事はなく、当のタヌキは横たわったまま身動き1つさえしない。


 一瞬焦ったが、胸の辺りが上下しているため死んだわけではなさそうである。

 少しだけ安心していると、そこで、先程タヌキがいた場所に少量だが血の跡があることに気付いた。

 

 なるほど。

 こんなところにタヌキが1匹でいるのは変だとは思ったのだ。恐らく俺が来る少し前に、バイクか何かで轢かれたのだろう。

 

 俺は直様すぐさま予定を変更し、動物病院に向かうことにした。

 ウチの猫が昔お世話になった病院である。

 タヌキを見てもらったことは無いが、タヌキは犬科と言うし、多分大丈夫だろう。


 俺の自転車にはカゴというものは存在しないので、右手に抱えていくことにした。

 結構重たいが、これでもバリバリの運動部なので支障はない。


 そうして俺は、自転車を漕ぎ始めたのだった。

 




───そして30分ほど道を突き進んだ頃。

 動物病院まであと少し、といったところでは起きた。

 急に、抱えていたタヌキが暴れだし俺の腕から抜け出してしまったのである。


『危ないっ!』


 俺の言葉とは裏腹に、タヌキは道路に入っていく。

 既に車はたくさん通っており、数瞬後にタヌキがどうなるかは想像に容易かった。


 焦った俺は何を思ったのか、自転車を乗り捨てて、道路へと出ていってしまったのだ。


………いつもならあんなことはしなかった。多分だが、熱くなっていたのだろう。


 結局、俺はタヌキを抱えたところでトラックに轢かれて死んでしまった。 


 恐らく、タヌキも。



 タヌキにとっても、いい迷惑だっただろう。もしかすると、あの時放っておけば、誰かが助けてくれたのではないだろうかと思う。

 俺もあのタヌキも、死ななかったのではないだろうか、と。


 視界がスローになっていく中、全身が壊れる音を聞きながら、俺の意識は消えていったのだった。

 



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



──と、そんなことがあって、今に至る。


(いや、フザケんな。そもそもあそこでタヌキが暴れたのが諸悪の根源でしょうが!)


 今更後悔しても遅い。それは分かっていても、どうにも腹が立つ。

 前世では確かに隠れオタクではあったが、友達はたくさんいたし、充実した生活を送っていたのだ。

 彼女はいなかったけど。



 ま、まぁ気を取り直して自己紹介だ。

 今の俺は生後2ヶ月である。名前はまだ無い。


 何故無いのかと言うと、どうやら生後12ヶ月になるまで名前をつけてはいけない、と言うこの種族の風習らしい。


 俺の種族は──さっきも言ったが、所謂いわゆる『タヌキ』であった。



………ここで、認識の齟齬を正しておかなくてはならないだろう。


 この世界で言うところの獣人とは、耳だけしっぽだけ、とかの有りがちな、そんな──もといご都合主義なものではない。


 そう。

 

 だ。


 すなわち、二足歩行の知性があって言葉を喋る人間サイズの動物、と考えてくれれば良い。服は着てるけどね。


 初めて目を開いた時は驚いた。目の前にデッカいタヌキ(父)いるんだもん。泣いたわ。


 その後は、自分の手が焦げ茶色の毛で覆われてて終いには立派な黒い爪が生えてきているのを見て、めっちゃ困惑したし、夢だとも思った。


 でも、これでかれこれ二ヶ月である。夢という可能性は無くなってしまったし、もう、割りきるしかない。タヌキ獣人(♀)として生きていくしか無い。

 

 メンタル崩壊なんてしてる暇はない。思ってたのと違いはしたが、折角異世界(断定)に転生したのだ。

 楽しまないと損である。


 因みに、何故♀なのか分かったのかと言うと、『明らかにアソコが軽かったから』だ。



 色々と物申したいところはあるけれど、こうして俺の異世界 (人外TS転生) 生活は、幕を開けてしまったのである。



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