10.他国の王子
その昔、マルクスという青年により、争いの絶えなかった国々は一つの大きな国へとまとめられました。それが現在のマルクシェル帝国です。マルクシェル帝国を一つの国として治めるには大きすぎるために、海や山を隔てて5つの国に分断し、マルクシェル帝国を中心に東西南北の国で構成されております。
そして、今回のループに関係するのは西の国 ヴァルタニア国の第二王子 アルビス・ヴィ・ヴァルタニアでした。彼は10歳にして暗黒魔法の取得に成功した者です。魔法の研究が好きなだけの少年だったアルビスでしたが、彼の国では暗黒魔法の取得者は100年ぶりであり、魔法力によって王が決まるこの国では、第二王子を次期国王へと支持する声が多く上がったのでした。仲の良かった兄とはすれ違い、研究よりも王になるための勉強に日々追われていました。
アルビスの生活に転機が訪れたのは、魔法の勉強に訪れていたウィリアムとの出会いでした。姉のことが大好きな変わった男でしたが、魔法の勉強に対する姿勢が大変好ましい男だったのです。彼に対して臣下にならないかと提案したのは3度。全て姉を理由に断られているのはアルビスにとっては面白い話です。
そして、気のあう友人との出会いが帝国を訪れるきっかけになります。基本的に帝国からの招待には王が赴くのですが、ウィリアムの故郷を見たいという気持ちと、ウィリアムの話に出てくる姉に会ってみたいという興味本位から彼は王の代理として中央帝国へと赴いたのでした。
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アルビスが聖女の降臨によって訪れた城で、一目惚れしたのが王妃教育で城に訪れていたシュナイツ家の娘 ベアトリーでした。そう、話に聞くウィリアムの姉です。外見の美しさだけではなく、一つ一つの所作に目を奪われてしまったアルビスは、今までに感じたことのない胸の高鳴りに驚きます。
アルビスと共に来ていたウィリアムが姉の元に駆け寄ったことで、よく話に聞いていた姉だと分かりました。話でも興味の湧く人物だった彼女と実際に会って、もっと知りたくなったのは予想外だったかもしれません。そして、家族にだけ見せる笑顔がたまらなく愛おしく思う感情が不思議でたまりませんでした。
簡単な挨拶をして別れましたが、ベアトリーの顔が頭から離れず、次に会えるのを楽しみにしていました。しかし、彼女は皇子の婚約者のために親しくすることはできません。それでも、彼女が皇子の婚約者でなければ親しくなりたかったと思う気持ちを抑えられず、彼は初めて恋の苦しみに眠れないのでした。
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次にアルビスがベアトリーに会ったのは彼女の心臓が貫かれた瞬間だった。彼女の幸せを願っていたアルビスにとって衝撃的な場面でした。愛しい人の血で地面が染まる光景、それを見て笑う聖女。何よりも殺した本人は泣いている。受け入れがたい。
だからこそ、アルビスは暴走してしまったのかもしれません。無意識に唱えたのは時を繰り返す暗黒魔法。幾度となく愛しい人から殺されたベアトリーを苦しめたのは、アルビスだったのです。
幸せを願った女を地獄へ。アルビスはその事実が受け入れられずにベアトリーが何度も殺される出来事から目を逸らしていた。そして、50回。アルビスは自分の命と引き換えに終わらせようとあの場所へ向かったのだった。
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