デスパラ=神として転生したオジサンは下界でパイ作り職人を目指す=
流転小石
第0章 世界の全ては誰かに設定されている
第1話 激突を制すモノ
それはこの世界に存在する一つの大陸で起こった戦いだ。
現世に存在する聖と邪、善と悪、陽と陰、光と影、それは勇者と魔王の激突だった。
戦いは魔王の住む城に勇者と仲間たちが決死の覚悟で乗り込んでいた。
そして大陸の覇権を制する戦いに終焉が訪れようとしていた。
それは聖と魔の勝敗の決する時だ。
人族の帝国正規軍は正面から二万の軍勢で人海戦術を挑んでいる。
その二万を陽動に使い、城の裏手から本命の勇者たちが魔王の玉座へ一気に攻め込む作戦だった。
迎え撃つ魔王軍は籠城作戦の元、一騎当千の将軍達が奮戦していた。
ゴブリン等の雑兵にも使えない魔物達は側面から人族に横やりを入れてチョッカイを出し、精鋭で固められた堅牢な魔王城ではおびただしい人族と魔物達が屍の山を作っていた。
快進撃を進めていた正規軍の尊い命を削り、勇者たちの仲間も次々に命を落として迎えた魔王の玉座の前に立つ一行は既に二人だけだった。
その場は過酷な戦いを生き残ったわずかな兵力で最終決戦に及んでいた。
方や額に二本の角を持つ黒髪に赤い目を持つ魔王と側近の参謀魔女も二本角だ。
方や金髪で銀眼の勇者と聖女は、帝国から支給された聖なる鎧と武器を
どちら側も既に死力を尽くし、後には引けない戦いに残った力を相手にぶつけるだけだった。
「勇者様、回復魔法行きます!!」
「魔王様、補助魔法行きます!!」
両方の側近が戦闘補助魔法と回復魔法を数回使って崩れ落ちる様に横たわった。
度重なる戦闘と魔力の枯渇だろう。
それほどの激戦だったのだ。
「ゆ、オドリ・・・」
「ま、バーネッ・・・」
そして渾身の魔力を込めて放つのは、互いが持つ最大級の魔剣の斬撃だ。
激突する勇者と魔王。
「これで最後だぁぁぁぁ!! 斬魔剣!!」
「貴様こそ無に帰れぇぇ!! 極破斬!!」
勇者は勝ったと確信した。
何故ならば全ての魔を分断する衝撃波は、魔法も切り裂いて魔王に届くと信じていた。
魔王も勝ったと確信した。
何故ならば全ての聖なる事象を打ち砕き、確実に勇者を打ち滅ぼすと信じていたからだ。
二つの攻撃が交差した刹那。
衝撃波が消えた、と同時に声が響いた。
「ちょっと良いかな。俺の話を聞いてくれ」
(何いぃぃぃっ!!)
(なんだ、これはっ!!)
全くの場違いな第三者の声とは別に魔王と勇者が驚愕した。
それは自らが放った、必殺の衝撃波が”無くなった”事よりも、違う事象で驚き絶句したのだ。
今は最終決戦の真只中だ。
そして様々な身体強化魔法が使われている。
装備している鎧にも沢山の魔法が付与されている。
勇者も魔王も同様だった。
しかし、その声が聞こえた途端、身動きが取れなくなっていたのだ。
目線も動かず二人の目には宿敵しか映っていない。
話す事も不可能だった。
(一体どうなっとる? 奴の力か? いや違うな、奴も同様の様だ。さっきの声の仕業か・・・)
(ええっ? 何で動かない? 魔王も固まってるようだし・・・何が起こったんだ? あの声が聞こえた途端、体が動かなくなったから・・・)
すると何やら回復したのが体感出来た二人だ。
それは癒しの魔法に、戦闘で高ぶった感情を沈静化する魔法だった。
「混乱してるようだから、もう一度言うぞ。俺の話を聞いてくれ。お前たち四人は体力を回復したから大丈夫だ。そっちの二人を連れてこちらに座って欲しい。あ、お互いに攻撃はするなよ」
一方的な説明を聞くと、手を叩くような音がした。と同時に体が動いた勇者と魔王だ。
二人は立ったまま相手を凝視している。
当然だろう。
今し方まで殺し合いをしていたのだから。
「おい、戦うなよ。こっちに来て座れ」
二人が真っ先に見たのは声のする方だった。
先ほどまで何も無かった場所に机と椅子が有ったのだ。
そして手招きする金髪金眼で純白のキトンを着ている男が一人立っていた。
二人は沈黙のままで警戒しながら仲間の女性に詰め寄り声を掛けた。
「バリオラ、大丈夫か?」
「オ、オドリバクター様・・・」
「バリオラ、実は僕たちの戦いを遮る者が現れた」
「ええっ!?勇者様の攻撃をですかぁ!?」
「そうだ。僕も魔王も身動きできなかった」
「一体何者でしょうか?」
「分からないけど僕らと話がしたいようなんだ」
「オドリバクター様、いざと言う時は私を盾に使ってください」
「またそんなことを言って・・・側にいてくれれば良いよ、バリオラ」
「ゾフィ、立てるか?」
「バ、バーネッティ様・・・」
「どうやら得体の知れん強大な力を持った奴が現れたようだ」
「ええっ魔王バーネッティ様のお力をもってしてもですか?」
「ふむ。ワシと勇者二人でも力の差は歴然としておる」
「そんな・・・」
「だが、ワシ等と話がしたいようだから聞いてみるか」
「はい、お供いたします」
ここは魔王城で玉座の間だ。
辺りは先ほどまでの戦闘で調度品や壁が瓦礫と化していた。
城の内外では死力を尽くして戦っている仲間たちが居るのに、周りの戦意を無視して現れた男にその場を仕切られていた。
四人は男を警戒しながら椅子に座った。
「まずは名乗ろうか。俺はディバルだ」
四人は得体のしれない男を警戒して見ていた。
「ところで、君たちの生きている目的は何だ? この戦いに何か意味は有るのか?」
「何言ってるの!!」
「そうよ、我らが種族の優位性を思い知らせているのよ!!」
「はぁ!? 何言ってるのよぉ」
「そっちこそ筋肉で勝とうなんて思わないでね」
「ふんっ、駄肉が吠えるな!!」
「まぁまぁ」
「よさんか」
聖女が男に食って掛かり、横やりを入れた魔女と口論になり、場の雰囲気が女性たちのおかげで緊張が走った。
「はぁ、スクリーバ。飲み物を出してくれ」
溜息をついて飲み物を要望した男だ。
男の右側に勇者と聖女が座り、大きな机を挟み左側に魔王と魔女が座っていた。
男の正面に忽然と現れた長身でエルフに似た男がそれぞれ前に丁寧に飲み物を置いた。
聖女と魔女は当たり前に飲み物を口にしたが、魔王と勇者はスクリーバと言う男に驚愕していた。
何故なら誰も居なかったその場所に忽然と現れた男から只ならぬ力を感じ取ったのだ。
まるで従者の様な、もしくは執事のような服装と
しかし何の脈動も感じさせずに自然と立ち振る舞うスクリーバと言う者に戦慄を覚え、即座にその者を配下に置くディバルと名乗る男に最大級の警戒をする二人だった。
「さぁ飲み物で喉を潤した事だし俺の話を聞いてくれ。今お前たちが戦っているのは魔物として、人族として、主義主張の違いと領土獲得の為だよな? 合ってるか?」
勇者と魔王はうなづいた。
「どちらにも一部の者は違う事を考えている
四人は何か言いたそうな顔をしていた。
だが同族で愚かな行動をとる貴族達の話をこの場に出す事は無かった。
「とりあえずさぁ、改めて”正式に”自己紹介から始めようか」
(何を今更・・・)
(人々を苦しめる魔王の事など・・・)
(愚かな人間達に
互いに相手の意見など最初から聞く気は無かったようだ。
「じゃ魔王から始めようか。立ってくれる?」
何故か素直に立ち上がる魔王だった。
「では、厳つい顔の魔王ティマイオス・コクシエラ・バーネッティこと、転生者の乙女川正五君です」
「何いぃぃぃぃぃっ!!」
「はあぁぁぁぁぁ!!」
「「えええぇぇぇぇぇぇっ!!」」
「乙女川が名字で正五が名前だよ。”おとめがわ”なんてさぁ今じゃ全然似合わないよな」
男が紹介すると全員が驚いたようだ。
「「ちょっと待てぇ!!」」
「どうしてその事を!!」
「どういう事だ、魔王!!」
「魔王様・・・」
「・・・」
全員が転生者を凝視し、嫌な汗が脇を流れる魔王だ。
「まぁまぁ皆さん、落ち着いて」
「「「落ち着いて居られるか!!」」」
「じゃ、こんな話はどうかな。次は勇者が立って」
その場を強引に進める男だった。
「それでは既に三十路になってる勇者クリティアス・ラネウス・オドリバクターこと、転生者の小鯛
「なっ、何で。どうして・・・」
「何いぃぃぃっ!! お前もか勇者よぉ!」
「えええぇぇぇぇぇぇっ!!」
「勇者様・・・」
今度は全員の視線を集めて固まる勇者だった。
「ま、待ってくれ。ワシと勇者が転生者だと知っているお前は何者だ!!」
「まぁまぁ、それは後で説明するので続いて行きましょうか、魔女さん」
自分の事を呼ばれてドキッとする女だ。
「続きまして・・・魔王軍参謀本部で魔王側近の魔女ゾフィ・ロドコッカスこと、小鹿あやめさんでーす」
「・・・」
「何いぃぃ!! まさかゾフィ・・・お前もなのか?」
「「・・・」」
「おやぁ、余り驚かれないようですねぇ」
本人と勇者たちは沈黙していた。
そして全員が聖女を見ていた。
「それでは・・・最後になりますが聖女バリオラ・オルソポックスこと、藤沢
「「「・・・」」」
「ふぅむ。流石に四回目は驚かないか?」
(やはり女性は余計な事を言わなくてよかった)
☆
驚きの転生者達。
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