サプライズ結婚式⑤キャンドルリレー
お色直しの支度を終えて、私はタケルと会場の扉の前に立つ。
スタッフがタケルに火のついたトーチを手渡した。
「明日香」
タケルはちょっぴり緊張ぎみに私を呼んだ。右手にトーチを持ち、左腕を私に差し出す。私は右手を彼の腕に絡め、左手のブーケをきゅっと持ち直した。
再び正面を向いて、準備完了。さぁ、行くぞぉ!
目の前の扉が開く。
部屋の照明は落とされ、私たちにスポットライトが当たる。
皆がこちらを注目しているのがわかる。
ドキドキの中、二人で一礼して部屋に一歩踏み入れた。そして、まずは両親のいるテーブルへ。
「皆さまのお手元のキャンドルに、新郎新婦から愛の火が渡されます」
司会者の声で、タケルはトーチの火を父のキャンドルに近づけた。私はタケルのトーチを持っている手に自身の手を重ね、タケルは左手で私の腰を軽く引き寄せる。
父が自分のキャンドルを傾け、火がそちらに移った。
父はそのキャンドルを隣の母に近づける。そうやって火は次々とテーブル内をリレーしていった。
私たちは、各テーブルを巡り、トーチの火を分け合っていく。
そして、全てのテーブルを巡った後、正面に立った私たちは、自分たちのキャンドルを手にした。
全ての招待客に火が届くと、代表の友人二人がキャンドルを持って前に出て、皆に見守られる中、私たちはリレーされた火を再び受け取る。
友人たちに礼を言い、会場を見渡すと、たくさんの灯火が部屋を暖かく照らしていた。
揺れるキャンドルの火に照らされるのは皆の暖かい笑顔。どの顔にも純粋に私たちの幸せを願う思いが溢れていた。
私は小さく息をのむ。
これから先の結婚生活で私たちは幾度となく困難に見舞われるだろう。
そんな時、私たちは今のこの光景を思い出そう。そうしたらきっと顔を上げて進んでいける。
この尊い愛の火は私たちの一生の宝だ。
そして、私もここにいる全ての人の幸せを祈ろう。
「明日香」
タケルがふいに私の名前を呼んだ。
振り向くと、きっと同じ決意を秘めた、優しくも力強い笑顔が灯火に照らされていた。
私もそれに負けない笑顔を返す。彼が大好きだと言ったとびきりの笑顔を。
「これよりキャンドルの火を優しく吹き消して、この幸せを封じ込めましょう」
タイミングを計った司会者の合図と共に、皆が火を吹き消す。
部屋が一瞬真っ暗になった。そして、暖かい拍手と共に、前方のカーテンが開いていく。一面ガラス張りの壁の向こうには明るく真っ青な空があった。
私たちの願いは空へと高く昇っていく。
けれど、この灯火は心の中でいつまでも消えはしない。私たちの未来を照らす希望となり続けるのだ。
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次は、雪うさこ様です☆
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