向かい席
五味千里
第1話 都落ち
茜色の空が、果てしない田園に
聡太は、雑多な揺れに身を任せながら、一面の
しかしこの鮮やかな自然の発露も、彼の心を決して動かしたりはしない。
彼は都落ちの学徒である。地方の国立大から研究の道を志し、都会の院生となるも夢儚くして帰路についたしがない学生である。
色とりどりの草木も、ノスタルジーを想起させる秋空も、彼にとっては無色透明な記号と化している。
一時、彼は学問の職に就くことを夢見ていた。大学一年の頃に出会った社会学に魅了され、内から湧き出る情熱のままに研究書を読み、己の構想する社会をありありと描いた。
辛酸を嘗めることもあったが、雪に埋もれる種子のようにその
そして遂に見事なまでの卒論を書き上げ、威風堂々と学問の聖地に足を運んだ。
この時、聡太は、帰郷即ち凱旋の換言であるべしとその身に刻む。大旗を振って故郷に錦を飾ることが、蔑視されがちな地方国立大の学友の希望になる、と。
しかし、今の彼にはあの頃の決意はない。
両の眼も、思考も曇天の如く濁っている。
院を辞め、田舎の錆びれた町に帰すこの男に、学問の情熱は残っていない。彼の軸を構成していた全ての
彼にあるのは、残った灰を大仰に扱うだけのプライドと、夢破れた青年特有の途方もない自虐指向である。
いつしか秋空は黒さを帯び、悠久の沈黙を
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