第3話 演技ってナンなのさ
今二人は部員達の目の前で起立した状態でいる。部員達は座って久米らがどう動くのか興味津々に見ていた。
エチュード
いわゆる”即興劇”とも呼ばれる脚本のない劇であり、”ドキッ!!アドリブだらけの自分暴露大会”である。その場の対応力が必要で考える時間が無いのもあり、頭に浮かんできたものを大して精査せずに表に出すしかないヤバイやつだ。かなり訓練された演劇人ならそれでも面白い方向に転がせる事が出来たりするのだけど、今回は入ったばかりの演劇の”え”の字も知らない新人、久米と脚本&雑用担当で演じる事がない大塚が組んだところで何もできそうにないのは明白だった。
(全く、何を考えてるのか…)
大塚は川越を恨めしそうに見つめた。…というか罰だからわざと恥ずかしい思いをさせて自分が優越感得たいだけなんじゃないかとすら感じる。
「それじゃあ、シチュエーションは恋人同士が公園デートしているところ」川越がそう宣言する。
「えっ、それって」久米が口を挟むが「異論は認めない。じゃあ、よーいスタート」川越が手を「パン」っと叩く。
(えっ?これって始まってるの?)初めてのエチュードで流れもどういう風にやればいいか見当がつかない。
「…ど、どうしましょうか大塚さん…」と久米が大塚に振り向くと
ガタガタガタガタ
「へ?」久米の目から光が失われる。そこには局地的な大地震が起きていた。震源地は予想がつくだろうが大塚だ。だが、その姿は超ヤバかった。顔色が青を通り越して紫の領域に突入して目の焦点が合わず、このリズムで みじん切りすると食材はペースト状になるのではないかという位のビートを刻みながら歯をガタガタさせて髪の毛が暴れる位のシェイキングしている。この間久米は大塚が居た事に気付かないで帰ってしまった為、今日が大塚を初認識(挨拶も今日やった)したばかりではあるが、先程は【落ち着いた頼れる先輩】だったのに今は【割と青めの大ナマズ】になってしまっている。
「いや、これヤバいって、救急車ぁ!!」久米は明らかに異常な状態に劇とか役とか吹っ飛んで素になって言う。
「だだだだだ大丈夫よ…ちょっと苦手なのが重なってミルフィーユみたいになってるだけだから」大塚は目を見開き米粒より小さくなった瞳孔を向けながら大丈夫でない感じで言う。
「いや…明らかに何かが崩壊しかかってるようにしか見えませんが…」
「大丈夫大丈夫…意識を保ててるから」
「それ聞いても安心する要素皆無なんですけど…」
「さ、さぁ…行きましょう。誰も見たことのない夢のように素敵な世界へ」
「…それ絶対に現世じゃないですよねっ!?」
「さぁ、いらっしゃい」「目が怖いんですけど」
「私と一緒に全てを解放しに行きましょう」
「あなたはドコの教祖様ですか?」
「どうでもいいから早くしないと」「えっ、何が起きるの?!」
「わ・た・し・が…」ばたーーーん
大塚が白目を剥いて倒れた。
「えぇーーーーーーっっ!!」久米は突然の事に驚いて駆け寄って抱き起こそうと…
パンっ
「はい、そこまで」音に振り向くと川越が手を打つ形のまま久米らを見ていた。
「いや〜面白かった。まぁ、1つ惜しいところがあるとすれば設定が最初っから無くなってたことぐらいかな」
川越が勝手な感想を述べる。
(えっ…ってことは全部演技だったのか…いやぁ迫真の演技ってこういう事を言うんだな。あんなに必死さを出せるなんて流石だよ。私なんか何も考えられなかったし。スゴいな〜大塚さん)
安堵して抱えたまま大塚の顔を見る。
「…ぶ、部長!先輩!」ありったりの呼び方で叫ぶ久米。
「ん?どうした」川越は変わることのない笑顔を喚く久米に向ける。
「お、大塚先輩が起きないんですけど…」久米の腕の中で安らかに…とは、どんなにお金貰って忖度しても言えない表情の大塚が意識なくそこに居た。
「あぁ〜彼女は大丈夫、いつもそんなかんじだから。人前での極度の上がり症」
「僕たちの入って来た時も倒れましたよね」「最初はびっくりしたけどね」演劇部に入るキッカケとなった久米を誘拐した二人組、名前は姉の狭山
「いやだって…うわっ!口から泡出てるっ!!」久米は人が意識失うとこうなるという事を学んだ。そして自分はこうならないぞと強く心に決めたのだった。
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