第6話
バイ子に言い渡された翌日から、使用人と一緒に夕食を食べることになった。
伯爵の嫡男(暫定)とはいえ、使用人と一緒に食事をさせるとか無いわー。
周りの使用人の反応はさまざまだった。
ガン無視する者。
チラチラ見て距離感を探ろうとする者。
なんだか傷ましい表情になっている者。
なかには、俺を指さして笑ってくる奴までいる始末……。
もちろん、俺に出される食事は冷や飯だ。
俺の分だけ、ご丁寧に冷ましてから出してきやがる。
使用人の食事は、湯気がたっていたりするのにな!
しかも、見た感じ、俺だけ量が少ない……。
これってひどくね?
ひどいよね? 俺、キれていいよね?
食事しか一日の楽しみがないのに、この仕打ち。
ないわー。
そして、俺が使用人との夕食をとるようになってから、さらにバイ子はマウントするようになった。
「スネちゃま~♪ブリちゃま~♪」
と、俺にわざと聞こえるように、我が子への愛情アピールをしてくる。
もちろん、俺に対しては全シカトだ。視界に一ミリも入れられてない自信がある。
あっ、ちなみに、スネちゃまは次男スネリオのことで、ブリちゃまは三男ブリゴンのことな。
これ豆な。
そんな屈辱的な日々がしばらく続いた。
ほどなく、俺はブチ切れてしまった。
日本人の食にかけるプライドを大きく傷つけられたのが原因か。
単に空腹に耐えかねたというのが原因か。
理由は自分でも定かではない。
クソな家庭ではあるが伯爵家ではあるので、我が家の敷地は無駄に広い。
だから、屋敷の裏は、裏庭というより裏山という表現をした方が適切な規模の大自然が広がっている。
バイ子に見つからないようにして、俺は屋敷の裏山に入るようになった。
家庭教師が全員リストラされてから、日中暇をもてあましていたので、こういう行動をとれたのかもしれない。
その裏山で、植物学辞典を見ながら野草を入手したり、野ウサギを自ら狩ったりするようになった。
なぜ、そんなことをするようになったかといえば、自ら処理して食すためだ。
腹が減りすぎて気が狂いそうになったから、こうするしかなかった……。
しかし、日本にいた頃は、異世界に転生したらスローライフを送りたいとか、貴族家に生まれてチートしたいとか思っていたが、まさかこんなことになるとは。
トホホ……。
さすがに俺も素人なので、庭師のトムさんに適宜コンサルを受けながら、野草や獣肉の処理をしていった。
この庭師のトムさんは夕食のときに露骨に傷ましい表情をしていた人なので、俺に同情的な立場の人だと事前に分かっていた。
俺が助力を求めたところ、彼は「求められたならば協力をする」と言ってくれた。
本当に助かった!
トムさんは、ママン(俺の実母)がいた頃から屋敷に勤めているので、バイ子派ではないようだった……。
彼がバイ子に通報したら、確実に詰んでたわ。
裏山で日中を過ごすようになったのは、自分にとってかなりのプラスだった。
まず、日中ひたすら野山を駆け巡ることになるので、ストレス発散できる。
次いで、食を満たすことができる。自分で肉に火を通したりすると、冷や飯ではないリアル飯が食えるのだ。
最後に、クソ家庭のことを気にしなくてよくなる。奴らと一緒の空気を吸う時間が減るだけで、クオリティーオブライフが向上する。
そんなこんなで、バイ子の目を盗んで、晴れの日は裏山で狩りをし、雨の日は書架で読書をする日々を送った。
三男ブリゴンが誕生してから二か月ほど経った頃だろうか。
またも、俺のところに一報が飛び込んできた。
バイ子、三人目を妊娠!
さすがに、そんなことはなく。
それよりもはるかに俺にはショッキングなニュースだった。
俺の許婚が突如として決まったのだ。
まさに青天の霹靂だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます