第93話自然型階層

29層にあるマインの町を出発し下層を目指す事2日、34階層に到達すると、そこはどれだけの広さなのか分からないぐらい広い森林が広がっていた。

まさか34層の入り口が崖の上にありそこから34層が見渡せるとは思ってもみなかった…。


「いや~、壮観と言うかなんというか…、今更だけどここが迷宮内だという事を忘れてしまいそうになるな…」

「そうだな、自然型は不思議な所で昼夜、天候が地上みたいになってるからな~」

ルイーズさんも崖の上から眼下に広がる森林を見ながらそう呟く。


「昔から迷宮がなぜ生まれるか、と言うテーマと並んで自然型は何故昼夜があり天候が変わる事まであるのかと学者が研究してたわね。 まあ私の知る限り全く成果は出てなかったみたいだけど」

う~ん、確かに学者が研究するテーマとしては申し分ないんだろうけど、何をどうやって研究するんだか…。

冒険者に護衛を頼んで迷宮に入って地層でも調べるのかな?


そう思いつつ、崖を降りる為に作られた階段を下り、森林の入り口に向かう。

「そう言えばこの階層にメレンって言う果物が群生してるんだよね?」

「情報だとそのようね、だからこの階層は徹底的に調べて果物を採りまくるわよ!」


「いや採りまくるって…、この階層の出口を見つけてからそこをベースにして採取をすれば良くない?」

至ってまっとうな事を言ったつもりだけど、カトレアには通じなかったみたいだ…。

出口は崖から見て真正面にあるとの事で一考されることも無く却下された。

この階層に現れる魔物はゴブリンの進化版であるサヴェジゴブリンとの事でホブゴブリン並みの体格に加え素早く狂暴と言われている。

しかも厄介なのが集落を築き原始に近いとはいえそこそこ文明的な生活をし、集団で狩りをするとの事で探知や索敵で周囲を常に警戒していないといつの間にか囲まれて襲撃されるとの事でこの迷宮でも要注意モンスターとされてる。


全員で探知をしながら森へ足を踏み入れメレンのなる木を探す。

マインの町で聞いた話では、この森の中に幾つも群生地があるらしく、1つの群生地を見つければ100個以上はメレンの実が採れるとの事、それにしてもメレンって聞く限りだとマスクメロンのような果物だよな…。

果実自体はほぼ球形で果皮表面には、網目のような模様があり、果肉は黄緑色で中心部には小さな種が大量に詰まってるって、完全にメロンじゃん!

唯一の違いと言えば木に実る事ぐらいか。

まあ味は食べた事ないから知らないけど…。


そう思いつつ森の中を進むと、探知には小動物やボア系やディアー系の魔獣の反応があるぐらいで心配していたサヴェジゴブリンらしき生き物は今の所、探知に引っ掛からない。

まあボア系、とディアー系、日本で言うなれば猪と鹿が結構居るみたいだから敢えて人間の冒険者を襲う必要も無いんだろうけど。


そんな事を思いつつ進んでいると、一瞬探知に魔獣では無く魔物と思われる反応があったけど、即座に自分の探知圏外に行ってしまった。


「カツヒコ、リーズ、注意しなさい、サヴェジゴブリンに見つかったわよ」

「えっ? さっき一瞬探知に反応会ったけど直ぐに居なくなったよ?」


注意を促すカトレアにそう伝えると、ルイーズさんが真面目な顔しながら説明してくれた。

どうやら自分は大きな勘違いをしていたようで、スキルは人間だけの物と思っていたけど、どうやら魔物もスキルを覚えるようで、特にこのような迷宮内の森林に長年住み着いて狩猟をしているような魔物は人間と同じように探知を使ったりできるようだ。

とは言え地上にある森林などで暮らす魔物はスキルを覚えにくいらしいけど、元は迷宮の魔力から生まれた魔物という事もあり、迷宮内の魔物はスキルを覚えやすい傾向にあるらしい。


それにしても見つかったって言っても自分の探知に一瞬引っ掛かったぐらいなのに、もしかして探知の能力だけなら自分より優れてるのか?


そう思っていると、探知にサヴェジゴブリンと思われる複数の反応があった。


「おっ、来たぞ…、数は大体8匹、4匹は固まって残り4匹は広がったとこみると、恐らく広がった4匹は弓か魔法を使うタイプで戦闘支援と遠距離攻撃って所か」

ルイーズさんがそう言いながら進んでいると、突然自分の探知からサヴェジゴブリンと思われる反応が消えた。


「あれ? 反応が無くなった…、 急に死んだ? いやそんな事は無いはずだから隠形的なスキル?」

「そうでしょうね、恐らく向こうは私達が気付いていないと思って探知圏内に入る前に気配を消したのよ。 そうやって気付かずに近づいた冒険者を狩るんでしょうね」


「下手な冒険者より優秀な気がする…。 それにしても冒険者を狩らなくても食料になる生き物はいっぱい居るのに何でわざわざ冒険者を狙うんのかな…。 反撃されたり返り討ちにあったりするかもしれないのに」

「そんなの決まってるだろ、冒険者が持ってる武器や防具、そして道具類を手に入れる為だよ、いくら迷宮内って言っても金属製の武器や防具がそうそう手に入る訳でもないんだから手っ取り早く手に入れる手段として冒険者を襲うんだ」


「あ~、なるほど…」

ルイーズさんの言葉に納得し、先程反応が消えた辺りに注意しつつ森を進む。

確かに冒険者なら剣や槍、そして斧や弓なんか持ってるし、迷宮探索の際なら予備の武器も食料も持ち込んでるからな…。

人間はサヴェジゴブリンにとって大事な武器供給源なんだな。


「カツヒコ、リーズ、隠形系スキルは動くと探知に反応するから注意しておきなさい。 既に矢を番えて静止してたら反応はしないでしょうけど、もうすぐ反応が消えた地点の近くだから集中して自分の身は自分で…」


ヒュン!!!

カトレアが話し終わる前にかすかな風切り音と共にルーズさんに矢が飛んで来た。


ブッスッ!!

身体を半身ずらし矢を避けたルイーズさんがバトルアックスを構え矢の飛んで来た方向を見た瞬間、複数の風切り音と共に矢が複数飛んで来た。


最大でも飛んで来る矢は4本ぐらいと思ってたのに、絶え間なく矢が飛んで来る。

何故に?

弓を連射してる!

いずれにしても探知で矢を放っているサヴェジゴブリンの反応は確認できた今は矢が飛んで来るのを凌ぐしかないか…。


後4匹どこかに潜んでるし…。





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