魔獣討伐

翌朝、空が白み始める頃には食事を済ませ、壊滅した開拓村へ出発をする。


探知をフルで使用しているけど、目的の開拓村に近ずくにつれ小動物の気配も無くなり、探知には何も引っかからなくなる。


「カトレア…」

「言いたい事は分かってるから言わなくてもいいわ、私の探知にも小動物すら引っかからないんだから…」


カトレアはそれだけ言うと、ルイーズさんと何か話した後で、先頭をカトレア、真ん中に自分、その後ろにルイーズさんという配置になるようにして歩を進める。


カトレアもルイーズさんも異常を感じ取ってるのか?

それともすでに魔獣の痕跡でも見つけて臨戦態勢なのか?

そう思っても口に出せず、配置通りに歩き続けると、柵が壊され、家が傾いたり崩れている開拓村が見えて来た。


村に到着し、傾きかけた門をくぐり中に入ると、人が住んでいたであろう痕跡はあるものの、家の壁には乾いた血が付着し、道には物が散乱している状態だった。

「まずは、村の中を確認し魔獣が何なのか確認しましょう。 とりあえず探知は私が受け持つけど、カツヒコもルイーズも探知を怠らないでね」


カトレアはそう言うと、各自バラバラになって魔獣の手がかりを見つける為に村の中を捜索する。

昼間に襲われたのか、一部の家は燃えているし、無事な家も中に入ると壁や床に血の跡、そして破かれた服の一部らしき物が残っている。

獣の足跡もあるが、足跡を見ただけではどんな獣なのか分からない為、そこら中にある足跡とは違う獣の足跡を探すように村の中を見て周る。


それにしても死体が1つも無いうえ、獣の死骸すらない。

入り口の辺りに獣の毛らしいものが引っ掛かっていたけど、それ以外は同じような獣の足跡しか見つからない。

引っ掛かっていた獣の毛を回収し探索を続け村の中心の広場まで来るとそこには、カトレアとルイーズさんが既に居てなにやら話し合っていた。


「カツヒコ、やっと戻って来たのね、捜索って言ってもそんなに念入りにする訳じゃなく、どんな魔獣や獣なのか痕跡を見つけるだけで良いのよ。 どうせ家の中まで入ったりして細かく調べようとしたんでしょ?」

「まあ、そう言うもんだと思ったから…。 それでこれが家の入り口に引っ掛かっていた動物の毛」


そう言ってカトレアとルイーズさんに毛を見せると、2人は毛を確認し村を襲ったのはウェアウルフだと確定した。

とは言え目撃情報には白くバカでかい魔獣が居たとの事だったが、それらしい足跡を誰も見つけられなかったらしい。


「う~ん、これは長丁場になるかぁ~?」

ルイーズさんはそう言って広場に近く、比較的損傷の少ない家を拠点として数日ここで魔獣が来るのを待つ構えのようで、カトレアもそれに賛同している。


「井戸も確認したけど水は大丈夫だったわ、それに畑も荒されて無いから野菜なんかは困らないけど探知に小動物も引っ掛からないから肉は持参した物を食べるしかなさそうね」

「いや、勝手に畑の作物取って食べてもいいの?」


「カツヒコ、あなた何を言ってるの? 今ここは誰も居ない場所なのよ? どうせそのままにしてたら熟して腐るだけなんだから食べたって問題ないでしょ。 食料を現地調達して手持ちの食料を節約するのは基本よ!!」


カトレアとルイーズさんはそう言うと、村の外にある畑に向かい、野菜を取り始めた。

まあ確かに、管理する人というか所有者が居ない畑だし貰っても怒られ無いんだろうけど、村育ちだから他人の畑の作物を勝手に貰うのは気が引ける。


その夜、畑から取って来た野菜と、アイテムBOXに入れていた肉で鍋を作り3人で食べ、交代で夜間の見張りをする。

自分は見張りの時、遙遠くで狼の遠吠えのようなものが聞こえた気がしたがそれも1回きりで後は虫が鳴く音だけが聞こえている。


何事も無く朝を迎え朝食を食べていると、カトレアとルイーズさんは若干深刻そうな顔をしている感じがした。

「何か心配事でもあるの?」


2人の表情を疑問に思った自分が質問をすると、カトレアとルイーズさん考えられる最悪の想定を教えてくれた。


どうやら2人の心配は、この村とその周辺の獲物を狩りつくしたと判断し、近隣の開拓村を襲撃する可能性があるとの事。

本来なら獲物をおびき寄せる為にゴブリンとかの死体を刻んだりしてばら撒いたりするらしいけどそのゴブリンすらいる気配が無いうえ、高位の魔獣がウェアウルフを率いている場合、反対に相手を警戒させてしまう可能性があるらしくやるとしたら数日様子を見てからだと言っていた。


ゴブリンの死体は無いけどオークの死体はアイテムBOXにあるから撒き餌はあるけど確かに頭の良い魔獣なら罠だと気が付く可能性も高いな…。


そして壊滅した村を拠点として2日が経過したが、カトレアの探知でもゴブリン一匹見つける事が出来なかった。

とはいえ2日間、じっとしていたのかと言うと、そう言う訳でもなく森の中に入って獣や行方不明になっている冒険者の痕跡を探したりとほぼ日中は近隣を動き回った。

これも獣や魔獣をおびき寄せる一つの方法と言うのでなぜか聞いたら、どうやら森や壊滅した村の周囲を動き回る事で獲物である人間が居ると気づかせる意味もあったらしい。

自分達自体が囮な訳ね…。


そんな事を思いながら夕食を食べていると、カトレアがオークの肉を刻んでばら撒きおびき寄せを試そうと決めたらしく、明日の方針を話し出したがその日の深夜、動きがあった。


見張りをしていたカトレアが自分とルイーズさんを叩き起こす。

「カツヒコ、ルイーズ、来たぞ! 数は約200程だ!!!」


拠点としていた家で寝ていた自分とルイーズさんにそう言うとカトレアは村の入り口の方に走っていく。

ルイーズさんもカトレアの声に飛び起きて水を一口飲むとバトルアックスを握り走り出す。

自分も遅れないように後を追うが、さすがBランク冒険者と言うべきか起こされた後の初動からして洗練されており、自分が門に着いた時には既に臨戦態勢をとっていた。


「カツヒコ、あなたは前に出ないようにしなさ!」

「えっ? 先頭で戦うんじゃないの?」


「死にたいなら前に出て戦っても良いけど、死ぬのが嫌なら私とルイーズの後ろで討ち漏らしを仕留める事ね」

普段なら見て口を出すだけのカトレアがそう言って剣を抜き、森を見つめる。


緊迫した空気の中、草木が揺れはじめ、森からウェアウルフが1頭、また1頭と現れる。


「うわぁ~、数が多い、どんだけ出て来るんだよ…」

「カツヒコ、お前目的忘れてないか? 私達の目的はウェアウルフの討伐じゃなくて白くバカでかい魔獣だぞ。 倒すのがいちばんだが、倒せないにせよ最低でも魔獣が何なのか、どの程度の大きさでどの程度の強さ、知能を持っているのかを確認し情報を持ち帰る、それが目的だ」


ルイーズさんがそう言いバトルアックスを肩に担ぎ、ウェアウルフの群れの方へ歩いて行く。

カトレアもそれに続きゆったりとした足取りでウェアウルフに向かって行き、自分はその後ろ20メートルぐらい後方を進む。


ウェアウルフの群れとの距離が約10メートルをきった時、カトレアとルイーズさん、そしてウェアウルフの群れはまるで示し合わせたかのように地を蹴り戦いに突入した。


ルイーズさんがバトルアックスで薙ぎ払う度に、真っ二つにされたウェアウルフが空を飛び、カトレアが剣を振るう度に、首と胴が離れたウェアウルフがその場に倒れ込む。

2人をすり抜けて後方にいる自分の所まで来るウェアウルフは皆無で、ほぼ二人でウェアウルフの群れを狩り続けている。


「すごい…、あの二人、お互いに示し合わせた訳でもないのにうまく連携してるどころか、お互いの死角カバーしあって戦ってる…」


目の前で繰り広げられるウェアウルフとの戦いに見入っていると、ウェアウルフが出て来た場所よりやや左側から急速で接近する反応が探知に引っ掛かる。

恐らくカトレアもルイーズさんも気が付いているだろうけど、何が起きてもいいように身体と剣を魔纏で覆い身体強化をし急速接近する反応の方を見る。


早い!!

しかもカトレアやルイーズさんではなくて自分の方に向かって来てる?

殺気が飛んで来ている訳でもないのに、背中に嫌な汗が流れ急速に空気が重くなる。


森から飛び出してきた白くデカい魔獣はウェアウルフと戦う2人には目もくれず一気に自分へ向かって跳躍した。


マジか!! デカいくせにすごく早い!!

いや、それよりこれの相手を自分がするの?

これ相手ならウェアウルフの群れ相手にしていた方が生存率高い気がするんだけど…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る