第47話霊獣レイムダリーア
カトレアは剣を鞘に納め、何も言わず成り行きを見守っており、ルイーズさんはなんか蚊帳の外って感じで固まっているけど、戦闘態勢だけは維持している。
「小僧、我が子を討った力、見せてもらおうぞ!」
レイムダリーアはそう言うと一瞬で間合いを詰め自分の目の前に迫る。
ガキィィィーン!!
先程カトレアと戦った際とは違い目で追える速度で爪を振り下される爪を剣で防ぎ、自分とレイムダリーアの間にサンダーウォールで壁を作り距離を取る為後ろに飛ぶ。
サンダーウォールを爪で引き裂こうとしたレイムダリーアは身体に流れた電撃に一瞬硬直するも気にした様子もなく自分との距離を縮めて左右から爪を振り下ろす。
一撃の重さが夜に戦ったレイムダリーアよりもはるかに重い攻撃を数度防いでいると、剣にヒビが入り、直後爪を防いだ瞬間に剣は中程から砕けるように折れ、レイムダリーアの爪が首筋に迫る。
「クッ!!!」
殺られた!!!
そう思い目を瞑って最後の瞬間を迎える…。
と思ったが痛みは感じず、恐る恐る目を開けると、レイムダリーアの右前足の爪は自分の首筋の所で止められていた。
「ふむ、弱いな…。 じゃが面白い魔法を使う…。 剣も良いものを持てばもう少し粘れただろうに…。 とは言え弱さの原因は経験不足と言った所じゃな…」
興味を失ったのか、首筋に迫っていた爪を戻し悠然と背を見せレイムダリーアは元居た位置に戻る。
死を覚悟し、そして死を回避したことで呆然としていた自分は手に握る折れた剣に目をやり我に返った。
「あぁぁぁぁぁ~~~!!!!」
突然大声を上げた自分に全員の視線が注がれる。
「カツヒコ、大声出してどうしたの?」
こんな時に何大声だしてるの! と言わんばかりに怪訝な表情を浮かべたカトレアが若干不機嫌そうに聞いて来た。
「いや、この剣、フォレストの皆に貰った剣だったのに折れちゃった!!! 初めて握った剣だし、なにより色々と教えてくれた大切な人達から貰った剣だったのに!!!!!!」
涙目になりながら折れた剣を呆然と見つめる自分に、カトレアは呆れたような顔を浮かべ、ルイーズさんは微妙な表情を浮かべ、レイムダリーアは面白そうな雰囲気をだした顔でこちらを見ている。
「はぁ~、何事かと思ったらそれだけ? 鉄の剣なんていつかは折れるしそんなに大事な物なら仕舞っておけばよかったじゃない! あなたのアイテムBOXにはその剣以上に質のいい鉄剣がいくつもあるでしょ?」
「いや、あるにはあるけど…」
「そもそも、剣が折れるって事はカツヒコの腕が悪い証拠よ!! しっかりと扱えばあの程度じゃ折れないわ!!」
ショックを受けてる自分に慰めの言葉をかけるでもなくカトレアはあなたの魔纏と剣の扱いが悪いからだと言い切った!
確かにその通りでごもっともなんですけど、まさか折れるなんて思ってなかったし、思い入れのある剣が折れたらショック受けるでしょ!
カトレアだって自分の鎧と剣をダンジョンで取り戻した時に頬ずりしてたし…。
そう思いながらジト目でカトレアを見たら睨まれてしまった。
不条理だ!!!!
「クックック、面白い小僧だ。 そんな剣が大事とは…。 数百年前に我らが縄張りに足を踏み込んだ人間共が何人も居たが奴らはもっとまともな武器を持っておったぞ。 多くは朽ちているがなんなら持って来てやろうか?」
「あ~、いえ大丈夫です…、一応魔力の籠った魔剣とか特殊金属で出来た武器とか沢山あるんで…」
「そうか、なら何故それを使わなんだ? そうすればもっとまともな戦いが出来たであろう?」
「え~っと、それは、まあなんというか…、基礎が出来てないのにそう言う武器に頼ると成長しないからと使用を禁止されてまして…」
レイムダリーアの問いにそう答えると、一瞬カトレアの方を見て納得したのかそれ以上何も言わなかった。
いや本当は、魔剣とは言わないけどもっといい金属で出来た剣を使いたいんですよ!
ただ技術と装備が見合わないってボロクソに言われて禁止されてるから鉄剣を使ってるんですからね。
そんな事を心の中で思っている自分には興味が無くなったのか、レイムダリーアはカトレアの方を向き怪訝そうな顔をしている。
「それでおヌシは何者だ? 人間…、いや人間ではあるがそれ以外の者のような異端な気配がするが…」
レイムダリーアがカトレアに投げかけた問いに、一瞬ギョッとしてしまった自分とは異なりカトレアは平然とした表情をしている。
恐る恐るルイーズさんの方を見ると、成り行きだけを見守るつもりのようで特に気にした様子も無い。
あれ? 自分が寝ている間に話したのかな?
自分は朝から夕方まで寝ていたけどルイーズさんなら朝食の用意が出来たら起きだすだろうし…。
「そうね、私の名前はカトレア=フォルバン=フレグラード、生まれたのは今から約483年前に生まれた人間、まあ19歳の時に殺されたんだけど…。 そして何の偶然か埋葬されたお墓はダンジョンとなり、私はノーライフキングになってダンジョンの主を長い事やっていたわ。 まあそれもカツヒコがふらりと最下層までやってきて結界を解除した上にダンジョンにあった魔道具を使って私を生き返らせた。 とは言えノーライフキングだった際の魔石が体内にある影響で人間であると同時にノーライフキングでもある、異質な存在ってところかしら」
「カトレア=フォルバン=フレグラード、昔聞いた事がある名だな…。 確か白銀の聖女と呼ばれた小娘と冒険者という人間が我らの縄張りに来たという時に聞いた名だ…」
「私を知っているの? まさか霊獣となったレイムダリーアだけが私を覚えているとはね…」
カトレアはそう言うと若干自嘲気味に笑い、レイムダリーアの方を見る。
「とは言え我もあの頃は100にも満たぬ魔獣だったゆえ、直接ヌシらと話したのは大人達だったがな」
「そう、あなたはあの時あの場所に居たレイムダリーアだったのね、 とは言えあの時は50匹近いレイムダリーアに囲まれていたからどれがあなただったかは分からないけど…」
「ふっ、当然じゃ、人間に我らの見分けがつくわけがあるまい。 それにしても人間は寿命の短い生き物だが産まれてから19年で死ぬとは運が無いのか、それとも人間という生き物の業が深いのか…」
そう言うとレイムダリーアはカトレアに背を向け森の中に向かい歩き出した。
「そうじゃ、ヌシらが殺した我が子の事は気にせんでよいぞ、アレは我のいう事を聞かず禁を幾つも犯した奴だ、元々我が始末するつもりだったゆえな…」
「あの~。 質問してもいいですか?」
カトレアを知っていたとかカトレア以上に生きているとかそういう事以前に、レイムダリーアと言う生き物について疑問が沸き上がった。
「なんじゃ小僧、何が聞きたい?」
「いや、あのなんていうか…、その子供を殺されたのに殺した人間を恨まないんですか?」
「ふん、そんな事か…。 我が子はいくつもの禁を犯した、そもそも我が殺すつもりだったのだ、それを人間が殺した、ただそれだけだろう? それに我らレイムダリーアは縄張りを荒されたりしなければ無為に暴れるつもりもない。 だが今この森はおかしくなっている、人間共がその元凶であったなら別だがな…」
そう言うと、聖獣のレイムダリーアは森の中に消えて行った。
「ふぁあ~、死ぬかと思った~!!!!!」
緊張が解けその場に座り込む自分と同じようにルイーズさんも同様に地面に座り込む。
「それにしてもカトレア、自分が寝ている間にルイーズさんにも話してたんだ」
「何を?」
「いやカトレアが墳墓のダンジョン100階層の主だったノーライフキングだった事」
「いえ、話してないわよ、カツヒコが起きてから話そうかと思ってたから…」
「えっ? 話してないの?」
カトレアの言葉に驚きルイーズさんを見ると、聖獣レイムダリーアだけでもお腹いっぱいなのにノーライフキングだの生まれたのが483年前とか聞かされて完全に思考が停止している。
うん、事情を知らない人が聞いたら普通こうなるよね…。
むしろ混乱して騒ぎ出したりしないだけましってとこかな。
さて、思考停止しているルイーズさんを正気に戻して事情の説明をしなきゃ。
うん、それ以前にお腹減ったな…。
寝ていて食事してないからお腹が減った…。
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