第31話キャールの街
墳墓のダンジョン近くの村には結果的に7泊した。
1つは時差ボケを治す為、そしてもう一つは宿屋の親父に宿代はタダで良いからダンジョンの事などを教えろと言われた為だ。
実際、1月近く昼夜関係ない生活を送っていたせいで時差ボケがすぐ直る訳でもなく、キャールに行く前に時差ボケだけは治しておこうとカトレアと意見が一致したからだ。
自分はまだよかったけどカトレアはノーライフキングだった時睡眠を必要としていなかったけど、人間に戻った事で睡眠を必要とする事になった影響で昼間でも急に眠気が襲って来たり、夜なのに目が冴えてしまうらしい。
自分の時差ボケはすぐに治ったけどカトレアの時差ボケがすぐには治らなかったのが主な滞在理由だったんだが宿屋の親父がタダでと言ってくれているので知りうる限りの情報を教えてあげてカトレアの時差ボケが治るまで滞在させてもらった。
それにしても宿屋の親父、行動力半端ないな…。
7泊している間に、大工と打ち合わせを始め、村を出発する日にはもう改装、増築工事を始めてるし!
それにしてもどうやって金を工面したんだろう?
不思議だ…。
いや恐らく村長とかから借り入れたのかな?
なんか酒場とかも改装と増築始めてるし、ダンジョンの情報を売ったのか?
だとしたら宿屋の親父は相当やり手だな…。
そう思いながらも村を後にしてキャールの街を目指す。
ダンジョン最寄り村の村からキャールまでは徒歩2日程、天候も良く野盗や魔物に襲われることも無く2日後の昼頃にはキャールの街のすぐ近くまで到着した。
「カトレア、街が城壁に囲まれているのは分かるんだけど、あの形は何? なんか形が可笑しくない? この世界ではあれが普通なの?」
「いえ、私も初めて見る形の城壁だわ…。 そもそも私の知ってるキャールは開拓を始めたばかりの村だったからこんな城壁に囲まれた街になってる事に驚いてるわ」
カトレアの話ではこの世界の首都や街などは大体円形に近い城壁に囲まれているのが普通との事だけど、街を見下ろす丘の上から見たキャールの街の城壁は♂のよう形をしている。
丸の部分は居住区だと言うのは分かるが突起している部分が何故あるのか。
可能性としては矢印のように突起している部分がキャールの街近くまで迫る森に向かって突き出ている所を見ると恐らく森からくる魔物に対する備えのようにも思えるけど…。
「カツヒコ、恐らくだけど、あの森に向かって伸びている城壁は魔物対策ね、街から森に向かって直線状に伸び、そこから左右に広がるように城壁が伸びているわ。 恐らくあの森に向かって突き出ている部分で森から出て来る魔物に備えてるんでしょうね」
「う~ん、まあ何となくは分かるけど、正面じゃなく横から攻められたら意味無いよね。 正面から攻めて来るのが大前提の造りじゃない?」
「そうね、正面からならまだしも、横から攻められたら普通の城壁と変わらないわね…。 考えた人間の真意が読めないわ」
そういってキャールの街を囲む城壁を眺めカトレアと二人で首をひねる。
「まあここで城壁の形を議論しても意味無いし、とりあえず早く街に行ってまずは宿を取ろう。 そんでもって明日ギルドで冒険者登録してダンジョンにあった宝石類とか魔道具類、そしてドロップした武器や防具を換金しよう」
そう言いカトレアと共に丘を下りキャールの街に向かって歩きだす。
形も不思議だけど、城壁の周囲は畑が広がってるのか~。
まあ食料を多少なりとも自給出来ないとすべてを他所から購入しないといけなくなるし、当然と言えば当然なんだけど、何だろう、イメージ的に城壁の周囲は草原って先入観があるからなんか違和感があるんだよね。
うん、ラノベの読み過ぎか…。
そう思いながらもキャールの街の門の前までやって来る。
「カトレア、列が出来てるのって他所から来た人が街に入る手続きをしているんだよね?」
「まあ見る限り普通に考えたらそうでしょうね。 列に並ばずに街に入っている人は守衛に何か見せるだけで街の中に入っているし、列に並んで順番を待つしかないんじゃない?」
「やっぱり…。 日がある内に街に入れるか心配になって来た…」
「大丈夫でしょ。 並んでいるの200人前後ってとこだし、深淵の森に接してんだから今日は街に入れないから野宿しろなんて事は言わないでしょうしね」
「深淵の森? 大森林じゃなくて?」
「そう、今は大森林って呼ばれてるのね。 昔は深淵の森って呼んでたのよ、そしてその深淵の森のさらに奥には未踏の山脈がって竜の住処と呼ばれる竜の巣があるって話よ。 まあ今はどうか知らないけど」
「そう、竜って居るんだ…。 絶対一口で食べられそうだから関わらないようにしよう…」
「そうね、ただ竜種にも人の言葉を話す存在も居るから無条件で襲って来るって訳じゃないから出会ったら話しかけてみる事ね。 まあ出会う事なんて無いでしょうけど…」
「そう願いたいけど、カトレアは人の言葉を話す竜種とあった事あるの?」
「無いわよ、ある訳ないでしょ! そもそも私は白銀の聖女とは呼ばれて魔物の討伐とかはしてたけど19歳だったんだから!! 成人して4年で殺されたのよ! 竜種となんか会う機会なんてある訳ないじゃない!」
カトレアって19歳だったんだ…。
んん? でもその後アンデッドとして復活してるから400歳以上?
「カツヒコ、あなた失礼な事を考えてない?」
「いや、普通にカトレアは今何歳か考えてただけだよ。 19歳で良いのか、464年プラス19年で483歳なのかって…」
うん、カトレアに怒られた…。
死んでからの期間はノーカウントらしく、19歳だと言い張っている。
19歳って事にしておこう…。
そんな雑談をしながら列に並んで順番を待っていると、2時間ほどで自分達の順番が回って来る。
意外と早かった? いや長かったのか?
そう思いながらも、守衛の人にルミナ村から冒険者になる為にやって来たと伝え村を出るときに渡された木札を守衛に見せる。
「ルミナ村からか…。 冒険者になる為ね…。 それでそちらのお嬢さんは?」
「え~っと、カトレアって言って山奥で祖父と自給自足で暮らしていたそうなんですけど、祖父が亡くなって山を下りて来たみたいで、ルミナ村からキャールに向かう途中で出会いました。 自分と同じ冒険者志望です」
「そうか~、じゃあ当然出身場所を証明できるものは持ってないよな…。 まあ見た限り身に着けている物が高価な品なのが気になるが、まあいいだろう」
守衛の人はそう言って、街に入る為の税として自分は銀貨1枚、カトレアは銀貨3枚と説明をしてくれる。
カトレアが銀貨3枚なのは出身地が証明できるものが無い為らしく、大人しく自分の分を含め銀貨4枚を渡し仮の身分証を受け取る。
その後、守衛の人から説明を受けたが、仮の身分証で街に滞在できるのは7日間、延長する場合は7日間につき銀貨1枚、そしてそのお金が払えない場合は拘束されて強制労働で支払ってもらうシステムらしい。
ただ冒険者として登録をすれば冒険者証が身分証となり滞在日数に制限は無くなり街への出入りは自由との事。
その他にも、職を見つけたうえで申請をすればそこで働いている間は滞在日数の制限がなくなるとの事だった。
ただ家を買い、定住する場合は別途定住の申請をおこない毎年定住税と所得税を納める必要があるらしい。
とは言え冒険者の場合は定住税だけで所得税は免除されるとの事、守衛の人いわく所得税が免除の理由は冒険者ギルドが得た利益から冒険者の所得税として一定金額が街に支払われているかららしい。
他にも、街の警備隊、行政官、そして教会に属する聖職者などは定住税も所得税も免除されているらしい。
意外とちゃんとしたシステムが出来てるな…。
まあ7日間の滞在期間を過ぎても誰が定住者で誰が外から来た人かなんてわからないだろうから一度入ったら街から出なければバレないような気もするけど…。
うん、前言撤回、微妙に抜け道があってシステムとしては不完全だな…。
まあ自分達は冒険者として登録するから関係ないんだけどね。
そう思いつつカトレアと共にキャールの街に足を踏み入れる。
うわ~、やっぱルミナ村と違って都会だ!!!
そして守衛さんにおススメの宿を聞くの忘れてた…。
異世界では守衛さんにおススメの宿を教えて貰うのが定番だったのに完全に失念してた~~~!!!
よし、その辺で屋台を出してるおっちゃんに聞こう!
一晩だけ泊まって、ギルドで冒険者登録のついでにおススメの宿を聞けばいいだけだし、今晩の宿はハズレでも我慢しよう。
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