第5話差別
酒場で働きだしてから半年が過ぎた。
暑い夏も終わり、涼しくなってきたけど、もう少しして冬が近くなったら冒険者達はルミナ村から町に戻ってしまうので剣技を教えてくれたり、魔法を教えてくれたりする人が居なくなるけど、ここまでは予定通りだな。
因みにフォレストの皆さんに何故春から秋にかけてルミナ村に来るのかを聞いてみたら、どうやらフォレストが普段拠点としているブロームと言う街の近でも同様に狩りや採取は出来るけど、冒険者の数が多く獲物の奪い合いのような状態で大きく稼ぐには森の奥深くまで何日もかけていく必要があるらしい。
他にも護衛や討伐の依頼はあるけど、田舎のルミナ村で春から秋にかけて活動し、薬草や獲物をアイテムバッグに入れておいてブロームの街に戻ってギルドで換金したほうが稼ぎが良いらしい。
確かに同業者が多く居る場所だと採取できる薬草や狩れる獲物も少なくなるからね。
自分も冒険者として生きていくならその辺も考えて行動しなきゃな…。
とはいえまだ基礎が始まったばかりだし、あと6年半の間に何をどこまで身に付けられるかで人生が決まると言っても過言じゃないからな…。
柄じゃないけど努力あるのみだ。
ただ冒険者もラストスパートとばかりに狩や薬草採取などに出かけているのでここ最近はあまり構って貰えないので教えられたとおりに重めの木の棒を振って剣の練習をして夜仕事終わりの寝る前に魔法を使い魔力を限界まで消費して寝るのを繰り返す日々だ。
魔法を使って魔力を消費する理由に関しては、レーナさんが魔力量を高めるのは魔力を限界まで消費し、回復したら消費すると言うのがオーソドックスな方法だと教えてくれたからだ。
なので毎晩魔力を限界まで消費する程魔法を使うけど、だだ消費するのではなく、毎日違う系統の魔法を使用する事で、バランス良く各系統の魔法も使えるようにしてる。
う~ん、よくよく考えると器用貧乏を突き進んでないか?
そんな中、最近、昼間空いた時間に良く行く肉屋へ今日も足を運ぶ。
決して肉が食べたいわけじゃないよ。
この時期冒険者もラストスパートとばかりに狩をするから、それに伴い、冒険者の持ち込む獲物が増えるので、村では解体屋も兼ねている肉屋にお願いして手伝いをさせて貰っている。
冒険者になったら解体も出来ないとダメだしね。
そして肉屋の解体場に入ると、そこは、吐き気を催すほどの獣臭と血の匂いが充満し、猪や鹿、オークなどが吊り下げられて血抜きをされている。
肉屋の親父に話を聞く限り、この時期は数を稼ぐため、仕留めたら血抜きをせずにアイテムバッグや魔法で収納してそのまま持って来る冒険者が増えるらしい。
本来なら状態が悪いものは値が下がるけど、村も冬に備えて肉の需要があがる為、通常の価格で買い取るから冒険者も普段行う解体などせず持ち込むから解体作業には猫の手も借りたいぐらいとの事ですんなりと手伝いを認めてくれたんだよね。
そんな肉屋での解体作業の手伝いを終え、夜の仕事の為に酒場に戻ろうとしたところ、背中にゴツンという衝撃と痛みを感じる。
「貧乏がこっちを向いたぞ!! お前が村に居ると周りがみんな不幸になるって言ってたぞ! 村から出てけ~!!」
振り向くと、自分と同年代の子供たち数人が口々に悪口を言い、石を投げる。
自分が普通の子供なら、言い返すなり泣くなり真に受けて落ち込んだりするんだろうけど、転生した人間であり、器用貧乏の意味を理解しているので、相手にせず宿屋に併設されている酒場に向かう。
うん、この世界の器用貧乏が前世で言う器用貧乏と同じなら特に問題は無いし…。
「はあ~、一番上の兄貴が仕事で失敗して損失出したから、それも自分のせいになってる感じだな…」
自室に戻り、簡素なベッドに座りため息をつくと、どっと疲れがでる。
一番上の兄が失敗したのが自分のせいにされるとはね…。
まさか、父に指示され、村で採れた芋などを保存食とした物や、乾燥させたキノコをブロームの街に売りに行き、帰りに街で布や酒を買い付けて来る仕事…、言うなればお使い程度の簡単な仕事なのに。
しかも行きは父すべて手配をして、ベテラン冒険者を雇って護衛を任せ、帰りもその冒険者達に護衛を依頼する予定だったのを、あろうことか、帰りは父の雇ったベテラン冒険者に何の断りも無く約束を破り、街で知り合った安い依頼料で護衛を引き受けてくれるという同年代の冒険者を雇ったらしい。
既に帰りの護衛依頼をしていたベテラン冒険者との約束を何の断りも無く反故にしただけでも問題なのに、低ランク冒険者を雇い、そして帰り道に盗賊に襲われたらしい。
しかも低ランク冒険者では対処どころか兄を置いて逃げ出す始末だったとか。
なんとか命は助かったものの、荷は奪われ、身ぐるみを剥がされ、素っ裸で逃げ帰って来るという始末だったとか。
当然、父は熟練の冒険者の護衛を勝手に断り、低ランク冒険者を雇った事、そしてその結果、盗賊に荷を奪われ損失を出したことに烈火のごとく怒り兄を罵倒したようだけど、兄自身は、その方が利益が出るからと言い、挙句、周りには、
「弟のギフトが器用貧乏だから自分にまで不幸が降り掛かって来た結果だ!」
と言いふらしているらしく、その噂が村に広がり先程のように同世代の子供から自分が疫病神のような扱いを受ける結果になったというふざけた状態だ。
唯一の救いは、村の大人達が父の用意したベテラン冒険者を勝手に断り、安い低ランク冒険者を雇った兄に問題があると認識してるのと、毎日遊び惚ける同年代の子供と比べ、村では裕福な家に生まれたのにこの歳で仕事をし自立しようとしているのを見ているから、好意的に接してくれることだ。
まあ自分と比較され親に小言を言われる事で、それを面白く思わない同年代の子供から反感を買ってイジメが発生してるんですけどね…。
それにしても、兄の浅慮さにも驚きだけど、それを弟のギフトのせいにして、自分は悪くないと言い張るってのはどうなんだろう?
うん、兄として以前に人として残念過ぎるな…。
確か兄のギフトは《商い》で商売に関する素質はあるはずだけど、素質はあっても教育がしっかりされてなければ、ギフトは生きてこないってところかな。
自分はああならないようにしないと…。
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