第2話記憶の覚醒

暗い闇の中で自分が漂っていて上も下も分からないような感覚の中、意識だけははっきりとしている状態。


ここは?

自分は死んだのかな?

そんな思いを抱いていると、暗い闇の中に光を放つ球体が漂っているのに気が付く。


なんだろう?

暗い闇の中をひたすらもがく様にして球体に近づき、光る球体へ手を伸ばし、球体を手にした瞬間、突如頭の中に流れ込んで来る膨大な情報。

こ、これは? 記憶?

誰の記憶? 自分の記憶?

自分は何者?


記憶の流入が終わると、おぼろげながら現在の記憶と流れ込んで来た記憶が繋がり、鮮明になるにつれ自分が何者なのかが認識されていく感覚。


そうだ、自分は本間勝彦、日本という国で生まれ育って、大学を卒業した後、就職して会社員だったんだ…。

仕事終わりに上司から誘われて飲みに行き泥酔して駅の階段を踏み外して…、死んだのかな…、いや死んだから転生して今異世界に居るんだ。

そう言えば落ちるときに誰かを巻き込んだような気がしたけど、あまり思い出せない…。

巻き込んでしまった人が居たら死んでなければいいけど。


その後、誰かに会ったような気がするけど、それは思い出せない。

ここは日本ではないし地球じゃない、自分は転生者ってやつなんだな…。


忘れていた、いや忘れさせられていた記憶が戻り自分が何者か理解した瞬間、暗い闇の中から急に意識が引き戻され目を覚ますと自室のベッドの上に寝かされていた。

恐らく父か母がベッドまで運んだんだろうな…。


目をこすりながら起き上がり、流れ込んで来た記憶とこの世界での生活を紐づけ、一人納得した。

そうだ、自分は転生者だったんだ。


それにしても器用貧乏って、確か、器用だから大体の事はこなせるけど色んな事に手を出し過ぎてすべてが中途半端になるって感じの事だよな…。

だったら必要そうな物に絞って何かを覚えてそれを伸ばせば良いんじゃないのか?

これって意外とお得なんじゃない?


そう思いながら、いつの間にか着替えさせられていた寝間着から普段着に着替えリビングに向かうと、母が朝ごはんの支度をしているところだった。


「ファイン、早いわね、身体は大丈夫?」

そう声をかけてくれる母だが、あまり気持ちはこもっていないようで、どちらかと言えば昨晩の事で怪我などしていたら面倒だからと言った感じの印象を受ける。


「はい、大丈夫です」

そう答え朝食の支度を手伝い始めると、上の兄2人と姉が起きだしてきて食卓を囲む様に座る頃に、朝の散歩をしていたであろう父が戻ってきて朝食となるが、家族そろっての朝食が終わると、片付けをする母をよそに、父がおもむろに口を開いた。


「これからお前たちは、自分達で仕事をし職を身に付けるんだ、朝食、夕食は面倒見るし寝床は今のまま使っていい、だが今日から自分達で将来を見据えて何かを身に付けろ」


そう言う父に上の一番上の兄であるパーロンが抗議の声を上げたが、お前は後を継ぐのだから今日から俺と共に行動して仕事を覚えるよう言われ、次兄のローダムも長男の補佐の為、同様に父につき仕事を覚えるよう言われている。


「それとファイン、お前は好きにしろ、衣食住は15歳まで保証してやる。あと7年間自分に合った仕事を見つけてルミナ村を出て行け。それまでに稼いだ金はお前の物と認めてやる。その金を元手によその土地で生きていけ」


そんな父の言葉に兄や姉は驚きの顔を浮かべてるけど、父が言った事は絶対の為、誰も口を挟まず黙って聞いている。

兄たちは突然の事に驚いた様子で自分を見ているけど、昨晩、父が言った言葉を聞いた自分にはあまり驚きも無かった。

やはり分かっていたとはいえ、急にギフトが原因で家を出て行けと言われると不安が先だち、握った拳が震えているのが自分でもわかる。

だけどまだ7年の猶予はある。

その間に器用貧乏の特性だけ活かして色々学んで必要な事は重点的に伸ばすようにしよう。


「はい、わかりました、何か出来る事を探し、15歳で成人するまでに自分の生き方を見つけます」

その言葉に満足したのか父は、うなずいた後、兄たちを連れて仕事へ行くようで、兄たちに外出の支度をさせている。


自分は特に何の指示も受けてないから何をすればいいのやら。

さっき父の言葉に「はい」と言ったものの8歳児に何をしろと?

それにしても酷い親だな、見栄だけで息子を追い出すとは。

いや、見栄えだけじゃなくて実害がある可能性があるから追い出すのか…。

まあ魔物も魔法もある異世界に転生したって事は冒険者がテンプレなんだろうけど、どうしたものか。

とは言え思いつくのは冒険者しかないか。


とりあえずは冒険者を目標に計画を立てる事からスタートだな。

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