第5話 日曜大工も修行のうち
遥か北の彼方の我が領土では、申請等の役所関係の手続きなど終え、工事が進行中。
温泉ホテルを始めたり、辺り一帯に供給するというならともかく、個人で使用する程度の規模ならば大げさなことでもないらしい。
時折メールにて進捗状況が写真付きで送られてくる、間近で見ることができないのは少し残念。
こちらは只今、絶賛有給消化中の身の上、とはいえ何度か出社する必要があった。
夏場ではないのでクロマルを少々留守番させても不安はないが、丸一日となるとそうはいかない。
フレックスやら半休やら早退やら、有効に使う機会のなかった制度をここぞとばかりに活用させてもらい、半日程度の出社で所用を片付けていく。
送別会とやらは、ありがたくお断りさせて頂いた。
かつては2時間おきに散歩へ出かけていたクロマル先生だが、母がいなくなり鍵犬がちになってから多少緩くなってきてはいるものの、それでも朝昼晩夜の4回散歩は死守。
朝晩はともかく、日中に散歩していると、別に悪いことをしているわけではなくても、近所の目が気になるのも事実。
早くここを離れたい、といっても北の土地はこれから冬本番、春までは様子を見に行くだけでも準備と覚悟が必要。
住む家もないし、もはや車中泊では凍死必至。
一年の半分以上が氷点下になる土地なので、住居問題は最初に考えなければならない。
移住後しばらくはキャンプ生活もやむなしだが、早々に小屋をおっ立てる。
手作りの小屋といえば、まず丸太のログハウスが思い浮かぶ。
自分の土地の木を切り倒し、それで小屋を作るというのは理想形ではあるが、全くの素人がやるにはハードルすぎ、隙間風の入らない家が作れると思えない。
そもそも土地に生えているのは雑木が大半で、太くて真っ直ぐな木はあまりない、あっても切り倒して運んで皮剥いでと手間が半端ない。
その一方、ログでも角型のタイプならあちこちでキット販売されている。
模型のように順番に積み上げていくだけで隙間風の心配もほぼなく、最低限の出来栄えは保証されている。
安心確実ではあるが家造りの面白みは少ないし、キットが結構高い。
最終形の我が家を角ログで組むのはやぶさかではないが、今回作るのは仮住まいの小屋。
不要になったら物置にでも格下げするつもりなので、そんなものにあまり費用はかけられない。
そして複雑な加工が不要で素人のセルフビルド向きとも言われているのが木質パネル工法、一般にツーバイフォー(2×4)工法とよばれているやり方。
型枠のような壁を作って組み上げていく、小屋レベルなら丸ノコとインパクトドライバーがあれば形にできる気がする。
そして自分がやってみようと考えているのは、自由度が高く作ってても面白そうな在来の軸組工法、古民家ではないけれど柱や梁が見える家というのは雰囲気がある。
それなりに技術もノウハウも必要とされるが、セルフビルドの本やDVDも出ているのでトライ。
ポチポチとネットで買った工具類がどんどん届くので、試用がてら車を車中泊使用に改造していく。
この年式のロングボディの荷室には、まず使うことはないと思われる折りたたみ式のサードシートがあるのでこれを取り外す。
後部座席はシートバックを倒すとほぼ水平でフラットな台になる、これはそのまま使用。
荷室フロアの形状に合わせコンパネをカット、コンパネとはコンクリートパネルの略で型枠用の合板のこと、ホームセンタ-ならどこでも売っている、一緒に垂木用となっていた2寸角の松材も買ってくる。
テーブル状の寝台を作り半身はそこ、残りの半身は倒したシートバックを利用するので、そこと高さがツライチになるようにしないといけない。
寝台製作は小屋作りの練習がてら、ほぞ組でやってみる。
買ってきた松垂木は化粧材ではないザラザラの荒材なので、最初にキレイにカンナがけ。
カンナはちょっと調べたが、本格的なのは刃の研ぎ方やら裏出しやら台の調整やらやること山ほどあって、気軽に手が出せそうにない。
なので替刃式で金属台のお手軽タイプ、小さいため大きな材を削るのは厳しいが今回の用途なら充分。
DIYでよく使われるツーバイ材なら面取りプレーナー加工済みでカンナがけは基本不要、そのまま使えるようになっている。
それはいいのだが、角が丸く面取りされているため寸法が測りづらく墨付けしにくい、墨付けとは、材木に切ったり穴開けたりするための印を付けること。
そして長方形の断面はほぞ穴を開けるような加工をするのにはそもそも不向き、長さだけ切りそろえあとは金具やビスで組み上げていくのが本来のやり方。
輸入材で安くどこでも手に入るが、元々の目的があっての規格品なのでアイディアでカバーできるとはいえ若干汎用性にかける。
ほぞ穴は仕上げはノミでやるが、おおまかにはドリルで掘る、これで時間と労力を節約できる、さらに角ノミという電動工具があれば難しい作業ではなくなる。
差し込むほぞの方は、切り込み深さを調整した丸ノコで胴付きと呼ばれる凸凹がハマった時に接する面の部分をカット、あとは手ノコとノミで仕上げるが、かなりの手間。
時間や労力だけでなく、加工精度に関わる部分なので小屋を建てる頃にはなんとかしたいものだ。
キツくて収まらなかったり、逆にゆるゆるだったりして何度かやり直し、なんとか形になった。
テーブルというか縁台というかそういう感じ、天板にはワンバイ材をスノコの様にだが材同士の隙間はあけずに打ち付ける。
これでほぼ完成、最期にエッジの部分を面取りして丸め、軽くサンダーをかけて磨いてから塗装、柿渋を塗った。
上に寝そべって暴れてみたが、みしりともいわない、強度的には満足できる出来栄え。
問題は積み込むときのことを考えていなかったことで、30キロ以上あるデカブツを荷室に載せるのは大仕事だった。
これらの作業は大半を家の玄関前のスペースで行ったが、電動工具の騒音にはかなり気を使った。
クロマルは最初の頃こそは脇に寝そべって眺めていたが、けたたましい音がしだすと、中に入れろとドアをガシガシ。
最後の方には外へ出せとも言わず、家の中でシカトこいていたのだった。
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