流星の魔銃師 ~HPが5しかない転生者は魔法銃と錬金で超鬼畜な異世界生活を送る~

井浦 光斗

第1章 特異点の誕生

第1幕 新たなる生活

第1話 さらなる刺激を求めて

「駄目だ……満たされねぇ」


 吐き捨てるようにその一言を呟いた俺は頭につけていたVR装置を外し、ベッドの上に投げ捨てた。


 目の前のモニターに表示されているのはとあるVRMMORPGゲーム、VRで別世界の映像を堪能しながら全身を動かして操作するという最近のVRMMOの中では斬新なゲームだった。


 RPGは俺がもっとも大好きなゲームジャンルだ。

 しかし――この斬新なゲームですら俺を満たしてはくれなかった。


「ああ、もっとやりがいのあるゲームはねぇのか? 俺を楽しませてくれるようなゲームはねぇのかよ」


 部屋の真ん中で寝転んだ俺は、見慣れた天井を仰ぐのだった。



 俺の名前は白峰しらみねなぎ、25歳で独身の元サラリーマンだ。

 元――と言った通り、今の俺は仕事をしていない。無職かつ朝から晩まで様々なゲームをやり込む廃人ゲーマーだ。


 仕事をやめた理由はゲームがしたかったから……ではない。

 ゲームをやっているだけで勝手にお金が流れ込んでくるからやめた、それだけの話だ。


 なぜゲームでお金が稼げているのかって?

 それは俺がVRMMOを筆頭とした対人ゲームの大会で幾度となく優勝を重ねてきたからである。

 特にこのRPGゲームのように身体を動かして操作する系のゲームは得意だ。昔からドッジボールや鬼ごっこで負けたことがなかったからな。



 そんな俺の基本的な戦闘スタイルは――敵の攻撃を回避することだ。



 相手の繰り出した攻撃を全て回避し、相手が練り上げた策を全て封じ込める。

 その相手をもてあそぶ行為自体に俺は命を懸けているのだ。


 別にどこぞの赤の他人をいじめるのが好きなのではない。

 攻撃をギリギリで避けるスリル、敵の巧妙な作戦をやり込めた時の達成感、それを味わいたいがために俺は様々なゲームを遊んでいたのだ。


 けれど、そのスリルと達成感を追い求めているうちに俺は普通の人ではたどり着けない領域にまで足を踏み入れていたのだった。

 そして気づいた時には、俺の欲求を満たしてくれるゲームは殆どなくなっていた。


 今遊んでいたオンラインゲームも、結局のところ俺にとってはヌルゲー止まりだった。

 大体最近のゲーム――特にソシャゲはガチャで引き当てた最高レアの武器さえあれば、余裕で全てのストーリークリアできるものばかり。どんだけ簡単なんだって話だ。

 そんもの大金を払って割に合わない小説を読ませられているのと同じ。

 俺がやりたいのはもっと難しくて、もっとスリルのあるゲームだ。


 その点、今から数十年前のゲームは現在のと比べて数倍面白い。

 ストーリーはあっさりクリアできるくせに裏ボスを倒すまで1000時間以上プレイしなければならないとか、自機レベルだけではなく高度なプレイヤースキルを求められたりとか……そういうのがゲームのあるべき姿だ。


 まあ、そのゲームも全て攻略してやったがな。

 1つレベルを上げるために数日かけるのは当然、ミリ単位の操作をミスなくこなすのも当然、ボスを倒すために討伐チャートを作り上げるのも当然。


 無論、激レアアイテムを競ってプレイヤー同士で激戦を繰り広げるのも当然だ。

 誰に勝負を挑まれようと絶対に勝つため、日夜操作の修行に励んだり、万にも及ぶ作戦を練っていた日々が懐かしい。


 だがそうしているうちに、いつの間にか俺の周りから高難易度のゲームは姿を消していった。

 昨今のゲームもどれヌルすぎる。ひどい時には必勝法まで編み出せてしまう始末だ。

 『白龍』というニックネームを使い、有名な対人ゲームで攻撃を回避続けているうちに“韋駄天”や“龍神”なんていうあだ名がついていたが、そんな称号を貰ったところで全然嬉しくなかった。


 色々なゲーム大会で優勝して金と名誉を貰っても、感動することはない。もはやそれが当たり前になりつつあるのだから。

 ただ難しいゲームをプレイしたいだけだというのに、どうしてこうなってしまったんだろうか……。


「満たされねぇ」


 もはや口癖になりつつある呟きと共に、俺はパソコンを立ち上げる。


「なんか、スリルのあるゲームはないかな……」


 今は初見殺しだらけのゲームとヌルいRPGゲームで食いつないでいるものの、それに飽きるのは時間の問題。

 何百時間も、何千時間もやり込めて、ゲーマー心をくすぐるような刺激のあるゲームがやりたい……。できればRPG寄りのゲームで。


 そんなことを考えながら俺は日課である受信メール確認をする。

 相変わらず、ほとんどがつまらなそうなゲーム広告やメールマガジンで埋め尽くされていた。


「はあ、本当につまらないものばっかだな」


 攻略組による招集メールや対戦のお誘いなど確認するものだけ確認して、他は全て一括削除しようと思った時……俺はふと一件のメールに視線を吸い寄せられる。


「ん……このメールだけゲーム配信会社からじゃないぞ?」


 広告を貰っている会社のメールアドレスは全て暗記しているから、見ただけで分かった。

 となるとまたなんかの大会の招待状か? それともブロックし忘れたスパムや迷惑メールの類かもな。


 メールを開くとそこには新作ゲームの勧誘と思われる文面が連ねられている。

 なんだ……ただのゲーム広告か。それにしては随分と簡素な広告だな、新しく出来た会社なのか?

 そもそも大手にしか俺のメアドは登録していないはずなのだが。


 不思議に思いつつも、俺はそのゲーム広告に目を通す。



 ――ファンタジー世界の鬼畜ダンジョンをあなたの手で攻略しませんか?



「ほぉ、鬼畜ダンジョンか。本当に鬼畜なら、是非やってみたいな」


 よほどゲームに飢えていたのか、俺はその売り文句を見ただけで興味を持っていた。

 そしてメールに載せられているURLを何もチェックしないまま、クリックしていたのだった。


「これは……初期設定画面か?」


 開かれたブラウザにはあまり飾りっ気のない設定画面が映し出されている。


 ここで設定を求められるということはインストールなしで遊べる無料ブラウザゲームの類だろう。

 最近はVRゲームばかりやっていたから、これはこれで新鮮かもしれない。


「難易度を選択しましょうか……。ブラウザゲームにしては珍しいな」


 ブラウザゲームのほとんどがソシャゲというイメージがこびりついているからな。

 ソシャゲ自体は嫌いではないが、金の力で攻略しようとする輩が紛れ込んでくるのは気に食わない。


「難易度はノーマル、ハード、ナイトメアか。鬼畜とうたっているだけあって、イージーは存在しないんだな」



 ・ノーマル

 通常の難易度です。

 ユニークアビリティを2つ持った状態でスタートできます。

 職業レベルをある程度まで上げることが可能です。

 RPGゲーム中級者の方はこの難易度がオススメです。


 ・ハード

 ノーマルよりも過酷な難易度です。

 ユニークアビリティを1つ持った状態でスタートできます。

 職業レベルを上げるのにノーマルの2倍の経験値が要求されますが、成長限界は高く設定されています。

 RPGゲーム上級者やノーマルでは易しすぎると感じた人向けの難易度です。


 ・ルナティック

 この難易度を選択した場合、名前の通り地獄を見ることになるでしょう。

 ユニークアビリティを1つ持った状態でスタートできます。

 職業レベルを上げるのにノーマルの5倍の経験値が要求されますが、成長限界はハードよりも高く設定されています。

 ハードですら満足できない玄人向けの難易度です。



 なるほど、難易度によってレベルの上がりやすさが変わってくるのか。

 それにしてもこのパターンは中々見ないな……。


 ゲームの難易度を変える場合は主に敵の強さやステータスの数値をいじることがほとんど、難易度によって成長限界を変えるとは面白い発想だ。

 俺は迷うことなくルナティックを選択しようとカーソルを動かす。

 しかし、そこで気づいた――その下にもう一つ難易度が存在することに。



 ・エクストリーム

 ※注意 この難易度は他のとは比べ物にならないほど難しく設定されています。途方のない絶望を求める方、極度なドM気質のある方以外は選択することを推奨しません。

 ユニークアビリティを入手することはできませんが、職業を2つ入手できます。

 職業レベルを上げるのにノーマルの10倍の経験値が要求されますが、成長限界はありません。

 ステータスにライフを追加します。強力な攻撃を受けるごとにライフは1つ減少し、残りライフが0になった時点で強制的に死亡させられます。ライフの最大値は5で時間経過で回復します。



「おぉ? 面白そうなものがあるじゃねぇか!」


 そこには俺が求めていた極限の難易度があったのだ。


 ステータスにライフ制を持ち込んでくるとは中々斬新だ。

 5回攻撃を受けただけでゲームオーバーだなんて、これ以上にゾクゾクする難易度設定は見たことがないぜ!


 しかしライフ制が成り立つということは、アクション性のあるゲームらしいな。

 加えて難易度選択にRPGと書かれていたことから推測するに……アクションRPGか。

 くくっ、このゲームは中々に楽しませてくれそうだ。


「それじゃ、難易度はエクストリームで。次の設定は――職業か、2つまで選べるらしいな」


 RPGあるあるの設定に俺は興奮を抑えられずにいた。

 パッと見たところ50以上の職業が連なっており、有名でオーソドックスなものからマイナーでトリッキーなものまで色々ある。


「へぇ……色々あるんだな。『剣士』『魔導士』『格闘家』『騎士』『鍛冶屋』、眺めるだけでもきりが無いぞ。だが『勇者』や『賢者』だけはお断りだな」


 わざわざ最高難易度を選んでいるというのに、ここで強い職業を選ぶのは間違いなく甘えだ。

 いや甘えというより、自らゲームの楽しみを削ぎ落としているようなものだろう。


「ここはネタに走らず、率直にやりたいものを選ぶか」


 適当なものを選んで後から変えられなかったりしたら、悲惨な目にあうからな。

 職業を自由に選べるRPGで遊ぶ時、俺は狩人や猟師の類となる職業を選ぶことが多い。

 遠距離攻撃そのものが敵の攻撃を回避するのに長けているというのもあるが、俺が射撃好きであるのが一番の理由だろう。


 こうみえて中学、高校の部活は弓道部だったし、大学はアーチェリーのサークルに入っていた。

 それゆえに俺は人一倍、動体視力に自信があるのだった。


「どれどれ。おっ、『狩人』はもちろん『弓聖』まであるじゃねぇか。まあ、上級職業は甘えだから選びはしないけど」


 画面をスクロールさせながら職業一覧を舐め回すように見ていると、とある職業が俺の目に留まる。


「『魔法銃師』だと? 名前だけでも随分と面白そうな職業だな」


 クリックして詳細を確認するとなんでも様々な攻撃魔法を弾丸として放つことのできるガンナーらしい。

 職業別難易度とやらもレベル5と最高難易度らしく、俺にはもってこいの職業だった。


「1つ目はこれで決定だな。あともう一つは……どうせだから生産系の職業がいいな。薬師とか鍛冶屋とか」


 RPGゲームをとことんやり込むならば、やはり生産職は外せないだろう。

 自分好みのポーションを作ったりとか、自作の武器を振り回したりとか、自分のお店を開いたりなど夢が広がる。ただこのゲームにそういう自由度の高いシステムがあるかどうかは、やってみなければ分からないけどな。


 俺は軽く生産系と思われる職業を眺めつつ、これからのゲームプレイに思いを馳せた。

 そして長考の末に俺がクリックしたのは、様々な素材から自分好みのアイテムを作り出せる『錬金術師』だった。

 こちらも職業別難易度は最高のレベル5、難しいものを選びたくなるのはゲーマーの性なのだろう。


「よし、職業はこれでいいか。その他の設定は……面倒だから適当に後回しにしておくか」


 興味を持ったとはいえ、ヌルゲーならすぐに打ち切るつもりだからな。

 精々俺を楽しませてくれよ?


 ワクワクしながら初期設定完了のボタンを押した瞬間――突如として画面が砂嵐に覆われ、奇妙な機械音がヘッドホンから流れ出てきたのだった。


「な……なんだ急に? 故障か」


 驚いて身構えた俺の視線の先、そのパソコンは眩い輝きを放ち始めると共に、画面に一行の文字列を表示したのだった。




 ――あなたのような人をお待ちしておりました。




 直後、俺は極光に飲み込まれ、意識を手放してしまったのだった。

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