第33話 顛末2



『アルト』


 何本もの矢を体に受けて立つ。

 俺は、自分でもどこにそんな力が残っていたのか分からない。


 俺の周りには、数百人もの兵士が立っていた。


 みな、強烈な敵意をこちらに向けて、勇者であるよくこちらの動向に注意を向けている。


「我こそが第二の魔王だ。人も魔の物もまとめて滅ぼしてくれる!」


 なんという滑稽な姿なのだろう。


 ミイラ取りがミイラになってしまった。


 お姫様を助ける勇者が、魔王になってしまうなんて。


 けれど後悔はない。


 俺の幸せは、彼女が幸せになる事。


 俺がいる事で彼女が不幸になるのなら、俺は消えてしまうべきだ。


 愛はたやすく憎しみに転ずるというけれど。


 俺はそうは思わない。


 今の俺を生き永らえさせてくえたのは、愛だ。


 彼女にはたくさんの幸せをもらった。


 二人だけの時間は、人生の中で間違いなく一番だった。


 例え姫が俺の元から逃げ出し、その果てに心変わりしてしまって、魔王と通じ合う様になっていたとしても。


 俺は、姫を責めようとは思わない。


 俺の力が及ばなかったからだ。

 俺が幸せにできなかったからだ。

 俺が戦う事しか知らなかったせいだ。


 強く思う愛なら、憎しみなどに飲まれることはないのだ。


 なのになぜ、涙があふれてこようとしているのか。


 弱い俺など認めない。


 姫の前では強くあらねばならないのに。


 俺は体を震わせた。


「おのれ、勇者め。今さらになって邪悪の権化たる我に逆らうか。我の動きを封じようというのか。ならば、お前の守る世界をさっさと我が壊してくれるわ!」

「勇者様が邪悪な魂に抵抗しているのか!?」

「今のうちにかかれ、押し切るんだ!」


 俺は不幸などではない。

 満ち足りている。


 俺はみじめなどではない。

 俺は祝福している。


 俺は悲しんでなどいない。

 俺は笑顔でいられるはずだ。


「おのれっ、おのれっ、おのれ勇者っ! 我の邪魔をするな! 我の世界を! 全ての生命に死を! 破壊をもたらすのだ!」


 体中から血が流れだして、とまらない。

 視界がかすんできて、膝が震えそうになる。

 痛い。辛い。凍えそうだ。


「黙れっ! 邪悪な魂! お前などに皆の幸せを壊させてたまるか。くっ、兵士達よ! 俺が邪悪な魂を止めておく。だから今のうちに俺にとどめを刺すんだ!」

「勇者様!」

「ああ、勇者様が必死に抵抗されている!」


 笑わねば。

 取り繕わねば。

 今の俺は、邪悪な魔王なのだから。


「邪悪なる者よ、かくご!」


 醜い魔王は、討伐されねば。


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