第16話 連続放火事件(3)初々しいカップル
彼女のはこの近所に住む高校生で、新山春菜。コンビニのバイトが終わって家に帰宅するところだったらしい。歩いていると、もの凄い勢いで飛び出して来た誰かにぶつかって跳ね飛ばされ、転んだあとでヒロムが来たと言った。
「そのぶつかって来た人物の顔とかは見てない?」
ヒロムに訊かれ、震えながら春菜は首を振った。
「曲がり角から突然だったし、暗かったし……」
「そう」
春菜は俯いた。
その春菜の肩をマチが抱く。
「大丈夫ですよお。怖かったですね」
そして、ヒロムとあまねに鋭い目を向けた。
「かわいそうでしょ、女の子に。
もう怖くないですからね。家まで送りますよ」
春菜は少し安心したような顔で、体の力を抜いた。
マチは、4班の男3人を前に、怒っていた。
「女の子が夜道で大の男に囲まれたら怖いに決まってるじゃありませんか!」
「でも、ちゃんと警察って――」
「それでもです!もう。女の子がわかってませんね、あまねは」
プッと吹き出すヒロムを、マチはギロリと睨む。
「ヒロムもですからね!」
「え、オレ?」
「エロい目で見たんじゃないですか?」
「見てない!見てない!スカートが短いとは思ったけど、見てないぜ!?」
慌てるヒロムに、マチもあまねも嘆息した。
「そしてブチさん」
「え、俺もか」
「連帯責任です!」
「ええー」
笙野はそれをニヤニヤと笑って見ていたが、コホンと咳払いをして、表情を取り繕った。
「で、犯人はどうなの?」
「逃げられました」
ヒロムが言い、あまねが付け加える。
「でも、新山春菜の反応が気になります。犯人を見たのか、もしくは彼女が犯人で、ぶつかったのを装ってあそこで座り込んだ可能性もあります」
それに、ヒロムもマチも目を剥いた。
「疑ってんのか!?あんな純真でピチピチな女子高生を!」
「可能性の話だ。それにピチピチは関係ないし、純真かどうかはわからないだろ」
「怖かっただけでしょう?男の子にはわからないんです!夜道でいきなり誰かがぶつかって来る怖さが!」
「まあまあ。可能性って話だから。あらゆる可能性を考えるのは基本だろうが。
少なくとも、彼女の反応がやや不自然なのは事実だろう」
ブチさんが言って、ヒロムとマチは渋々それは認めた。
「まあ、彼女が未登録の魔術士かどうかも含めて、パトロールも続行ね」
笙野がそう方針を決め、それに沿って4班は動く事になった。
春菜を探ろうとしたら、偶然に気付いた。
「この範囲に住んでいる魔術士の高校生。同じ学校だぞ」
「へえ。若宮典之君は2年1組で、春菜ちゃんは2年5組か」
あまねとヒロムは、記録を見ていた。
「学校以外に接点はないな。クラス、クラブ、委員会、通学路、出身中学、習い事」
公安の調査が入ると、あっという間に丸裸にされる。
「やっぱりビビったんじゃねえ?」
あまねも考えた。
「そうかなあ」
「この若宮も、一応は魔術適性が出たものの、弱いらしいぜ。ライター程度を3発で限度。身体強化も、速さか硬さか力かに絞って、持続期間が13分らしい」
ヒロムが微妙な顔付きで言う。
「その程度なら、無い方が良かったよな。例えその程度でも、あれば、普通の人と一緒に運動部に入るわけにも行かないし、一応火が出るんだから魔術士として面倒でも手続きやらなんやらの手間がかかるし」
あまねも気の毒そうな顔付きで言う。
「だよなあ。面倒なだけ損だぜ」
同情心が沸き起こって来た。
「お」
正門から下校する生徒達が出て来る。
が、その中に、春菜と若宮がいた。並んでいる。
「え。カップル?」
「若宮の野郎。春菜ちゃんみたいな子を彼女にしてやがるのか?くそ、羨ましいぃ」
「若宮はあれで、カッコいいし成績もいい魔術も使える生徒会長の王子様だからな。女子に、そりゃあモテるだろうな」
2人の視線の先で、ニコニコと笑う若宮と体を小さくして緊張しているような春菜が、並んで歩いていく。
「ああ。男は顔じゃないぜ、春菜ちゃん」
「行くぞ、ヒロム」
調査のために、あまねとヒロムも、そこを離れて行った。
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