第14話 連続放火事件(1)深夜の炎

 深夜の住宅街。住人は寝静まり、或いは部屋でくつろいでいる。

 その暗い中で、ポッとオレンジ色の火がともった。それはメラメラと大きくなり、そこにあったもの全てを燃やし尽くそうと躍り上がる。

 そこに偶然、トイレにでも起きて窓の外が明るいのに気付いたのか、住人の1人が窓を開けて、素っ頓狂な声を上げた。

「かっ火事だああ!火事!燃えてるぞおお!」

 それで方々の家の窓の電気が点き、住人が外に飛び出して来た。

「ぎゃあああ!!大変!消防車呼んで!!」

「水!水!」

 そして辺りは一気に騒然となった。


 待機当番に当たっているので、4班のメンバーはデスクワークをしていた。

「ああ、かったるいなあ」

 そしてヒロムが一番に根を上げた。

「領収書の整理、ちゃんとしろよ。経理からお金もらえないぞ」

 あまねが自分の報告書から目を上げずに言うと、ヒロムが笑ってすり寄って行く。

「一緒にやって?コンビじゃーん。オレ、デスクワーク嫌いなんだよな」

 それにあまねは短く嘆息した。

「嫌いでもやるの。

 これまでどうやってたんだよ?」

 警察官は、意外と書く書類が多い。走り回ってどうにかなるのは、テレビの中の警察官だけだ。

「んー、適当?お願いしたり」

「や・れ」

 言われて、ヒロムは渋々机に向かった。

 チラッとそれを見て、マチは微かに笑いを浮かべた。

 これはヒロムが飽きた時の毎回の息抜きみたいなものだとわかっている。そして、本当に無理そうなときには、何だかんだ言いながらもあまねが手伝ってやるのも、またいつもの事だ。

 ブチさんは黙々とペンを走らせながら、

「まあ、その内、手の抜き具合も要領も覚える」

と涼しい顔だ。

「確かに、一番ベテランのブチさんは書き直しも少ないですよね」

 マチはふんふんと頷き、ブチさんが肩を回しながら続けた。

「形式だからな。

 一番警察官になって日の浅いあまねは、丁寧、確実、真面目。その次のヒロムは手の抜き方は覚えつつ間違いもまだある」

「ふむふむ」

「その次のマチは、適当に慣れて来てはいるが……」

「いるが?」

「誤字が多くて書き直しが多い。ほれ、そこ」

「え?あ。きゃああああ!!」

 マチはブチさんに指摘された箇所を見て慌て、泣く泣く書き直しを始めた。

 一番キャリアの長いのはブチさんで、高校を卒業後警察官になり、地域課を皮切りに組織対策課、機動隊を経てこの6係に来たので、16年になる。

 マチは短大卒業後に警察官になり、交番、交通課、6係となったので、8年だ。

 ヒロムは高校卒業後に警察官になったのだが、子供の頃の事件のトラウマから進学そのものが人よりも1年遅れたので、7年だ。

 あまねは大学を出てから警察官になったので、4年でしかない。

「個性が出るもんだなあ」

「笑い事じゃない。早く書けって」

 ケラケラと笑うヒロムはあまねに言われ、今度こそ真面目に机に向かった。

 その時、笙野が電話を切って声を上げた。

「4班。事件よ」

「おし!」

 ヒロムがガッツポーズをし、あまねが肩を落とし、ブチさんは苦笑し、マチは驚いてペンをお手玉していた。

「連続放火事件の事は知っているわね。これがどうも、魔術士の仕業だと思われると報告が来たわ」

「ようし。オレ達の出番だぜ!」

「ああ、ヒロム。それでも経理にはちゃんと締め切りまでに伝票を提出しなさいよ」

「は……い……」

 一番強いのは、当然笙野である。



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