第9話 爆ぜる魔術士(8)深見邸

 しっかりとした造りの洋館だった。エントランス、階段、廊下、応接室。きれいでものが良さそうだ。

 しかし、一人暮らしのせいか、どこか寂しいような、薄暗いような、そんな印象を受ける。

 そして応接室のソファに座ると、コーヒーと、あまねの持って来たケーキをローテーブルに並べた。

「これは美味しいですよね。コーヒーにも日本茶にも合う」

「ええ。僕、これが好きなんです。先生も?」

「ええ!」

 当然、偶然ではない。調べた上で、これを持って来たのだ。

 まずは雑談をしながら、ケーキとコーヒーを口にする。

 飲食は心配もあったのだが、目の前でコーヒーメーカーを使って淹れたので、まあ大丈夫かと口にした。

「ところで、どこに興味を?」

「はい。やはり、魔術士はどこで魔術士たらんとしているのか、ですかね。自分でもそんなのわからないです。わからないまま使う力なんて、本来怖いでしょう?」

 あまねが肩を竦めて見せると、深見はなるほどと何度も頷いた。

「まさしく、魔術士の意見ですね」

 そして、ゆっくりとした語り口で話し始めた。

「研究室でも言いました。魔術はどこで使うのか。系統はどう決まるのか。遺伝しないのはわかっていますが、では、何が人を魔術士にするのか」

 暗めの照明の中、ゆったりと深い声が心地よく聞こえる。

 あまねは身を乗り出した。

「魔素をどう取り込んでどう出すのかも疑問です」

「そう、それもだね」

 深見は学生に講義するかのように頷いた。

「そう言えば、悠月君は自然に魔術を使ったタイプかな?それとも、小学校の魔術適性検査で?」

 皆、小学生の時に、魔術が使えるかどうかの検査を受ける事が義務付けられている。

 しかしこの時に受けなくてもいいのが、それまでに、既に魔術士として適性が現れている子だ。遊びの中で火を出したりしてわかる事がある。

「僕は、適性検査の時に驚いて風を吹かせてしまって」

「風とキャンセルなのかな?」

「火と水と熱もいけます」

「本当にオールラウンダーなんだね。大抵は1つ。多くて2つか3つというのが定説なのに」

「器用貧乏なんですよ。ひとつひとつは、決して一番ではないし」

「ふむ」

 あまねは苦笑し、深見は考えた。

「まあ、その時に訓練を受けたんだよね。だったら言われたよね。体の奥にある何かを意識して、それを指先に移動させてそこから出すイメージでって。

 ちょっと手を貸してみて」

 言われて、あまねは素直に両手を出し、その手首に深見は手錠をはめた。

「は?」

 覚えがありすぎる。それは毎日目にし、携帯しているものだ。魔術士専用の手錠で、魔術の放出ができなくなるというものだ。

「素直だなあ、悠月君は」

 朗らかに深見が笑う。

「え?ちょっと、あの、これは?」

「言っただろう?君の脳に興味があるんだよ。君は魔術士としては異質だ。大変興味がある。解剖してみたいが、それよりも、目の前で使っている時の脳の変化をこの目で見たい!」

 まずいと思って、あまねは脱出する事にした。

 が、手錠のせいで感覚がおかしい。感知が使えないので、どこに誰がいるのか探る事もできない。

 それでドアを開けると、目の前に女児が立っていた。年齢は10歳前後で、かわいいが人形のように無表情だった。

「え?」

 誰だ、と思う間もなく、チクリとした軽い痛みが首にあり、その女児が銃のようなものを持っているのに遅ればせながら気付いた時には、スイッチが切れるように意識がなくなり、一瞬のうちに目の前が黒い幕で閉ざされたのだった。




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