第2話 4月のある朝に
なんて思っていた時期が俺にもありました。
というのが4月早々の俺の結論だ。
魔法が使えるようになったのはいい。
だが魔物まで出てくるようになったのは勘弁して欲しい。
しかも魔法を使えるのは人口のおよそ3%程度に過ぎないらしい。
なおかつ出現する魔物に対抗できる程度の魔法を使えるのはもっと少ないそうだ。
そんな中、たまたま通学中に出現したスケルトンの集団10匹を魔法で始末したのがまずかった。
結果的に俺は『B級攻撃魔法持ち:魔物討伐ボランティア』として登録されてしまったのだ。
そんな訳で高校生活が始まっても時に呼び出されたりなんてする。
かつて田舎の町に熊が出たなんていうニュースが流れた事があるだろう。
そんなニュース以上の頻度で出現する魔物を退治しなければいけないのだ。
もう勘弁して欲しい。
なお高校は思ったよりはかなりマシな場所だった。
確かにヤンキー臭いのも少しだがやっぱりいる。
地元志向もかなり強い。
それでも話せる相手が中学と違って存在しているだけかなりマシ。
勉強していても変わり者扱いされないし。
この俺ですら休み時間にまわりの連中と話をしたりする位だ。
小学校6年くらいからずっと孤立していたからな。
そういう意味でも高校に入って大分マシになったと思う。
「それにしても川崎、羨ましいよな。大活躍じゃないか。俺も魔法があったらな」
1時間目が始まる前の時間。
前の席の小川がそんな事を言う。
「無い方が楽だぞ。休日や夜間でもいきなり呼び出されたりするんだぞ」
休日で暇な時間ならともかく夜間は勘弁して欲しい。
実は昨日深夜にも1件発生して呼び出された。
おかげで今朝も寝不足気味なのだ。
「でも倒せば報奨金を貰えるんだろ。うらやしいでおじゃる」
これは斜め右前の内海の台詞。
なお語尾で遊ぶのは内海の癖というか冗談みたいなものだ。
「でも報奨金ってそんなに高くないぞ。小遣いとしてはともかくそれだけで暮らせる程出てはくれない。なら普段の生活をして勉強にも支障がない方が楽だろう」
ちなみに夜間の出動は報奨金が1回3,000円。
倒したのはドブネズミのゾンビ5匹で3,000円×5匹で15,000円。
小遣いとしては悪くはない額ではある。
「川崎は正しすぎて面白くないで候。こういう時は極端な意見の方が面白いのでありんす。はははいずれ俺は魔法で日本を征服してやるとか、皆俺についてこいとか、いっそ我こそは神だとか言えば面白いのでおじゃーる」
内海何だその発想は。
「下手な事を言うと発言を切り取られた上で叩かれまくる世の中だからな。その辺慎重にもなる」
「そんな有名人のT●itterみたいな事、こんな場所じゃ起こらないだろ」
いや小川、普通の暮らしをしていればそう思うかもしれないけれどな。
たかが魔法を使えるというだけで信じられない事を言う馬鹿がいるんだ。
夜中にいきなりうちのインターホンを押して、『魔法で私を攻撃しないでくれ、訴える』なんて気●いがやってくるなんて事もあった。
警察に電話してお持ち帰りいただいたけれど。
だから普段の生活は努めておとなしくする癖がついた。
その事の地獄を知らないのは幸いだと言っておこう。
「そう言えばこの学校には他にも攻撃魔法を使う討伐ボランティアがいるんだよな」
小川がそんな事を言う。
「ああ、茜先輩か」
何度も現場で会ったから知っている。
「学校では滅多に会わない先輩女子を知っているばかりか名前呼びするとは怪しいでおじゃる。実は一線越えた関係とかあるのでおじゃろうか」
おい待て内海。
「向こうが名前で呼べと言ってきたんだ。だいたい討伐現場でもう何回も出くわしている」
「あの先輩、長い髪サラサラで顔も整っていて、小生も是非ご一緒したいでおじゃる。あんな綺麗な彼女でも出来れば灰色の受験生活も満開の櫻となるでおじゃる」
おいおい内海。
「先輩はそんなんじゃないぞ。だいたい茜先輩の事そんなに知らないだろう」
「人間は見た目が第一でおじゃる」
「うーむ、真理だ」
おいおい小川も納得するんじゃ無い。
「それでこそ同志」
おいおい。
「俺は内海の同志になったおぼえはない。あと川崎はどうだ」
「俺は別にいい」
俺自身は彼女を作るつもりはない。
別に変な潔癖感とかがある訳では無い。
単にその気になれないのだ。
「綺麗なお姉さんが好きなのは男子として当然なので候。この件については男子は皆同志なのでおじゃるよ。人類皆同志! 人類皆我が党!」
なんだそれは。
どこの赤い党だよそれは。
「それは人類みな兄弟だろ」
「細かいことは気にしない。細かいことはわからない」
「それは相当昔のCMだな」
「嫌よ嫌よも好きのうち」
「それは性的犯罪者の常套句だろ」
「世の中には2つの事がある。やっていい事とヤると気持ちいい事だ」
こら内海、そう言いながら腰を振るな。
そう思ったらだ。
バシン!
「内海、品が無い!」
近くにいた森川さんが思い切り内海の背中をはたいた。
「殴ったね! 親父にもぶたれたことないのに!」
「ごめんね、3中の恥さらしがこんな事して」
「いや、お気になさらず」
何だかな。
「森川さんは
小川の台詞に森川さんは頷く。
「小学校から一緒よ。私と、あと陽子、西場さんと」
なるほどな。
「ところで何の話をしていたの?」
「魔物討伐ボランティアで呼び出されるという話」
「あああれね。大変だよね川崎も」
おっと同情してくれるようだ。
「そうなんだよ。昨日も夜中に1件あってさ」
「でも報奨金は出るんでしょ」
おっとそう来たか。
「でもおかげで眠いしさ。これで成績が落ちたらやってられない」
「確かにそれは大変だよね。でも報奨金は結構出るんでしょ」
どうも森川さんは拝金主義的な目で討伐ボランティアを見ているようだ。
勘弁してくれ。
「その通りでおじゃる。川崎も少しは我々に報奨金を還元してくれてもいいので候」
「おい待ってくれ。だいたい報奨金は申請してから1月以上経ってからふりこまれるんだぜ。だから今はまだ貰っていない」
「足りない時はカードでござる。楽●カードマン!」
「報奨金がカードで出るか!」
「でも●天ショッピングは宣伝文字が多すぎて見にくいでおじゃる」
「だから楽天じゃない!」
「夢の通貨で世界を救え!」
「それは円天! 詐欺だから!」
「どてらに似ているが短くて前に紐が無い」
「それは半纏!」
「弥勒菩薩が修行中の……」
「兜率天!」
「夏の風物詩でにゅっと押し出す海藻が原料の」
「ところ天!」
なんてやっていたらチャイムが鳴り始めた。
森川がダッシュで席に戻り、同時に現国の先生が入ってくる。
「起立!」
日直がかける号令に従って立ちつつ思う。
こういう処まで一緒に来れる幼なじみか。
ああいう関係もいいよな。
そう思った時、ふと何か引っかかった。
いや待て、引っかかるような事は特にない筈だ。
俺は基本的に小学校時代6年頃からぼっちをとしてきたから。
そう思い直しつつ号令ドアに礼、着席。
とりあえずまずは出席とりに集中しよう。
これをしくじると遅刻扱いになるからな。
この学校は高校だからかホームルームとかは一切無い。
授業始まりまでに間に合えばOKだ。
結構滑り込みで入ってくる生徒もいる。
先生の方も慣れたもので1限はどの先生も必ず出席を2回取る。
1回目に呼んでも返事が無かった生徒を、一度出席を取った後もう一度呼ぶのだ。
この時に返事が出来ればセーフ、出来なければ遅刻。
なかなか自由かつ合理的でよろしい。
これで成り立つというのはやはりアホがいない進学校だからだろう。
「川崎」
「はい」
出席を取る時にちゃんと返事をして、それから教科書を開きながら俺は思う。
さっき引っかかった何かについては放っておこう。
それより今日は授業の後だ。
実はこの後、先程話に出た茜先輩に呼ばれている。
『話をしたい。呼び出しが無ければ放課後、化学実験準備室Ⅰへ来てくれ』
そんなSNSメッセージを今朝受けたのだ。
現場連絡の為にと交換したSNSアドレスだがまさかこんなメッセージが来るとは思わなかった。
一体何の用事だろう。
そう思いつつもとりあえず俺は授業の準備を始める。
教科書代わりのタブレットを出して、ノートを広げてと……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます