第17話 その5

 はっちゃんと知り合ってまだ2日だが、息はぴったりだった。

 まずははっちゃんが、パパ大好きMAXの声で落ち着くように言い、はっちゃんパパはデレる。

 この隙を逃さずに、あたしが究を礼儀を通しなさいときつめに言う。それでようやく究は落ち着き、しゅんとなる。


 そしてあたしが、はっちゃんと究は(まだ)つき合ってなく、あたしと究は(ただの)幼馴染みだと伝えると、はっちゃんパパはようやく落ち着いた。

かっこの中は心の中で言っただけで、声には出してない。


よしよしよしよし富士吉田


 争う男達をいなすのが女子力の見せどころよ、と教えてくれたカトーちゃん、ありがとう。君の事は忘れないよ。


あ、言葉が足らなかった。


君の教えてくれた事は忘れないよ、だ。


 幼馴染みとして、究がどういう人間かをはっちゃんパパに説明する。


「へぇ、特殊クラスの優秀なコで、化学部の部長なのかぁ。それでコーヒーの研究ねぇ」


「豆の種類、ミルの挽き方、ドリップのタイミング等をデータにまとめてます」


 そういうと、プリントアウトしたレポート用紙をカバンから取り出す。その厚みは月刊少年誌並みだった。それをみて、のけ反るはっちゃんパパ。手に取り、パラパラと中を見る。


「大したもんだねぇ、コーヒーをこんな風にとらえたことなんて無かったよ」


「いつもはどんなやり方なんです」


「いや、大したこと無いよ。こんなの見せられた後じゃ恥ずかしいくらいだ」


「お願いです、淹れるところを見せてください」


 はっちゃんの彼氏でない事で気をよくしたらしく、他にお客さんもいないからと、カウンターの中に究を入れてくれて、豆を挽くところから見学させてくれた。


 その間あたしは、はっちゃんとおしゃべり。今後の2人との接し方の作戦を練るためだ。


 終わったのか、2人ともこっちに戻ってくる。


「どうだった」


 難しい顔をしている究に訊いてみたが、首を捻るばかりだった。


「分からない、どうみても適当にやっているしか見えないのに、同じ味になるんだ。全然キチンと計ってないのに、何故なんだろう」


「まあ、長年の勘としかいいようがないな。先輩さんも、20年くらい毎日淹れれば出来るようになるさ」


「に、20年……」


 究の驚き顔に、はっちゃんパパは得意げである。


「ところで、舞とはどうして知り合ったんだい。学年も部活も違うだろう」


「あ、あたしが、廊下でばったり会って、それから究のところにコーヒーを飲みに連れてったんです」


 というあたしの言葉に、究が真面目な顔して訂正してくる。


「あげは、物事は正確に言わなければならない。廿日さんが、男子生徒にスカートを下ろされそうになり、泣いているところを連れてきた、だろう」

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