第15話 その3

 そんなあたしとは対照的に、究は難しそうな顔をして観ている。


「ピーマンの量が完璧だ、この赤色を引き立てる最高の緑の数。なんて食欲を沸き立てるんだろう」


「そう思うんなら早く食べなよ。冷めたらもったいないよ」


「あ、いや……」


「あ、そうか。ねこ舌だったっけ」


 とはいえ、冷めすぎたら美味しくないと思ったのか、フォークを取り、食べはじめた。


 表面とか端っこの方の、冷め始めた辺りのパスタを選びながら巻きつけ、赤い塊を口に放り込む。

 それを味わうというよりは、調べるとか確かめるように咀嚼する。とても美味しそうに食べているとは思えない。


 しかしその直後、まるで自分がねこ舌だったのを忘れたかのように、すごい勢いで食べはじめた。


「ち、ちょっと究、あんた大丈夫?」


 そんな気づかいが無駄なように、あっという間に食べ終えてしまった。


「すごい、なにも考えられなかった。ただ食べたいとしか思えなかった」


と、くやしそうに言う。


 美味しいもの食べて、悔しがるなんてヤツがいるかよ。

 それを嬉しそうに見ている、はっちゃん。かわいい。トレーを抱きしめながらくねくねするその姿は、計算でやっているのかとツッコミたくなるくらい、かわいい。


 空になった鉄板を下げると、絶妙なタイミングでコーヒーが差し出される。


アイボリーの厚手のコーヒーカップとソーサー。その中に黒と琥珀の中間みたいな、香しい液体。ザ・コーヒーという感じだ。


 いつもなら砂糖とミルクを入れて飲むのだが、究と同じようにブラックで飲んでみる事にした。


あ、美味し


 水でも、ジュースでも、お茶でもなく、ナポリタンの後はコーヒーに決まってるじゃん、と言いたくなるくらい合う。


ふと究を見ると、また悔しそうに飲んでいる。

はいはい美味しいのね、それなら笑顔で飲めよ。


「どうだい、うちのコーヒーは?」


 キッチンから出てきたマスターが、微笑みながら尋ねる。人当たりは良さそうだけど、こだわるところはこだわるよ、そんなイメージの見た目だ。


「コーヒーもナポリタンも美味しかったです。今度、友達を連れてきていいですか」


「もちろんどうぞ。そっちは彼氏さんかな」


「ちがいます、究はあたしの彼氏じゃなくて、はっ……」


 おっと、2人はまだお付き合い確定じゃなかったっけ、余計な事を言うところだった。そう思いながら、はっちゃんを見る。しかし、手遅れだったようだ。その目線で、マスターは察してしまった。


「……舞、こちらの方はお友達じゃないのかい」


「青草先輩はぁ、友達っていうかぁ」


はっちゃんのもじもじした姿に、マスターの表情が一変し、こめかみに血管が浮き上がった。

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