第13話 いやそれじゃなく、男を見せな

 翌日、エスカレートする蛮族と戦いながら、午前中の授業を終えると、1階に向かい、はっちゃんに声をかけ、究のところに向かう。


 昨日よりは心を許しているのかな。笑顔が多いと思う。


「青草先輩ぃ、これよかったらぁ」


「え、はっちゃんそれってお弁当?」


「ナポリタンはぁ、夜に食べるからぁ、ピラフを作ってきましたぁ」


 はっちゃんと同じような小振りな可愛らしいタッパーを取り出すと、怖がりながら究に差し出す。


 戸惑う究に、絶対に断るなよ 余計な事を言うなよ と脅迫するようににらむが、ダメだ。全然こっちを見ていない。


「ピラフか。それならこの豆で淹れよう」


 中身も味も確認せずに、いそいそとコーヒーを淹れはじめる。呆れてしまったが、断らなかっただけマシかと思うことにした。


 3人で食事をしながら、放課後の待ち合わせを決め、食後のコーヒーを飲む。


「うわぁ すごぉいぃ。ピラフに合いますぅ、あぁわかったぁ、バターに合わせたんですねぇ」


「そうなんだ、バターの油脂でコーヒーの味が阻害されてしまう。どうしたらいいかと考えた結果、いっそのことバターに合わせた配分にしてみたんだよ」


「先輩ぃ、すごぉいぃ」


 昨日と同じように、2人の世界が拡がりはじめている。

 究とはっちゃんの間の真ん中から、見えない球体の空間が生まれ、それがどんどん拡がり2人を包み込んでいく。もちろんあたしは、その空間に入れない。

 拡がる球体に圧されて、壁に張り付いてしまうような感じになっていた。


「よかったね、はっちゃんがコーヒーの違いが解る人で」


かろうじて、それだけは言えた。


 あらためて、放課後の待ち合わせを確認したあと、あたしは先に戻ると言って、部屋を出る。


 校舎の両端にも渡り廊下があればいいのに と思いながら北校舎に移ると、素直に中央階段から上がるのが面白くないなと思ったのと、蛮族が張っているかもしれないという第六感ピキーンが働いたので、東端の階段から上がることにした。


 階段を上がろうとすると、踊り場に人影が見えた。

誰だろうと思いながら上がると、あたしに気がついたのか、慌てた感じでこっちを見た。ムトーちゃんだ。

その向こうにはビトーちゃんがいた。二人とも顔が真っ赤だ。なんだろう、ただならぬ空気を出している。


「どうしたの2人で。なんかあったの」


「ううん、なにも」


 2人はそう言いながらも、さらに赤く、そう、紅潮って感じで目線を下にそらした。

 さっき、はっちゃん達が出していた空気と同じものを感じるけど、まさかね。


 昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴りはじめたので、あたし達は急いで教室に戻った。

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