第388話 幼児用ロンパース 

 そしてオイヴィは暫く黙ったまま、何かを自身のカバンから取り出そうとしている。

 何かな?と思って僕はオイヴィの様子を見ているのですが、

「これだ。」

 そう言って何かをテーブルの上に置くのですが、何かな?布かな。

 オイヴィはそれを広げて、僕に見せます。

「順平殿はこれをご存知か?」

 僕はそれを手に取り、見ます。

 子供の服?いえ、小さいですね。幼児用の服でしょうか。

「幼児用のつなぎの服ですね。これがどうかしましたか?」

 僕は何処にでもある幼児用の服を見せられ、疑問に思います。

 オイヴィは意味もなくこのような物を見せないでしょう。

「もう一度よく見てくれないか。」

 何かあるのかな。

 僕はまじまじと見ます。

 そして股の部分を見ます。

 ボタンですね。

 よくあるタイプです。

 姉の子供、甥っ子がこんなのを着て歩いていたっけ。

「何の変哲もない、幼児用の服ですね。確か【ロンパース】だったかと。半袖の前開きでやはりボタンで留めてますが、これが何か?」

 この時僕はこの服に対して全く違和感がありませんでした。

 日本ではごく当たり前に売っている幼児用の服。

 召喚に巻き込まれた女性で僕と結婚した妻は、並行世界ではこのような服をよく作って、子供に着させていました。

 何せボタンは日本から持ち込んだ物にありましたから、それらを複製すれば簡単に作れます。

「そうか。順平殿は何も感じぬか。」

 改めて見ますが、特に変な所はありません。

 しかしオイヴィには何か特別なものに感じたのでしょう。

 鑑定をしてみます。

 僕はスキルを封じているアイテムを外し、ロンパースを見ます。


【ロンパース】

 80サイズ。前開きで股の部分もボタンで取り付けができる。日本製。


 僕はこのロンパースを鑑定し、愕然としました。

 何せこれは【日本製】と鑑定結果が出たからです。


 僕の知る限り、僕と同じく召喚に巻き込まれた人の中に、この服を持っている人はいなかったはずです。

 日本に子供がいた人はいますが、幼児は巻き込まれていません。

 なので通勤電車にこの服を持ち込んだ意図は、あの場にはい無かったはずなんです。

 それが何故今ここに?

「やっと理解してくれたようだな。」

「オイヴィ、これはどうしたの?」

 オイヴィは僕を見つめています。

 僕も思わず見つめ返してしまいます。

「これは、常山領でもここよりずいぶん離れた場所にあったそうだ。」

 僕は考えます。

 あったそうだ、と言われてもこれが何を意味するのか。

 そしてオイヴィは続けて語ります。

「常山領はこの数年、拡大を続け家臣も増えた。そしてこれはその家臣の一人からもたらされたのだ。我もそこへ出向き調べたいのだ。」

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