第332話 ティルザ・アマンダ・トーンデル

トーンデル子爵領は、王都からほど近い距離にある、細長い領地。

主要街道沿いの領地なのだが、それが仇となって、現在財政は非常に圧迫している。


何故主要街道沿いが仇なのか。


まず道の整備を国と領地で折半する必要があり、これといった特産品のないトーンデル領は、さほど豊かではなく、負担が大きい。

なまじ王都から近いので、道行く人々はこの領地を素通りしてしまうので宿に泊まる旅人はさほどいない。


そして近年運悪く、街道沿いの山が崩れ、土砂が道に流出。

土砂を撤去するのに莫大な金がかかってしまい、トーンデル子爵領は困窮してしまう。

何とかしようとするも、財政は厳しいまま。

そんなある日、王都より招集がかかる。


急ぎトーンデル子爵は王都へ向かい、とんでもない事を聞く。


魔王が近隣諸国を制圧し、近日中にこの国にも攻め入ってくるだろうと。

そしてその対抗策に、勇者を召喚する事になったと。


だがここでトーンデル子爵は疑問に思う。何故私が呼ばれたのか。


周りを見れば、自身と同じような窮状の貴族の当主がそこかしこにいる。

隣の子爵領も同様、経済的に困窮しているはず。そしてその下の男爵領は、当主自ら開墾を行わないとやっていけないほど落ちぶれてしまっているとか。


あまりいい予感はしない。まさか私兵を出せと?

領地の警備で手一杯なのに、魔王対策とやらで連れていかれるのはあまりにも厳しい。厳しい現実。


しかし、国王からの要求は意外なものだった。


「皆すまぬな。現在この場に集まっておるのは皆、領地の経済状況が思わしくない領地の当主だ。違うか?」


そう言われても、当たりとしか言いようがなく、どう返事をすればいいのか困ってしまう。


「数日後に勇者召喚を行う。其方らに集まってもらったのは、召喚した勇者の世話を行ってもらう人材を王都へ連れてきてほしいのだ。最優先は見目麗しいおなごだ。」


・・・・娘を差し出せと?


確か王都での舞踏会や晩餐会等で見知った面々だが・・・・そう、確か皆年頃の娘がいたはず。


まさかこの為に行っていた?


後に宰相閣下より、娘を連れてきてもらえれば、多少税を考えるとの提案があった。

経済状況がひっ迫している我が領としては、娘を差し出す以外に道はない。

ここで拒むと、国からよからぬ圧力もかかるうえに、最悪子爵の解体もあり得る。


時間がないという事で、急ぎ領地へ戻り・・・・年齢的に、そして未婚女性でないといけないとの事で、我がトーンデル家での対象はティルザただ一人。

幸か不幸か、妻に似て親の目から見ても相当整っている顔立ち、ほっそりとした体つき。男が見れば皆娘を欲しがるだろう。


そんな娘を半ば強制的に送り出さねばならぬとは父親として情けない。


・・・・

・・・

・・


娘を王都へ送り出してからはや1年以上の歳月が流れ、魔王の襲撃もあり、娘の安否がわからぬままだったが、最近常山公爵なる・・・・どうやらアーダ様の夫らしいが・・・・いや、前の公爵様は確か勇者召喚の折亡くなったのだったか。


そんなある日領地へ夫婦ともども来てほしいとの連絡があった。

そして、もし息子のうち独立する当てがなく、働き場・活躍の場を求めているようなら、常山領で活躍の機会があるので、息子もつれてきてほしいとの内容。


さらに驚くことに、魔法陣?

これで簡単にトーンデル領と、常山領へ行き来できるのだとか。話をしに来ていた使いの者は、その魔法陣でどうやら常山公爵領へ帰っていったようだ。


物は試しと妻と魔法陣を使ってみる事にしたのだが。


そこには娘がいた。


あらかじめ娘は常山公爵様の妻となったと聞かされており、幸せそうな娘を見て、安心した。


「お父様・・・・わたくし、常山様と・・・・運よく巡り合えました。」

「ああ・・・・そのようだ・・・・」

「最初は戸惑いましたが、今は感謝しかありません。」


娘は幸せそうだが、本当に息子はこの領地で活躍できるのか?


しかしそれも杞憂だった。


ユハニという既に家臣の筆頭らしいが、その者を中心に、他の家の者も面談を行っており、どうやら我が息子は結果が良く、それぞれ適所に採用されるようだ。


その報告をしてくれたのは、ほかでもない、常山公爵自ら私に伝えてくれ、驚いた。

たかが子爵に、公爵が足を運ぶなど本来ならあり得ない事だ。


「あ、常山順平です。その、断りもなく娘さんと結婚してしまって、申し訳ございません。」

いきなり謝ってきたがどうすれば?


「いや、貴方は公爵。子爵に頭を下げてはいけません。」


こういうしかない。

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