12月6日【空の旅】



 ゆうちゃんとミトラは、どこまで飛んでいけば良いのでしょうか。夜はどこまでも続いていて、ふたりは一向に落ちる気配がないのでした。


 遠くに街明かりが見えます。あちこちに伸びる光のすじは、きっと高速道路です。海はどうやら小さな湾になっていて、ミルク色のクラゲが打ち寄せられていたのと反対側の岸は、まるで昼間みたいにぴかぴか輝いていました。


 ぴかぴかの中に、ひときわ明るい大きな円盤があります。あれは観覧車でしょう。そのそばにある光のレールは、ジェットコースターです。あっちの岸のぴかぴかは、遊園地に違いないのでした。

 時おり、金色や銀色の星のかたちをしたアルミのヘリューム風船が、空へと浮き立っていきます。

 ゴォーッと音を立てて、ジェットコースターが急降下しました。きゃあーっと楽しげな悲鳴が聞こえましたが、ジェットコースターには誰も乗っていないようでした。


 ゆうちゃんが遊園地をもっとよく見ようとしたとき、その視界を何かが遮りました。それはぴろぴろ鳴いている、色んな色をした水笛たちの群れでした。

 仲間が来たのに喜んだのでしょうか。ミトラが咥えていた水笛が、元気よく羽ばたきましたので、ミトラはそれを放してやりました。おみやげに、赤いりんご飴と、ひょっとこのお面を持たせてやりました。

「良いの?」

『良いの、良いの。ばいばい、さよなら。元気でね。大きくなるんだよ』

 レモン色の小さな水笛は、群れの仲間と羽ばたきながら、ぴーろろろと返事をしました。



 水笛たちは遊園地の方へ舵を切りましたが、ゆうちゃんたちは飛んでいるのではなく放り投げられただけなので、進む方向を決められません。どこに着地するのか、ゆうちゃんたちにも分かりません。

 ずっと飛んだままだったらどうしよう。ゆうちゃんはちょっと心配になりました。

 それでも別にいいんだけれど、遊園地や、もっとほかの楽しいものを空から見つけても、ただ通り過ぎるだけしか出来ないというのは悔しいような気がします。


 けれど、永遠に飛んだままだなんて、そんなことは決してありませんでした。

 ゆうちゃんとミトラの体は、段々と高度を下げていきます。ずっと横向きになびいていた髪の毛も、今は逆立って、ゆうちゃんの頭はろうそくのようです。


 暗い暗い夜の中を、ゆうちゃんとミトラは落ちていきます。もう、ほとんど垂直に落ちています。風を切って、夜を裂いて、落ちる。落ちる。落ちる……。



 落ちる先に、ぽっかり穴が空いているのが見えました。あれはマンホールです。マンホールの蓋が開いていて、ふたりが落ちてくるのを待ち構えているのです。


 怖くなって、ゆうちゃんはミトラをきゅっと握りました。ミトラも、ゆうちゃんの指をぎゅっと握り返しました。



 今夜の夢は、ここでおしまい。

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