② ゴミどもめ、宇宙戦争
爆発を背に水星。「地球…! てめェ! やりやがったな!」
「フン。量産型のスペースデブリどもが。かかってこいよ」
「スペースデブリは貴様のほうだ。しかもとびっきりのな」金星がいった。「夢みる挑戦者か。笑わせる」
「おまえらもかつてはそうだった。違うか? おまえらも皆、夢を描いていたはずだ。それがどうした。いまでは社会のルールに縛られ、だれかの真似事みたいな毎日、二番煎じみたいなことしかせず、いっこうにハビタブルゾーンを出ようとしない。生きている価値が果たしてあるだろうか? そんなA4のコピー用紙みたいな人生を歩んでいて、自分を生んだ母なる運命に、報えているとおもうのか? 報えていないとわかっていながらなにしてる? なぜ時間を無駄にしているのだ? 人生を放棄したのか?」
「我々は大人になったのです地球」木星がいった。
「またその台詞か。量産型の決め台詞。いい加減聞き飽きたぞ。大人という言葉でごまかすな。言い換えずにちゃんといえ。〈夢を諦めて無意味な現状に妥協している負け犬〉ってな」
「おのれ貴様、言わせておけば!」土星は怒りに任せて腰からフラフープカリバーを引き抜いた。「よいか! 忘れるな! 今から行われる一大決戦を! 相対性理論によって後世、どっかの誰かがこの戦いを見るかもしれん! そいつらに見せてくれよう! 夢想家の大バカモノが無残に敗れる姿をなぁ!」
「ふっ、どうせ、小さな光の点にしか見えないさ。それに後世のやつらは所詮、その光の点を指差して『綺麗〜』とか言うだけで満足しているような向上心のカケラもないやつらさ。決してこっちに来ようとはしない。宇宙ではッ! こんなにも燃える展開が繰り広げられているというのにッッッ‼︎」地球も神器〈三日月〉を真空を切り裂くように抜刀した。心臓の一部から抜き取った国宝青銅剣のようなサテライト・アームズである。
原始地球は宇宙を恐怖に陥れた後期重爆撃期のときのように、顔はマグマオーシャンで燃えさかり、火焔型土器のような兜を頭にかぶり、身体には遮光器土偶のような地磁気アーマーを装着している。
地球 対 水星、木星、金星、土星たち太陽系戦士。
太陽系戦士たちは円になって、諸悪の根源を取り囲んだ。
いっせいにうごいた。
その瞬間、地球は竜巻を起こし、敵将たちの動きを止めると、続けざまに大噴火を起こして敵将たちを焼いた。なんとか盾でそれを防いだ水星は、ひるまずに矛で斬りかかると地球に動きを見破られ、雷を全身にくらった。骨の髄まで電撃をくらい、水星は、宇宙ゴミのように散った。
虫唾が走る雑魚をまた一人葬った地球はそのままの勢いで重力を操り、巨体の木星を地に叩きつける。あまりの重力の強さに木星の全身の骨が砕け散る音がした。
金星はこの機を逃すまいと突撃した。が、地球はそれをかわす。空中でくるりと回転して、体勢を立て直すと、三日月で金星の腰から下をずばっと切断した。そして瀕死状態の顔、すなわち宇宙一の美貌を誇るとされる金星の顔にゼロ距離で必殺の大噴火をおこし、その整った顔を溶かしてやった。
最後に残った土星はドーナツ型のフラフープカリバーの刃に、宇宙の命運をのせて、いざ地球に斬りかかった。「目を覚ますのだおろかもの! 地に足がついた人生を歩め!」
アドベンチャーを司る神は跳躍してかわした。そしていった。
「地に足がついていないということは高みへ跳んでいるということだ。地に足をつけるためではない。天に手をつけるためだ!」
土星は絶対零度の吹雪を受け、氷河期のマンモスさながらに凍らされてしまった。下半身から上半身にかけて徐々に氷が侵食していく。だが、原始地球は重大な過ちに気づいていなかった。太陽系戦士たちに気を取られている隙に、かつて地球を敗北に追い込んだ究極殺戮兵器〈太陽〉が、サタンに降り注ぐ御子の雷のように、頭上で標準を定め、いまにも発射されようとしていた。
いまにも冷凍凍結される土星が最後に力を振り絞って、「だから言ったろ。……上ばかり見るものは足元をすくわれるんだよ。……くたばりやがれ緑色野郎」といった。
「やばいっ! このままでは後期重爆撃期の二の舞だ!」焦る原始地球。太陽が放たれた。天空を焼き尽くす絶対熱度の地獄のフレアが、地球に向かってやってくる。「おまえたち! 出番だぞっ!」復活した織田信長は必死に叫んだ。
土星が嘲った。「……フッ……だれに向かって言っている……この宇宙に…おまえの味方などおらん…………」
「外にではない。内側にむかって叫んだんだ」
「……アア……五大絶滅将軍か……あいつらでは太陽は防げんぞ……無駄な足掻きだ」
「みてろ」信じられるだろうか。なんとルシファーは両手を広げて自ら神の雷を、すなわち太陽フレアを受け入れる姿勢をとった。
「……死ににいったか! 馬鹿め!」土星の氷が熱で溶けてきた。
太陽フレアが直撃した。地磁気バリアもオゾン層も絶対熱度の高温に耐えきれず、溶けた。「滅びろ地球! かつてのように!」
あついっ! あっつい! あついっ! あっつ! あっつあっつあっつあっつあっつ! 燃える! 燃える! 燃えている! 身体中の毛穴という毛穴から火が吹いているのではないかというほど熱い! 世界中の海という海が一気に干からびたのではないかというほどに熱い! まさに火あぶりだ! 久しぶりにくらう最強の鉄槌のあまりの熱さに、あいた口が塞がらなかった。地球は歯を食いしばって耐えた。サウナの最上段で起立したまま、ロウリュ一〇〇連発の熱波をくらうような地獄の熱さだった。耐えろ! 耐えろ!
しゅうううう。煙があたり一面に広がった。じゅうわあああ。小惑星たちが被害を受けて溶けた。太陽系戦士たちの死体も解けた。煙がはれると――――原始地球は無傷だった。
「なんだと! なにがおきた! なぜ無傷なのだ貴様ァッ!」
「ふぅ……はぁはぁ……かつてやられた太陽の、……対策をしないわけがないだろう。このわたしが」原始地球の身体は、地磁気やオゾン層よりももっと分厚い防具で、守られていた。見たことのない防具だ。宇宙のものではない。なんだこれは? 土星は我が目を疑った。
「これは〈科学〉だ」最強のアーマーを指差してサタンがいった。「紹介しよう。第六の絶滅将軍、ホモ・サピエンスだ」
「よっし! 成功したぞおまえら!」
「やったわ! 助かったんだわ! 危機一髪、太陽を防いだ!」
「万歳ー! 万歳ー! 人類万歳ー!」
地上ではホモ・サピエンスたちが拍手喝采スタンディングオベーションで忘年会か夏の大花火大会くらい湧いていた。それもそのはず、自分たちの努力の結晶がついに実を結んだ瞬間だからだ。
地球軍第六の絶滅将軍ホモ・サピエンスたちは自らの果てしない知能をふんだんに使って、王の役に立とうとしている。なかでも、科学チームは星々に対抗できる数々の装置を開発した。
『アフロ・ユーラシア科学チームが開発した〈対太陽ネオ地磁気バリア〉がフレアを防ぎました。人類の勝利です』
速報ニュースが世界中を駆け巡った。
『オセアニア科学チーム! 次の攻撃がくるかもしれません! 大至急、迎撃の準備を』
『本日の天気はこれ以上ないほどの晴れとなるでしょう』
『打ったーーー! 満塁サヨナラホームランー!』
『紫外線に気をつけて。スキンケアこんなときはスキンケア』
『都市伝説モンスーン三村が行方不明になってから今日で五〇〇年が経ちます』
『本日なんと! 大特価でいまだけ! いまだけ半額!』
『マンチェンチェチェクーの大虐殺から一〇年。被害者に黙祷』
『ここで火曜日大統領のスピーチをどうぞ』
『この日を忘れないでください! 人類が! 宇宙に勝利した歴史的瞬間だ! あなたの孫の孫の代まで語り継がれることでしょう! かつて! 私たちは〈国〉を作り、国境という隔たりを作り、文化や肌、宗教、性別などさまざまな要因で分裂していました! ですがいまでは! 私たちは国を廃し! 国境を廃し! 異文化と融合し! 肌や性別、宗教も分け隔てなく尊重し、お互いを認め合う、ひとつの集合体となりました! 世界が一つになったのです! 自分の家に見ず知らずの人が入ってくるのが征服とするならば、いまの私たちは同じ草原でキャンプをしているようなものなのです! 征服や支配ではない! 統一ではない! これは融合だ! そのおかげでついに今日! 太陽に打ち勝ちました! これもすべて神王のおかげ! 皆で讃えましょう! ホサナ! 地球! ホサナ!』
――――場面変わりまして宇宙。
「というわけだ土星」
「こんな目に見えない雑魚どもに……我らが太陽がやぶれたのか」
「そんなに好きなら」原始地球は素手で太陽をつかみ、「おまえにくれてやるよ」土星に向かって投げた。
「ぎゃあああ! あっつ! あつっ! あつ! あああ!」土星は超新星爆発し、その爆発で太陽も大爆発を起こした。まわりの眩しさに一瞬、宇宙が白くなるほどだった。
「うっし、太陽系戦士、太陽、やぶれたり。第一関門突破」
太陽系戦士たちを全員葬った原始地球は、ついに復讐を果たした。「おやおやおやおや? こいつはおもしろい」
気がつけば、あたり一面、数ある銀河から、おびただしい数の武装したスターたちが駆けつけてきて、地球を取り囲んでいた。遥か彼方からやってきたアンドロメダ銀河軍団、独自の戦術を用いる大マゼラン星雲軍団など、後期重爆撃期に原始地球と渡りあったおとめ座超銀河団がここに集結した。スターたちは〈彗星〉にまたがり、自らの
「降伏しろ地球。おまえは包囲された」
「見りゃわかる」
「クライマックスだ地球」
「そりゃあいい。わたしはつねにクライマックスを追い求める。わたしのモットーはこうだ。〈人生にクライマックスを〉」
「そんなにほしけりゃ、いますぐ、くれてやる。全軍! 出撃!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます