深海30

長月瓦礫

深海30


雪がゆらりと舞い踊る。

長い時間をかけて、ようやくここまでたどり着いた。


何度もきりもみされて、体は粉々に砕け散った。

幾何学的美しさなど、そこにはない。ただの破片だ。


この世界はいつも分厚い闇に覆われている。

あまりにも深すぎて、光が届かないのだ。


それでも、ここで生きる者たちがいる。天気も変わる。

雪が降った。凍てつく世界のマーメイドたちは心を躍らせる。


誰もが空腹で、仕方がなかった。

あたりは暗く、静かにうごめいていた。


大きな口を開けて、雪を飲み込む。

空っぽだった腹が満たされる。


流れを乱された雪は静かに積もり、沈んでいく。

ふたたび溶けて、空へと舞う。


そしてまた、この海へ戻る。

これの繰り返しだ。ただひたすらに、回り続けるのだ。


歯車は回る。生きる者たちのために。

雪はきらめく。生きる者たちのために。


マリンスノーは優雅に舞い散る。

光の届かない、この世界のために。

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