第17話 ファミレス

「流石にこの時間だとほとんどいないね」


 俺達が入ったファミレスには、休日だがそこまで人は居なかった。夕飯時には遅いし、深夜に勉強とか何かをしに来るにはちょっと早い時間。といってもここは田舎のファミレスだから24時間の営業はしていないんだが。席について周りを見回す。


 店内にいる人も一人で何冊も教科書を拡げている高校生らしき子や、かなりのご高齢の夫妻の様な人達、何だか慌てて鞄の中を探したり胸ポケットを触って慌てている大学生らしき人。


 他には特に言うこともない数組がいるだけだった。


「そうだな。だからって訳じゃないけど人がいない方が楽でいい」

「そうだね。今日は結構一杯人もいたから余計に感じるよ。ちょっと土が恋しいかもしれない」


 彼女はそう言って近くに置いてあるプランターの土をぼうっと見つめていた。


「ははは、やっぱり農家の娘なんだ。ファンタジーだと土属性か?」

「んー。私はその土に栄養とか癒しを与える水属性って所かな?」

「おーおー綺麗所を狙っていったな」

「いいでしょー夢くらい好きにさせてよ」

「じゃあ俺は4属性がいい。エレメンタルマスターとかかっこいい2つ名貰えそうじゃないか?」

「えー器用貧乏になりそうじゃない?」

「そうかな?」

「うおっほん」

「「ん?」」


 俺達は咳払いが聞こえたのでそちらの方を向くと、20後半といった感じの女性が立っていた。今の咳払いこの人のか? おっさん臭くない?


 彼女はこの店の制服に身を包んで立っている。その姿勢はとても綺麗で、美しいと評価して間違いない。その佇まいはモデルと言われても驚かないほどだ。男女問わずに納得されるだろう。そして、その上の顔は普段は綺麗なのであろうが今は額を引くつかせていた。


「お客様? ご注文はお決まりですか?」

「あ、えっと、まだです」

「お決まりになりましたらそちらのボタンでお呼びください」


 彼女はそう言ってつかつかと立ち去っていく。


「何だか怒ってなかった?」

「うん。メニュー決めよっか」


(俺の位置からだとさっき『これだからバカップルは……』って言ってた気がするけど気のせいかな?)


 俺達は一緒に一つのメニューを開く。そしてあーだこーだいいながらメニューを考えた。


「そう言えば食べたいって言ってた季節限定のってどれなんだ?」

「あーそれはね。これだよ」


 彼女が期間限定の品が載っているメニューを俺に見せつけてくる。そこには特盛ハートフルエキセントリックシャイニングゴールデンステーキとあった。


 俺は思わず目を擦って確認する。しかし、何度目を擦ってもそこに書いてある文字は一緒だった。


「この名前どっかで見たことない?」

「んー。ああ、この店さっきの店を提携してるとかで、お互いの押し商品とかをお互いに分け合ってる……みたいな感じだった気がする。商品名もその一環じゃないかな?」

「そうだったんだ……それは知らなかった」


 提携とかあるんだ。ていうかリス喫茶ってチェーン店だったりするのか?


「で、このステーキにしようと思ってたんだけど、幾ら運動したといっても沢山はいらないんだよね……」

「あーじゃあこれ頼んで半分にするか?」

「それだとちょっと問題ないかな?大人二人が1品しか頼まないって良くない気がする」

「それもそうか。なら台地ポテトでも頼むか。これならそこまで量も多くないし、2人でも充分に食べきれるんじゃないか?」


 ちなみに台地ポテトはポテトフライの並盛のことである。これより大きくなるのは想像に任せる。


「それならいいかな?」

「ああ、ならすぞ」

「うん」


 俺はボタンを押して店員さんを呼ぶ。


「今行きまーす」


 その声とともにさっきの女性が現れた。相変わらずその姿勢はよく、ほれぼれする。その店員さんに俺は注文を伝える。


「あの、この特盛ハートフルエキセントリックシャイニングゴールデンステーキと台地ポテト下さい」

「もう一度お願いします」


 なんでだよ。絶対聞こえてただろ。


 ちょっと苛立ちを覚えながらももう一回繰り返す。


「特盛ハートフルエキセントリックシャイニングゴールデンステーキと台地ポテト下さい」

「もう一回大きい声でハッキリと言ってください?」

「これください」


 面倒になったので商品を指さした。


 何だこの店員とは思ったが店員には避けて通れない場所があるのをおれは知っている。その時に復讐してやると心に誓った。


「……」

「それと取り皿も下さい」

「……」

「繰り返して貰えます?」

「では特盛ハートフルエキセントリックシャイニングゴールデンステーキと台地ポテトと取り皿ですね」

「ちょっと聞こえなかったです」


 これだ。店員は必ず復唱する。さっきのカフェでもそうだったのだ。あの時は躊躇いもなくサッサと言われて驚いてしまったが、今回は分かっていたのだ。この機会に復讐してやる。


「それと台地ポテトと取り皿でよろしいですか?」

「はい……」

「それでは少々お待ちください」


 そう言ってその店員さんはキッチンへ帰って行った。


 くそう、やった方法でやり返されてしまった。


「どうしたんだろ、何だか機嫌悪そうだね? それとも知り合いとか?」

「いや? 俺はあんな人知らないけど」

「あんな綺麗な人だったら忘れるはずないもんね」

「綺麗は綺麗なんだろうけど、俺はお前と一緒にいるのがいいよ」


 アニメの話も出来るし、気を張らなくていいし。


「そ、そう?」

「ああ」


 ドン!


 そんなことを話していたら目の前にコップが雑に置かれる。危うく水が零れる所だった。


 俺は何が起きたのかとそちらを見るとさっきの女性がいる。


「ごゆっくりどうぞ」


 そう言ってまたつかつかと去っていく。ここに来るときは忍者のように来るのに、帰っていく時はつかつかと音を立てて行く。一体どうなってるんだろうか。


 その際に俺に意味深な視線視線を送ってくる。


 もしかして俺が覚えていないだけでどこかで会っているんだろうか? 今の職について、というか農業を始めてから会う人はほとんど男の人ばっかりだからな。


 強いて言うなら彼女と彼女の家族くらいか? そこまで考えると俺って交友関係は広くないな。ちょっとショック。


……今はいい。て言うことは前の職場の人だろうか? でも前の職場の人って言ってもほとんど覚えてないからな。俺がいた部署にも女の子はいたけど大抵1年も持たずに辞めていった。だから消えた子のことは覚えていないがその中にあんな綺麗な子は居なかったと思うから違うだろう。


 それよりも前に帰るとなると大学や高校時代だが、学生時代はそんなことにうつつは抜かしていない、どころか男子校だったので出会うことすらなかった。以上。大学の友人は男しか居なかったし。


「考えてみたけど全然思い当たる節がないわ」

「そうなの? じゃあ何なんだろうね」

「大方、男女で来ている人達全員に当たり散らしてるのかもな」

「あんなに美人なのに? 流石にそれはないでしょ」

「いやーわかんないよ。大学のサークルの時の話だけど、美人過ぎて近寄り難いって言われて、あんまり相手にされていない人もいたからさ」

「へーそうなんだ。美人なのに大変だね」

「だから美醜だけで決めるのは間違ってるんだよ」

「いいこというじゃん」

「どうも」

「あ、ちょっとお手洗いに行ってくるね」

「うい」


 彼女はそう言って鞄を持ってお手洗いに向かう。鞄の中にハンカチとか入れてるのかな? 一応俺もポケットに新品を用意しておいたんだけど使うことはないのかもしれない。

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