第2話 夜の集会とその後
「あー働いた働いた」
おやつを食ってから仕事をしていたら、いつの間にか外は真っ暗になっていた。一心不乱にクワを振るい続けて気が付いたらこんな時間になっていたという訳だ。
流石にそろそろ戻って他のことをやらなければならない。
俺は残りは明日にしようと片づけを始める。農具を洗ったり、物によっては研いだりもしないといけない。だが、今日の所はそういうのが必要なものは無かった。だから今日は着替えとかを持って帰るだけだ。納屋で道具を揃えてから母屋に帰る。
ここ、田舎の夜は早い。都会にいたころでは想像も出来ないくらいの速度で日が暮れる。日が暮れるといってもその時間はそこまで都会と大差はないけれど、街灯や開いている店が無くなる。そして日が落ちてしまえば目に入る明かりは50ⅿ先のある街灯以外は何も見えないと行ったことも多々あった。だから夜の作業は危険だし、自分の所で光を用意できないならやるべきではない。
俺はこちらに越してきてそこまで資金に余裕があったわけでもないので、そういった物は買っていない。というか純粋に買うつもりもあまりない。かなりいいものを作っているお隣さんですら買っていないので、今のところは要らないんだろうと思っているからだ。
そして今は一度家に帰って会合の準備をしなければならない。急いで戻って着替え、会合に出発する。
「遅れました!」
俺は公民館に謝りながら入る。中はそれなりに広く、大きな30畳程の部屋が1つとと小さい10畳程の部屋が3つあった。今回は小さいほうの部屋が使われている。そこに駆けこむと中にいた人達からの視線が一斉に向く。
(ひえ)
いつ見ても圧力が凄い。そこにいるのはこの近辺に住んでいる(といっても20㎞とかの範囲も入っている)人達だ。そのなかでも年齢が比較的若い人だったり、それなりの年齢の人だったりするのが集まっている。彼らの共通点はこの近辺に住んでいることと、男であることだった。
「よく来たな。何かあったのか?」
「全く心配させんな」
「そうだぜ、来ないと見に行かなきゃいかんからの」
「仕事に熱中していたらこんな時間になっていまして。ほんとに申し訳ない」
俺が連絡をなしに遅れたことを心配してくれるいい人たちだ。俺がそれだけ言うと皆納得してくれた。
なので俺も彼らと同じように地べたに座り話し会う。
「さて、それではメンバーがそろったところで今回の話し合いはこれだ。消防団として出来ることと、全国大会の為の練習の頻度を上げる必要があるかについてだな」
この会合は消防団の会合なのだ。まずは消防団についての解説が必要だろう。この消防団とは何なのか、といってもつらつらとやることを書いても眠たくなってしまうと思うので簡単に一言で言おう。消防隊が来るまでの時間稼ぎ、みたいな認識で間違っていないと思われる。
最初の消火活動で消防団が消せれば万々歳。もしそれが出来なかった時は消防隊が来るのを待って人が近づいたりしないようにする等といった事をやっている。こういった地域には高齢者も多い為震災の時の救助等も手伝うこともあるのだ。
最初は面倒だと思っていたし、今も面倒だと思うこともある。そりゃそうだ。現代を生きていて、どんな楽しいことも面白いことも自分で見つけたり、探したりして見つけることが出来る時代。こんな田舎で週1で集まってやらなければならないようなこと等時代錯誤だとすら思う。
だけど、それと同時にこうも思うのだ。こうやってでも強制的に集まることで、自分の知らなかった楽しみ、皆が楽しみにしていることをしる機会になるんじゃないかって。俺は実際それで新たな趣味を見つけたし、俺の趣味を受け入れて一緒にアニメを見るようになった人もいる。
そりゃあ確かに面倒な人だっているし、わざわざ仕事終わりに集まらなければいけないのは正直言って正気じゃないとすら最初は思った。だが、いざやってみると楽しいことも十分にあったと思える。そんな経験をしたからか今ではこの会合も嫌いでは無くなっていた。
それからは1時間ほど事務的な連絡や今後の予定をどうするか等の話し合いになる。収穫時期等があった場合はみんな忙しくて参加は出来ないからだ。
そしてそれが終わったら酒盛りだ。そうやって図るコミュニケーション、いわゆる飲みニュケーションってやつだな。これは正直にクソだと思う。本当に要らない文化だ。火の七日間と共に燃やされればいいとすら思ってしまう。
それから2時間後に何とか解放してもらった。上手く抜けるコツは出来る限り相手に注いで飲ませる事だ。その人が飲んでいる間は飲まされることがないし、沢山飲んでくれれば早く潰れて解放されやすくなる。
「ふぅ。これさえ無ければな……うぅーさむさむ」
俺は夜の道は歩いて家まで帰る。いくら夏といっても夜は流石に冷えるし、今はTシャツ1枚しか着てないから体に応えるのだ。
少し急ぎ足で家に帰ると家の電気がついていた。
「あれ? 消し忘れたっけ?」
俺が中に入ると居間からはテレビの音が聞こえる。それの最近流行っている鬼に家族を殺された少年と妹の話だ。俺も大好きでかなりみているし、コミックスも全て持っている。
「何でついてるんだ?ってお前か」
「お帰り……って酒臭いよ?」
そこには昼間俺を呼びに来てくれた少女がうつ伏せでテレビを見ていた。その格好はキャミソールに短パンとラフな格好で目のやり場に困る。胸も普段は農作業ので隠れているが意外と大きいのも気になった。だが俺は大人。こんな少女に手を出すほど飢えている訳じゃない。
「仕方ないだろ。消防団に行くと毎回飲まされるんだから」
「大変だねー」
「他人事かよ」
「それよりもこのアニメ面白いね」
「ああ、アニメは途中までしかやらないからな。最後まで、っていってもまだコミックスは出てないけど最新巻までならあるぞ」
「ほんとに!? 流石だよ! 今度見せて!」
「いいぞ。でもアニメはアニメでいい所もあるからそっちを見るのも進める。技のエフェクトとかがこれまたかっこいいんだ。特に雷のあの感じとか最高でな」
「待って待って! ネタバレ禁止!」
「あ、ああ、すまんすまん」
ネタバレとかはしないように気を付けてはいるんだが好きな作品の話を聞くと直ぐに話始めたくなってしまう。それでよく人からは気を付けるように言われてしまったものだ。とはいっても早く見てもらって話したい。この作品の面白さを共有したい。
かといっても彼女が直ぐに見終われるわけではないから流石に無茶振りが過ぎるか。
「それじゃあ俺は風呂に入ってくるから好きに見ててくれ」
「はーい」
彼女はそう言って再生ボタンを押す。そこはかなりいいシーンでこれから更に面白くなるといった所だった。しかし流石にそこで見始めるとずっと見てしまうと思って視線を外して風呂に向かう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます