第54話 利己と利他の狭間
文化祭2週間前
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わたしは、けんたろーが好きだ。
それは、きっとこれからもこの先も変わらない。
けんたろーの笑顔をみるだけで胸がきゅーってなって苦しくなる。
劇でけんたろーと恋人となれる役を、もらえただけで、ついつい笑顔になってしまう。
そのくらい好きだ。
だからこそ、けんたろーに許されないはずのことをしたにも関わらず、笑顔であたしと話してくれるけんたろーがさらに好きになってしまった。
本当はいけないことだ。
そんなこと、バカな私でもわかる。
そのために、私の恋心の整理をつけるために私の気持ちを気遣ってけんたろーは私に時間をくれたのだ。
選ぶ権利のないはずの『けんたろーと過ごす権利』ってやつを私に選ばせてくれたんだ。
その気持ちを裏切りたくなんてない!
ホントにけんたろーが好きだから。
けんたろーが私を気遣ってくれるように、私だってけんたろーを気遣いたい。
千里さんが私に遠慮をしてけんたろーとキョリをとろうとしている節があるのには、プールの件もあって気づいていた。それをはっきりと知っているのはきっと私だけだ。
だから、私がけんたろーの恋を何とかしなければ!
って思っている。
けんたろーが私じゃない誰かと一緒にいる姿を想像するのはほんのちょっぴり、悲しい。
だけど、けんたろーが私のせいで好きな人と付き合えないのは嫌だなって思う。
けんたろーが誰かと付き合うのは泣きたくなるくらいに嫌だけど、許してくれたけんたろーの気持ちに応えたいなって思う。
ううん。わたしは心の中で首を振る。
わたしは、ただ好きな人のために何かをしたいだけなのかもしれない。
けんたろーのために何かができているって思うだけで身体がぽかぽかして幸せに思えてくる。
もしも、私の行動によって、けんたろーと千里さんが付き合ったりしてしまったら悲しいし自分がしたことを後悔しちゃうと思うけど、それでも今の私はけんたろーのために何かができることが幸せなんだ。
わたしはその思いを胸に千里さんの電話番号を震える手でスマホに入力した。
そして、軽く呼吸をした後わたしは、通話ボタンをクリックした。
プルルル、プルルル
2回ほど、電話音が鳴る。
そこで私は思わず電話を切ってしまった。
ふと、千里さんとけんたろーが手を握って目を合わせている姿が私の心に過ったのだ。
もしも、恋のキューピッドみたいなことをして千里さんとけんたろーが付き合ってしまったらやっぱり嫌すぎる。
けんたろーの幸せを願うと自分も幸せだなって思っていたのに、いざ具体的な二人の姿を想像するとやっぱり嫌になってしまう。そう思う自分の情けなさに対して、自分自身の心の弱さに対して私は、嫌気がさした。
それでも、再び二人の姿を想像すると、想像するだけで、呼吸が荒くなる。
気分が悪くなって吐き気がしてくる。1日10時間以上勉強した夏休みの合宿よりも遥かに辛い。
千里さんとの待ち合わせのために30分前に集合場所に立ってデートを楽しみにしているけんたろー。
カフェで一緒に過ごす千里さんとけんたろー。
水族館で一緒にイルカショーをみて、二人で少し濡れてしまって思わず笑みがこぼれてしまう千里さんとけんたろー。
私の想像の具体性が増すほどに私の胸は苦しくなってしまう。
千里さんに電話をかけるのは、明日にしよう。明日でも問題はないはず。
今日、一日だけは自分を甘やかしてあげよう。
そう、私が心の中で言い訳をした直後
プルルル、プルルル
無情にも私の電話が私の部屋で一人虚しく鳴り響く。
スマホの数字は、先程私が入力した千里さんの番号が記されていた。
わたしは自分の呼吸が荒くなるのを自覚した。
一瞬、無視しようかなと思った。
それでも、自分のせいでけんたろーを苦しませているのではないかと思うと、電話に出ないわけにはいかなかった。
私は、観念して、めまいを起こしながらも何とかけんたろーの好きな人の電話に出た。
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