第43話 ヤンデレを治すたった一つの方法
くそったれ!痛ぇじゃねーか。
俺は刺された腹部を抑えながら心の中で叫ぶ。
(それでも、我慢しろ、俺!凛の心の痛みはこんなもんじゃねーぞ⁉)
手に触れる熱いドロッとした液体を感じながら自分に言い聞かせる。
千里さんに恋をした今なら、九年もの間、恋心を抱き続けて、その焦がれる相手が隣にいる気持ちがわかる。
そんなのはひどすぎるよな。
中途半端に希望を見せられる生殺しだ。
普通に振られるのの数百倍ひどい。
辛すぎる。
しかも、俺が勘違いを誘ってしまった。期待しても無理はない行動をしてしまった。
その痛みに比べたら、こんな痛みなんて屁でもねーだろ?
心の中で強がるけれど、刺されたところは焼けるように熱を持っている。
「バカじゃないの?なんで、刺されたの?何でよけないの?よけれたでしょ⁉」
凛は自分で刺したにもかかわらず青ざめた顔をしている。
よかった。自分の行動が間違っているって、凛はまだ気づけるんだ。だったら、大丈夫だよな。
ばたん
そう思って安心したからか、はたまた血が抜けていったせいか、力が抜けて倒れてしまった。
俺はそこで、意識を手放した。
*
「童貞君、おはよー。」
千鶴さんが明るく声をかけてくれる。
「凛は?」
銀髪の少女をみて開口一番幼馴染のことを尋ねる。
「ふふふ。加害者の心配とは、吞気なもんですねー。」
「それで、大丈夫なんですか?」
とぼけたように質問をはぐらかす千鶴さんを問い詰めるために、思わず起き上がろうとベッドに手をつこうとする。
だが、麻酔のせいか手が上手く地面を掴む感覚がない。
「動いちゃだめだよ!大丈夫。健太郎君に言われた通り、警察に突き出したりはしていないから。パパとママにも秘密にするように言ってあるから大丈夫、だから心配しないで」
俺はそれを聞いて全身が安心に優しく包まれた気持ちになり力が抜ける。
よかった〜。
凛が俺のために、人生を棒に振らなくて。 それと治療してくれたであろう千鶴さんの両親には頭が上がらない。
俺は、途中、千鶴さんに連絡をしていた。唯一、閃いた案は千鶴さんに連絡することだった。あのとき俺は、千鶴さんの家にある医療設備のことを、思い出していたのだ。
ぶちゃけ、時間が時間だったから千鶴さんが俺からの連絡に気付いてくれるかは、かけだった。むしろ、気付いてもらえないだろうな、って半ば諦めていた。割と本気で死ぬことを覚悟していた。
一応、ラインには、万が一にも刺されたら、俺を千鶴さんの家に内密に連れていって手当てをしてほしいと頼んでおいたけれど、無駄に終わると思っていた。
それでもあの時、俺にできることは全てやろうと思ってやった。
包丁を自分で自分の腹に持っていったのも、別に、格好つけたわけではなくて、単純に重症にならない場所へと包丁を持っていったのだ。
まさか、千鶴さんの休憩時間の医学話が、こんなところで役立つとは。聞いておいてよかった。
俺の母親がいつか言ったように、“人間万事塞翁が馬”ってやつだな。
「ええーーーん。よかったよー。ごめん、ごめんなさい。」
考え事をしていると、凛が泣きながらやってきた。
「凄い光景だね、加害者と被害者が同じ部屋にいるって。」
千鶴さんは苦笑しながらもこの光景を受け入れてくれていた。
イレギュラーな事態にもかかわらず寛容な心で接してくれる千鶴さんには感謝しかない。凛に対しても引いているような様子はない。中々の胆力だ。
「言っておくけど、ボッチ君、今日は安静にしなさいよね。」
「はい、わかっていますよ。ビッチちゃん。」
そこまで言ったあと、改めて、お礼を言う。
「色々、ありがとうございました、千鶴さん。それに、凛も泣くなよ。大丈夫だから、むしろ今まで気付いてやれなくてごめんな。」
「うん。私は大丈夫。」
隣では、俺の世界一の幼馴染は笑ってくれていた。
こうして、俺の、模試を含めた長い一日が終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます