第39話 プレゼント
千里の憂鬱
(どうしよう?朝にラインを送ったのに、返信が来ないよ。昼にみたら既読は付いていたのに!昼間に一緒にランチを食べた千鶴ちゃんも健太郎君にメッセージ送ったらしくって、返信があったって喜んでいたのに!やっぱ、けんたろー君、美人がいいのかな?千鶴ちゃんに比べたら私なんてブサイクだし。こんなこと考えちゃう面倒くさい女だし。医学科の女性の結婚率は一〇%くらいらしいし。
私は結婚できないんだろうなぁ。…って、そうじゃないでしょ千里。どうして、ここで結婚なんて話が出てくるの。私はけんたろー君の家庭教師として応援する立場でしょ。それにけんたろー君は既読スルーをわざとするような子じゃないし。きっと、テスト直前に私のラインをみて返信する時間がなかっただけだよね。)
千里は、一人で悶々と頭を抱えていた。自身の医学部の勉強の復習や、これからの健太郎の勉強の準備をしているのだが、三〇分に一回は、来ているはずもないラインを見てしまう。それでも、健太郎に恋をしていないといいはる千里は、案外強情で見栄っ張りで、でも、やっぱり義理堅くて優しい女の子だった。
*
やったー。終わったー。
国語も含めた分量のテストは本来、二日かけて行われるものなのだが、模試は時間と経費節約のために一日で行われる。そのため、端的に言って疲れるのだ。本来、二日でやるものを一日でやろうとするのだから当然だ。朝九時半から、夜の十九時までかかるって異常だろ⁉
とりあえず、千里さんにラインで模試が終わったことを報告をしようとラインをあける。
すると、千里さんから追加でメッセージが来ていることに気づく。
千里:よかったら、今日、凛ちゃんと一緒にうちに来ない?せっかく、模試を受けたんだったら復習も大事だし、一緒に復習をしましょう。
健太郎:いいんですか?バイト外なのに、、、
流石に夜も十九時を回っているし、迷惑かと思った。それにこれ以上、千里さんに迷惑をかけるのは嫌だった。
だけど、天使は
千里:若者は遠慮するでないぞ。家庭教師のアフターサービスだよ。うちはきっちり、アフターサービスまで保証する親切な家庭教師設計なんぞよ。
なんて言ってくれるので甘えることにした。
健太郎:はい。楽しみにしています。
*
模試の終わる少し前、健太郎からの返信が来ないことに千里は悩んでいた。
一応、スタンプを送るくらいの時間は、模試の休憩の合間にあるのに一向にラインの返信が来ないからだ。
(うー。そろそろ模試、終わるな。返信くるかな?けんたろー君はテストどうだったかな?けんたろー君に会って聞きたいな。でも、流石に模試の報告聞くためだけに疲れている健太郎君を呼び出すのも可哀想だしなぁ。)
千里は悩んでいた。自分が聞きたいがために健太郎の手を煩わせるのは申し訳ない。かと言って、このままラインの返信が一生かえって来ないのではないか、という不安もあって、何かをせずには、いられなかった。
そこまで考えた時、千里に閃きが舞い降りる。思わず手を叩く。
(あ、そうだ。今日やったテストの復習を家でやるのはどうだろう?テストの復習はやらなきゃいけないし、早い方がいいよね。これならちゃんと健太郎君のためになるよね?だったら、凛ちゃんも呼んでテストの復習会をしよう。けんたろー君のことが好きであろう凛ちゃんにも悪くないし、けんたろー君のためにもなるしいいよね?)
そう小さく声に出して千里はラインのメッセージに追加のメッセージを送ったのだった。
*
結局、凛は来なかった。別に千里さんと二人きりになりたいがために凛のことを誘わなかったわけではない。凛のことは一応、誘ったのだけれど、今日は凛の父親の誕生日らしくこのまま誕生日プレゼントを買って帰るとのことだった。何でも、万年筆を買ったのだが、それがやっぱり、気に入らないということで別のプレゼントを買うそうだ。
ちなみに、日頃の教師役としてのお礼ということで、その万年筆は俺がもらった。大切に使おうと思う。普通のペンよりも機械チックで、重いペンだったから、多分高かったと思う。
カメラのレンズみたいな部分が特にデザインとして好みだった。やっぱりメカっぽいのはいい、テンションが上がる!
とはいえそういった事情のために図らずも、憧れの年上の女性の家に一人でお邪魔するシチュエーションになってしまった。
…凄くうれしいです。はい。
もちろん、千里さんに俺に対する恋心なんてものはないだろう。
あるなら、凛は誘わないで二人きりになろうとするはずだ。
それでも、給料も出ないのにテストの復習会をしてくれるとか俺に対する知り合いとしての好感度は高いんじゃね?これって、あと少し頑張れば千里さんとただならぬ関係ってやつになれるんじゃね?なんて期待に胸を膨らませそうになる。
いや、まて。千里さんほど人当たりのいい人ならもしや医学科の同級生とかと男女混合で勉強会とか飲み会とかしているのでは?あんなに美人な人がそういった催しに誘われないわけがないし。それと同じような感じで誘ってくれたのでは、と思った。
そこまで思考が至るとなんだか浮かれていた自分が馬鹿みたいだった。凛とのこともそうだけど最近は勘違いがひどすぎるので、自己評価を低くしていかないといけないなって思う。
そうは言っても、千里さんが俺たちのために勉強会を開いてくれようとしたのは事実なのだ。しっかりと集中しなければならない。
“よしっ。頑張るぞ。”
気合いを入れるため小さく呟く。
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