ビビりでぼっちな地縛霊。

甘都生てうる@(●︎´▽︎`●︎)

プロローグ

0-1

「......よし、今日はここに行こう......!うわあっ、と、」



 犬のフン、不法投棄されたゴミ、そしておっさんのタバコの吸殻にごろごろした石と、危ないものが大量に落ちている道を歩く、1人の女性が居ました。


 ......私は、小枝樹 一愛さえき はな弥端みはな町というところに住んでいる、御歳25歳の......元、OL......です。



「こんちはぁー!」


「はひゃっ!!こ、こんにちは!!」


「こん、にちは......?」



 び、びっくりした......いきなり話しかけられた......こほん、続けますね。


 高卒してからすぐに地元企業に就職し、6年ほど働いて、贅沢せずにずっとお金を貯め続けて......内職とかもやって600万貯まったある日、会社をやめて自分探しの旅......という名の、リフレッシュ旅に出たんです。


 そこで......はわ、そこで事件は......っとと、起こったんです。......危ないなあ、この道......


 私には、頼れる優しい旦那さんがいたんです。私と同い年の、かっこよくて頼れる、ほんっっとうに優しい人が......


 一愛ちゃん、一愛ちゃん......って、何度も何度も優しく名前を呼んでくれる、旦那さんが。


 それなのに......私、気づいたら財布をスられたか忘れちゃったみたいで、全財産とスリムフォン、それに免許証とかキャッシュカードとか通帳、印鑑とかも全部、失くしちゃったんです。


 ......しかも、ほんっとうに、ほんっ......っとうに訳が分からないんですけど、家の住所、電話番号とか忘れちゃった、のです......っすう......


 なので、私は廃屋やら高架下やらを転々としながら、今は過ごしているのです。......ずっと、ずっと......



「......ああああああああ!!なんで、なんで私はっ......そんな大事なことを......」



 思い切り叫んじゃった私を、まだあんまり遠くに行ってなかった、先程挨拶してくれた黒髪の子が変な目で見てきてます......うぅ、泣きそう......その隣の子も、黒髪の子と私の方を見て不思議そうにしてるし......


 あ、さっき、さっきここに行こうって言ってたのは、放置されてる家......いわゆる"廃墟"と呼ばれる建物の位置を、弥端町の地図を見て確認していたんです。


 弥端町北区の公園に設置されている弥端観光マップには、弥端町の観光名所がいくつか載っているんです。


 そして私は、その観光マップの右端の方に載っている"弥礁華みしょうげの湖"と呼ばれる湖のある弥礁の森の奥に、"幽霊が出る"と噂の廃屋があると聞いたことがあって......私はそこに、居を置くことにしたんです。



「......はあ......」



 ......とはいっても、ここから車で15分で弥礁華の湖!と、マップには書いてありました。


 でも、有り金0の私はタクシーはおろか、バスにすら乗れません。


 ヒッチハイクなんて、やる勇気ないし......なんか怖いし......できません。


 なので、車で15分かかる道を、歩いていくのです。倍以上の時間をかけて!!ふぇっ、疲れるよぉ......タクシー乗りたい......




  ◇◇◇◇◇◇◇




「......やっと、ついた......!」



 北区の公園でマップを確認した時点で、時刻は昼下がりの午後2時だったんですが......今はもう、太陽も傾き始めています。午後5時、ってところかな?


 そんな時刻なわけですが、私はこの怖くて、暗い廃墟に入らなくては......ならない、のです。


 ......木造の立派な建物が無惨にも朽ち果てていて、黒く荒んでて穴とか、色々空いてて......すきま風多そうだし、窓ガラスとかも割れてて結構危ない。なんか......ゴミとか中身入ったペットボトルとかも落ちてるし、最悪です。......おわぁ、虫も、コウモリもいるよぉ......怖いぃ......


 本当は、本当は入りたくない......けれど、背に腹は代えられないので、入ります......!


 幸いにも、上着のポケットには小型のLED懐中電灯があって、着くことも確認済み。あとは......1枚の、小さな紙。あることしらなかった......まあいいや、多分、見たら元気になる紙だと思う。仕事のメモかなんかだろうけど......そんなんだけど、頑張ろう!ってなる紙が......



「......、」



 私は、ごくりと固唾を飲んで、LED懐中電灯を片手にその廃屋に足を踏み入れました。

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