My Dairy

河原葉菜陽

第1話 負けるが勝ち

「ゲームを始めますか?」

「はい」


冒険に出る前は準備を怠らない。

忘れ物は無いか、戦略はこれで良いか、念入りに確認する。それが今後の勝敗を分けるとわかっているからだ。


このゲームは一回きりの勝負。負ければ即ゲームオーバー、またやり直し。セーブポイントなんて無いし、なんならいきなりボス戦だ。


「今日はどんなダンジョンだろう」

幸いなことに、同時にいくつのプレイヤーが参加しているかわからないほど味方は大勢いる。心強い。


カシュッ


スタートボタンが押された。試合開始の合図だ。


「いくぞ!今日の陣形は鶴翼だ!」

わああっと攻め込んでいく。


右へ左へ、自分達の背丈よりも高い高い草をかき分けて前へ進んでいく。途中に落とし物や宝箱があることが多いので、残さず拾い集めるとスコアが高い。


キュッ


「ん?」


あっという間に時間切れだ。あの音がなったと同時に空から滝の如く水が降ってくる。熱い。仲間は立っていられずどんどん流されてゆく。水の勢いはダンジョンによって異なるが、今日はいつもより勢いがある。




エリアに仲間は一人としていなくなった。

僕たちは負けた。


人間が勝った。

人間は、とても穏やかな顔をしている。




そう。これは人間を勝たせるゲーム。

勝ってもらわないと困るのだ。負けるが勝ち。僕たちが負けることは、人間の勝ちであり、人間の健康や癒しを支える。それがわかっているから、負けることは悔しく無いし、負けることが誇らしい。


「今日も負けだ。良い仕事をした。お、そろそろまた新たな仲間がやってくるころだ。どんなメンバーか楽しみだ。」


空になった容器に、シャンプーの詰め替えが注がれた。




あとがき

お風呂に入っている時にこのシャンプーの大冒険に浸ってました。案の定、のぼせました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る