寄り添う

「ヴェロニク、呼び出してすまない。それ以上に今まですまなかった」


 そう言うとオウジサマはあたしに頭を下げた。なんていうか今までが今までだっただけに割と気持ち悪い。


「いや、呼び出しはいいんだけどさ。約束してたわけだし。今までっていうのはどれについてだ?」


 オウジサマから謝罪を受ける心当たりがありすぎてどれのことを言われているのかわからない。


「まあ、なんもかんも、だな。君を男性と勘違いしていたことも、唐突に罵声を浴びせたことも、いきなり喧嘩を吹っ掛けてしまったことも、だ。あとお礼も言いたい。君のお陰で父上ときちんと話せた。ありがとう。それと四葉もありがとう。遅くなってしまったけど言いたかったんだ」


「そ、そうか」


 一気にいろいろ言われすぎて碌に返事ができない。えっと、なんだって? 男性????


「え、お前あたしのこと男だと思ってたのか」


「ああそうだ。君は髪が短いし言葉遣いは悪いし乱暴で粗雑だからな。まったく気づかなかった」


「否定できねえ」


「そういうとこだ。ちょっとした言い方に気をつけなさい」


「スミマセン」


 しかしオウジサマはあたしの顔を見て表情を和らげる。


「けど君もずいぶん髪が伸びてきたな。きちんと整えれば女性らしく見えるはずだ。これをあげよう。栞のお礼だ」


 そう言って差し出されたのは髪飾りだった。


「使い方はアデールにでも聞くといい。あとは……。うん。君には言わないといけないと思ったんだ」


「あのさ、何でもいいけど君君言うな。偉そうだ。いや偉いんだけどさ」


「……なんと呼ばれたい?」


「他の人と同じ、ロンでいいよ」


「わかった。じゃあロンも俺をオウジサマって言うのは止めてくれ。エロワでいい」


 頷いて見せるとエロワは話を続けた。


「俺がロンにイライラしていたのは、きっとロンを見るアデールが母親みたいだったからでさ。ロンがアデールに叱られているのがすごく羨ましかったんだ」


「叱られているのが?」


「俺の母上は俺が幼いうちに亡くなっているから叱られたことをもう覚えていないんだ。それ以外もだけどね。父上は忙しいから余計な手間をかけさせたくなかったし。アデールに甘えてみせても彼女は俺のことなんか歯牙にもかけないし」


 まあ子供って歳でもない異性に甘えられても困るよな。アデールからしたらエロワは友達の子供とかそんな感じっぽいし。それにアデールとエロワは歳は離れてるとは言っても親子ほどではないから叱ったりはしづらいだろう。


「だからさ。叱られて反抗したり反省したり仲直りしたりしているのが、すごく親子っぽくて羨ましかったんだ。本当にすまない。そんな個人的な嫉妬で嫌な思いをさせてしまって」


「そっか。わからなくはないからいいよ。あたしも町で親と手をつないでる子供見ると羨ましいし」


 そう言って笑うとエロワも苦笑した。


「ロンの両親のことを聞いてもいいかな」


「おう。じゃあエロワの父さん母さん、それからエロワのことも教えてくれ。あたし、お前のことなんにも知らねえわ」


「言葉遣い!」


「はいはい、ごめんて」


 そうしてあたしたちは話し出す。親のこと、自分のこと、今のこと、これからのこと。


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