第185話 友達の話は楽しそうに


「彼女は魔族である魔狼と人間のハーフの女の子ですわ。しかし、そんなことは些細な事。彼女の魅力は誰にでも話しかけに行ける行動力。冗談を言い合えるノリの良さ……そして抜け目のなさですわ」


 抜け目ないって褒め言葉なんでしょうか。私の頭に若干引っかかります。


「飄々としている癖にいつも周りを注意深く見ていて、そしてこっそり掃除したり、気を回したりしてくれます。彼女の細かな気の使い方は」


 そう言われてみると、ウルさんがいる時って気がつくと食べ散らかしたお菓子の残骸が掃除されていたり、遊んでいた部屋がいつの間にか整理されていたりしています。あれもウルさんのお陰だったんでしょうか。


「……まあ、わたくしの周りの男性陣は鈍い方ばかりですので、彼女の気配りには気が付いていないかもしれませんわ」


「……………………」


 やっべ、全然気づいてなかった。今度何かお礼でも言っておこう……得意げになっているマギーさんを見つつ、私は内心で徹底的に焦っていました。


「……じ、じゃあ! 次は男性陣ですわね!」


 私の反応があまり良くなかったのか、マギーさんが慌てた様子で話し始めました。しまった。今の私はマサトじゃなくて魔王でした。


 ウルさんの気遣いに気が付かずに落ち込んでいるのはマサトです、魔王じゃありません。


「まずは変態ドワーフでしょうか! 彼は本当に馬鹿の申し子ですわ!」


 こちらを楽しませようと彼女が出したのは、馬鹿の申し子呼ばわりされているシマオについてでした。アイツ、マギーさんからそんなこと思われてたんですか。


「金に汚く、わたくしと後述する野蛮人との喧嘩をいつも賭け事にしております。皆さんから場代と称してお金を取っておりましたので、この前成敗しましたわ」


 ちょっと前にシマオが「ワイの儲けが~!」と泣いていたのは、マギーさんの仕業でしたか。


「しかもセクハラ全開で、わたくしの胸に飛び込んでこようとしたりと。欠点を挙げたらキリがないのですが……でも、彼はそれだけではありません。いつだって、彼は一人ではなく、誰かと一緒に楽しもうとしてくれます。楽しい事はみんなでやろう。そう思える心は、凄く素敵なことだと思いますわ」


「……そうだな」


 言われてみると、シマオはいつもこれ面白そうやからやろう、と私達を誘ってきてくれます。


 独り占めするのではなく、みんなで共有したいと。確かにそれは、良い事ですよね。


「そして、先ほど少し出しました野蛮人ですわ。彼は本当に、性格も見た目もそして言動も、野蛮ですわ」


 やがては兄貴の話になりました。まあ、元貴族のマギーさんからしたら、不良で名の通っていた兄貴は野蛮なのかもしれませんが。まさか呼び方まで野蛮人で固定されているとは、最初に驚いたものです。


「スケベでガサツで頭も悪く、すぐに挑発に乗って相手に突っかかっていく……仮に野蛮という字を擬人化でもしましたら、あの人間になると、わたくしは思っておりますわ」


「……ふふ」


 野蛮という字を人間にしたら兄貴になるとか……マギーさんの言い回しセンスに、思わず笑ってしまいます。


 兄貴、すみません。一応、内心では謝っておきました。


「ええ、本当にどうしようもない人間で……それでも、彼は頑張っておりますわ」


 笑った私に安心しつつ、マギーさんは続けます。


「彼は、自身のお祖父様の剣を見せつけるのだと、超えたい相手がいるのだと。それを必死になって乗り越えようと努力しております。正直、わたくしと正面切って戦えるのは、同学年では野蛮人しかいないと思っておりますわ。それほどまでに、彼は努力しております。見えない所で」


 確かに。マギーさんと対等に渡り合えるのは、同年代では兄貴くらいのものかもしれません。それはクラス対抗白兵戦や、この前の体育祭での模擬剣術戦でも良く解りました。


 ニヤニヤしながらエロ本を眺めている姿を恒常的に見ている私ですが、兄貴がそれだけではないこと。


 彼が受け継ぎたいお爺さんの剣、一刀一閃流で見返してやるんだと、毎日の鍛錬を欠かしていないことも、知っています。


「……強い、男なんだな」


「……ええ。本当に」


 そう口にした私の言葉に、マギーさんが同意します。彼女は彼女で、いつも喧嘩ばかりしている姿を見ていますが、内心では兄貴の事を認めているんだという事が、よく解りました。


 兄貴の話が終わった時にメインディッシュも食べ終わり、後はデザートだけとなりました。ウェイターさんらが食器を片付けてくれている中、マギーさんが話し始めます。


「……そして最後に。マサトという男の子ですわ」


 彼女が最後に出したのが、私の話でした。

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