第27話「模擬戦予告」

「も、模擬戦?……ですか?」


 目をパチクリしたメリッサ。

 イマイチ事情が呑み込めないようだ。


「そうだ。模擬戦だ。いたってシンプルだろう? 言っても話しても通じないなら────拳で殴りあう。魔法オーケー、スキルオーケー。殺さなければ何でもありのバトルロイヤルだ。冒険者らしいだろ? メリッサ、お前もギルド職員ならその流儀に慣れるんだな」


「な、慣れるんだなって……そんな無茶苦茶な」


 顔をひきつらせたメリッサと、ギルドマスターのどや顔が随分と対照的で、レイルも苦笑いをしるしかない。

 それにしても、ロードの模擬戦だと?


「くくく……そりゃあ、いい────この生意気なDランクに思い知らせてやろうじゃないか」

「ふん……こっちのセリフだ」


 早くもバチバチと火花を飛ばし始めたロードとレイルの視線の応酬。


 しかし、ここでさらなる追撃が。


「──あぁ、もちろん、パーティ戦だぞ」

「な!!??」


 何気ないギルドマスターの一言にレイルが硬直する。


「ぱ、パーティ戦……だと?」

「当たり前だ。お前が報酬をすべてよこせというのに、他のパーティメンバーは公平な分配を求めているだけだ。我を通すなら義理も通すんだな──当然の話だろ?」


 な……。

(何が当然の話だ!!)


 ギリリと歯ぎしりするレイル。

 一対一なら、スキルを駆使すればやりようはあるかもしれないが……。


「えっと、つまり────レイルさん一人と、ロードさんたち残りのメンバーでの対決って、ことですか?」

「そうだ」


 メリッサの疑問にこともなげに頷くギルドマスター。


「む、無茶です! そんなの模擬戦じゃありませんよ!」

「だが、それがパーティの総意だ。レイルはレイルの言い分があり、ロード達にはロード達の言い分がある──」


 ギルドマスターの一見して公平ともいえる物言いに、レイルの頭に血が上りかける。

 このハゲ頭をカチ割ってやりたいと──。


(いや。落ち着け……。数が多くても、やることは変わらない)

 そうさ……。

(……俺のスキルならできるはずだ)


「ですが! そんな勝負──レイルさんの何の得にもならないじゃないですか!?」


 そう。メリッサの言う通り、レイルには何の得もない。

 レイルが勝てば、レイルが狩ったグリフォンの報酬を貰える。…………それだけだ。

 一方で負ければ?


 ……レイルの報酬は均等に分けられてしまい、喧嘩両成敗のお裁きを受ける。

 それどころか、模擬戦とはいえ打ちどころが悪ければ死ぬことだってある。むしろ、ロード達なら事故を装って積極的にレイルの命を狙おうとするだろう。ロード達に問って、生き残ったレイルはのどに刺さった小骨と同じなのだから。


 それでも──。


「いいよ、メリッサさん。それで構いません────やろうぜ、ロード」

「へっ! 生意気な野郎だ! いいだろう、そんなに俺たちの力が見たいならタップリ見せてやる──テメェの身体にな!! そのうえで俺たちが負けたら、土下座して、前転して、もう一回土下座してやらぁ!」


 土下座の好きな野郎だ……。


「む、無茶です!! そんな、……だって、ロードさんはDランクなんですよ?! お一人でも厳しいのに!!」


(メリッサさん、庇ってくれてるのはわかるけど、その言葉は俺にも刺さります……)


 少し、ズーンと気分の落ち込んだレイルだが、それをおくびにも出さないようにする。


「無茶かどうかはレイルが判断するさ。そうだろ?」


 それは暗に、嫌なら降参しろと言っているのだ。

 だが、それに素直に頷けるレイルではない。


「──……一応聞くけど、断ったらどうなる?」

「公平に報酬を分けることになるだろうな? それすらも嫌だというなら、ギルド規約に違反したとして、冒険者の資格をはく奪し、領主府の裁判にかけることになるだろうな──資格を失えばお前は冒険者ではない。ただの領民だからな」


 ち…………!


「そ、そんなの無茶苦茶です! れ、レイルさん。話し合いましょう! ほ、報酬だってみんなと均等に──」

「それはできない!」


 頑としてメリッサの妥協案を蹴るレイル。

 それは意地であり、孤独に殺された56人の冒険者たちの仇のためでもある。


 なにより、レイルには──────。


「いいだろう。ならば模擬戦だ!!」


 そして、死ね! と言わんばかりに憤怒の表情でギルドマスターが言い放つ。

 そこまでレイルが意地を張ると思っていなかったのだろう。


「ハッ! 望むところだ!」

「レイル……。てめぇ、ギッタギタにしてやるから覚えてろよ!」


 ロードとラ・タンクが闘士をむき出しにし、控えていたセリアム・レリアムも薄目でレイルを睨む。

 反応が薄いのは一貫して不干渉を貫きたいらしいフラウと、伸びているボフォートだけだった。



「ふん……まとめてかかってこい!」



 そう。

 なによりレイルには勝算があった。

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