第18話「すばやい逃亡者(ロード達視点)」

 ガラガラガラッッ!!


 レイルがグリフォンを倒しているなどつゆとも思わないロードたち。

 彼らは村から脱出すると同時に、猛烈な勢いで装甲馬車で駆け抜けていた。


 二頭立てで走るフラウ謹製のそれ・・は、全く故障もなく走り続ける。

 車軸の動きも滑らかで、独自発明のサスペンションもよく効いているため地形に適応して田舎の道を爆走していった。


「ひぃぃやっほぉぉぉぉおおおおおい!!」


 手綱を握るラ・タンクが奇声を上げている。


 それに対して、

「あまり騒ぐな! グリフォンは執念深いぞ」


 馬車の音とは別に人の声とは存外遠くまで響くものだ。

 もしもグリフォンに聞きつけられればと思えばロードの注意も頷ける。


「へっ。気にしすぎさ──ここまで逃げればそう簡単には追ってこれないだろう」


 数時間ほど馬車を走らせて十分に距離をとったとラ・タンクは言う。


「グリフォンを甘く見るな。この辺はすべて奴のテリトリーだ。なんたって、つがいのグリフォンを怒らせたんだからな。奴らは俺たちを忘れはしないさ」

「そうですよ。え~っと、名前がなんでしたかな──あーあのDランクのクズが稼げる時間なんてたかが知れています」


 ロードもボフォートも慎重を期せという。


「へーへーかしこまり~……。じゃーもうちょい走らせるか?」


「ちょっとぉ……。いくら乗り心地を改良したって言っても馬車で全力疾走はやめてくれない?」

 肌が荒れちゃうわーと、暢気な様子の神殿巫女のセリアム・レリアム。

「僕も賛成できないかな……。馬が持たないよ」

 無口なフラウでさえ、馬の限界を理由に速度を落とせという。


「あ、確かにやばいか?」


 ラ・タンクは手綱越しに馬の異常を感じ取っていた。

 ぜいぜいと苦しそうにあえぐ馬は大量の汗をかいて息も絶え絶えだ。


「だが、グリフォンが羽ばたけばこの程度は指呼の距離だぞ?」

 未だ不安そうに空を見上げるロード。

 聖騎士と言えどグリフォン相手に真正面から勝てる見込みはないとわかっていた。

「だーいじょうぶよ、村を出る前に幻覚魔法を放っておいたから」

 ニィと美しい顔を歪めて笑うセリアム・レリアム。

「なんだと?!」

「げ、幻覚魔法ですか? いつのまに……」


 ボフォートですら気付かないほど巧妙な手管だったのだろう。


「うふふ。アンタたちとは潜り抜けてきた修羅場が違うのよ。こちとらこれでも王族なんですもの」


 ふふん、と笑うセリアム・レリアム。

 彼女曰く、村中に幻覚魔法を放ち、グリフォンの目には村人がレイルや『放浪者』の面々に見えるように仕掛けたという。

 怒り狂った相手にしか効果が薄い、単純な魔法らしいが、あの状態のグリフォンには有効だろう。


「えっげつねー女だぜ、じゃどうする? いったん村に戻るか?」

「馬鹿言うな。セリアムのおかげでグリフォンが大暴れしてくれるんだ。奴が村人を食いつくすまでどっかで時間を潰すさ」


「そうしましょう」「賛成ー!」


 ロードはいつも通りだと言って、撤退を指示した。


「んー。なら街か? この辺のしけた村じゃ、暇でしょうがねぇ。いったん戻るか?」

「そうだな。囮の再調達も必要だ──ギルドに依頼しよう」


 そういうと馬車の速度を緩めてのんびりとした様子でロード達は町を目指す。

 まさかこの間にグリフォンが退治されているなど夢にも思わず……。 


「あ、その前にどこかで水浴びしたいかも。荷物も置いてきちゃったし最低限の食糧しかないわよー?」

 セリアム・レリアムは馬車の中を振り返る。

 貴金属類は何時でも持ち出せるように馬車に隠しておいたが、糧秣の類は現地調達が基本だ。

「ち……。あのクズDランクの野郎。補給してなかったのか?」

「クズの疫病神に何を期待しているんですか? ま、現地調達と行きましょう。この辺の地理は私め、【賢者】が覚えておりますゆえご安心ください」


 そういって近くの村を指し示すボフォート。


「けッ。なーにが、賢者だ。セクハラで賢者の塔を追い出されたくせによ」

「な!! そ、それは今何の関係もないでしょう?! あ、貴方こそパワハラと横領で騎士団を追い出されたじゃないですか!」


「な、なんで知ってんだよ!! やるかー!」「えーえー! いいですとも、やってやりましょうか!!」


 ぐぬぬぬぬ、とにらみ合う重騎士と賢者。


「はいはい、その辺にしときなさいよ、どっちもクズ・・なんだから──あははは!」


「「お前に言われたくはない!!」」


 王族──セリアム・レリアム。


 権力を盾に、王宮や城下町で悪事の限りを尽くした生粋の悪女。

 美少年の誘拐に拷問……。他人の恋人を奪うのは朝飯前。


 浄化と称してスラム街を焼き払ったこともあるんだとか……くわばわくわばら。


 そして、その醜聞をもみ消すために王家が尽くした手管は数知れず……。

 噂では3桁以上の人命がその過程で消えたという話──。


 そして、ほとぼりを冷ますためと、僅かでも人間としての憐憫の情が沸くなどの成長を期待して、王家は彼女をいったん教会に預けたうえで、冒険者として放り出したんだとかなんとか………………いやはやなんとも──。


「きゃー、こわーい!」


 そんな周囲の事情など知ってか知らずか、ケラケラと笑う神殿巫女。

 まったく、どこが巫女なんだか…………。


「はぁ……。こんな奴らに頼るなんて、僕はどうかしてたよ──」


 しょんぼりと俯くのは、ドワーフの少女フラウ。

 馬鹿メンバーの大騒ぎには加わらず馬車の中で膝を抱えて顔を暗くしていた。


 結局、補給と休息のため近くにあった寒村に立ち寄ったロード達。


 そして、「補給」と称して略奪と放火を手慣れた様子で実施。

 ただ、おもったより手間取ったのか、街に向かったのはそれからしばらくしてのことだった。

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