第6話「Sランクパーティ」

「──俺たちが、その変わったパーティさ」





 え?


 そう言って、音もなくレイルたちの背後に立った数人の男女。


 キラキラの装備に、

 美男美女──……と、チビっこ。


 人間とドワーフの混成パーティ。

 いや。それよりも、あの輝く剣は────……。


「せ、聖剣────グランバーズ!!……ってことは。ま、まさか」


 こんなレイルに声をかけてくれたのは──。



「……Sランクパーティ『放浪者シュトライフェン』ッッ?!」



 王国中に有名を轟かせる最強のパーティがある。

 それが目の前にいる青年が率いる、ギルドの認めた天職『勇者』のいる『放浪者シュトライフェン』だった──。


「ハハッ。知っていてくれて光栄だね。……君がレイルくんだね? ギルドマスターから話は聞いているよ」


 そりゃ、知らないわけないだろう!!

 いや、それよりも──……!


 え?

 えええ!!


「ま、マジ──……い、いえ、失礼しました! ほ、本当に俺を? しかも、マスターから?」


 てっきりメリッサの冗談かと思っていた。

 落ち込んでいるレイルを慰めようとするメリッサの気遣いだと──。


 ふと彼女を見ると力強く笑い、大きく頷いた。


 ……つまり、冗談でもなんでもなく、本当のことなんだと!


「あぁ、そうだよ。君みたいな・・・・・冒険者を探していたんだ。詳しくは後々──ぜひ、君の力を借りたいんだッ。頼む、君が必要なんだ──レイル」



 そういって、手を差し出すSランクパーティのリーダー。

 そう、『勇者』と言われるあのロード・バクスターから──!!



 まっすぐにのばされる鍛えられた腕。

 まっすぐに見据える意志の強い眼差し。



 もはや行ける伝説ともいえる最強の冒険者ロードから勧誘を受けるなんて……!


 それを聞いた瞬間、身体に電気が奔ったように震えた。

 同時に、レイルの中で緊張していた何かが切れる。



 そして、一筋の涙が…………。



「う……うぅ──」

「お、おい?! ど、どうしたんだよ?」


 慌てたロードがレイルに駆け寄る。

 だが、レイルは何も言えず、ただただ目じりが熱くなる。


 …………『疫病神』と言われるようになって以来、誰かに必要だと言われたのは初めてのことだった。


 ──だから嬉しかった。


 Sランクパーティのリーダーに必要だと言われて嬉しくて嬉しくて──その瞬間だけでも、人生のすべてが報われた気になった。

 だから、迷わずその手を取った!


 熱く! 固く! 頼もしいその手を!!


「お、俺の名はレイル──……! レイルです」

「あぁ、知ってる! よろしくな、レイル!」


 固く握手した二人。


 そして、ロードがバンッ! と力強くレイルの肩を叩くとそれを合図にしたかのように、


「よろしくな!」

「よろしくお願いしますよ」

「よろしくね♪」


 重戦士 ラ・タンク!

 賢者 ボフォート!

 神殿巫女 セリアム・レリアム!


 Sランクパーティ『放浪者シュトライフェン』のメンバーが口々に挨拶をかわし、レイルの肩を叩いてくれた。


 技術士長官────は、ギルドの隅っこで機械いじりをしていたので、ロードを含む4人の伝説級のメンバーが口々にレイルに「よろしく!」と声をかけてくれたのだ!


 あのうたに聞く、Sランクパーティがレイルに──だ!!


「おいおい、泣くなよ」

「おやおや、まだ泣くのは早いですよ。厳しい旅はこれからです」

「うふふふ、嬉しいのね──わかるわ」


 ロード以外のメンバーも気さくにレイルに話しかけてくれた。


「さぁ、詳しい話は俺たちの宿で話そう────遠慮するなよ、君はもう仲間なんだ」

「…………はい!」


 あれよあれよという間に話は進み、レイルは『放浪者』に加入することになった。

 細かい手続きはもう済んでいるというので、あとはレイルの承認だけなのだとか。


 もちろん断る理由はない。

 そうして、Sランクパーティの一員となったレイル。


「まったく、加入だけで泣くなよ」

「だって、嬉しくって……」


 涙ぐむレイルの肩を組んで歩きだすロードたち。

 それを頼もしそうに見送るメリッサ。


「頑張ってくださいね、レイルさん!」

「はい……ありがとう、メリッサさん!」


 力強く頷き返すメリッサと別れ、

 その日は、ロード達の宿に招待され、歓迎会を開いてくれた。




 彼らの宿は大きく清潔で、そして豪華な料理が揃っていた。

「遠慮するなよ、レイル」

「は、はい!」


 見たこともないほどの豪華な料理に面喰いながらも、手渡される杯を受け取ると、


「おっほん……。では、我ら『放浪者』の新しい仲間に────」


 ロードを音頭に、


「「「「かんぱーい!」」」」


 一斉に打ち鳴らされるカップの音!


 あふれる琥珀色のアルコールも煌びやかで、

 それはまるで、夢のようなひと時で、つらく鬱屈した感情を押し殺していたレイルのそれを溶かしていくような時間。


(あぁ……。まさか、俺がSランクパーティに入れるなんて!!)

 ……まるで夢のようだ。


 レイルは天にも昇らんばかりの感動につつまれていた。


 まさに、これまでの苦労────その全てが報われたような瞬間だ。

 正真正銘の戦闘職と肩を並べて冒険ができるという望外の話!


 それこそ、レイルが女神にゴネてまで求めた戦闘スキルを持った……本物の──夢にまで見た最強の冒険者たちだ。


(うぅ……! このまま、このまま──彼らとともに高みに上っていければ、支援職の俺も──【盗賊シーフ】のまま、戦闘職なみの強さをえることができるかもしれない!)


 そう考えたレイルは嬉しくて嬉しくて、宴会のさなかに何度も泣いた。


 何も、最強と呼ばれなくてもいい。

 支援職でも、並の戦闘職クラスに扱ってもらえればそれで本望なのだ。


 たとえ、戦闘向きでない【盗賊シーフ】であったとしても、それはDランクであればの話。

 Sランクパーティのロード達にについていき、Lvを上げていけばいつか……。いつか!




 いつか、本物の強さを手に入れることができるかもしれないと──。




「ミィナ……!」

 宴会の騒音のなか、ギュッとミィナの形見を握りしめるレイル。



 不遇スキル『七つ道具』でも、

 スキルの女神に嫌われて新しいスキルが貰えなくても、

 たとえ支援職【盗賊】でも────!


 もしかすれば、ロード達と冒険を続ければ、並大抵の戦闘職に引けを取らない強さを手に入れることができるかもしれない。


 そうすれば、昔、ミィナとかわして果たせなかった約束を。

 ──いつか世界を二人で見て回ろうという約束が果たせるかもしれない!!



 レイル──その思いでいっぱいになった。




 だから、聞けずにいたのだ。







 なんで、Sランクパーティの『放浪者』が、レイルのようなDランクの冒険者を仲間にしようとしたのか────……。

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