第13話 兄さん、あ~ん……
「ん~♪ おいし!」
生クリームとはちみつたっぷりのフワフワパンケーキを食べて頬を抑えてる月菜を見ながら俺はそんな姿を可愛いなぁって思いながらコーヒーを啜る。
吸血鬼でも、甘いものが好きっていう女の子なところはちゃんとあるみたいだ。
普通に俺の作ったご飯も食べてくれるから、こういう所は助かってる。
もし、血液以外NGとかっだったらどうしたものか、俺の血を毎日上げたりしたら干からびるし。
でもそんなことはなく、というかむしろ一度だけ吸血鬼といったらトマトジュースだろうと思って出したことがあるんだけど、「これ、無理」って突き返された。
その時はなんだか釈然としなかったなぁ……ケチャップは割と好きそうなんだけど。
そんなこと思ってると、ホットケーキを食べながら店内を見渡してた月菜が感心したように笑顔を向けてくる。
「兄さん、いいお店知ってるね」
「そうでしょ、月菜も気に入ってくれたみたいで嬉しいよ」
「うん!」
ちょこっとお腹が空いたっていう月菜の要望に応えて、俺が連れて来たのは駅の大通りから一本離れたちょっと隠れ家感のあるこオシャレなカフェ。
前に街歩きしていた時に偶然見つけた俺のお気に入りのお店だ。
静かだし、マスターは良い人だし、料理もコーヒーも美味しい、ゆっくり過ごしたいときにはよくここに来る。
あとなんかこうしてオシャレなところで優雅にコーヒー啜ってるとなんだかかっこよくなった気がしない? するよね!
ここに月菜を連れてきてよかったなって、器用にナイフで一口サイズに切ったパンケーキを愛らしい小ぶりな口に運んで幸せそうに表情を蕩けさせる月菜を見てると。
「兄さん、あ~ん……」
一口サイズに切ったパンケーキをフォークで差して、俺の方に向けてきた。
「いいの?」
「うん!」
「それじゃあ……あ~ん」
少し屈んで口を開けると、月菜がパンケーキを食べさせてくれる。
微糖のコーヒーを飲んだばかりだからか、生クリームなどが少々甘ったるく感じるものの、パンケーキ自体は驚くほどフワフワしててすごく美味しい。
それにしても、なんだか今のは彼氏彼女って感じがしたな…‥‥いや、兄妹でも仲良しなら食べさし合いっことかするのかな?
まぁ、なんか月菜に幸せを分けてもらったような気がするし、気にしないようにしよう。
「どう? 美味しい?」
「美味しいよ、ありがと」
「えへへ~♪」
にこりと笑って言うと、月菜も嬉しそうに顔を綻ばせて再びパンケーキを食べ始める。
しかしまぁ、本当に天使みたいな妹だなぁ……吸血鬼だけど。
これじゃあ、学校始まったらガチで悪い虫が付きかねない、今のうちに何とかしておきたいけど。
だけど、あまり過度なことをしすぎて『兄さんキライ!』なんて言われたくないし……。
とういうかこういうのは父さんが言われるべきだ! うん!
ていうか、やっぱり今のこの状況、兄妹っていうより恋人っぽいなぁ。
きっと月菜のカレシになった人間は毎日こんな月菜の笑顔が見られることだろう。
……あぁ、やはり悪い虫が付く前に今のうちに対策を練っておこう、そうしよう!
そんな風に決意を固めてると。
「??」
パンケーキを頬張ってる月菜が不思議そうな顔でパンケーキを差し出して来た。
もしかしたら俺がもっと食べたいと思われたのかも。
そんなことは無かったけど、月菜の優しさを無碍にするのもためらわれたし、何回か俺も食べさせてもらって、少し休憩してからお会計をしてカフェを後にした。
なお、お金を渡すときに俺たちを見て微笑ましそうな顔をしたマスターはきっと俺たち兄弟の仲の良さに感銘を受けてたに違いない!
■■
さて、カフェで休憩もできたし、次はどこに行こうかと考えて、なんとなしに駅に隣接されてるショッピングモールに向かうことにした。
ここのショッピングモールはたくさんの服飾店はもちろんのこと、雑貨屋、インテリアなどなどじっくり見れば一日では回り切れないくらい店舗が入ってる。
今日の様子からして、本当に昼間に外に出てきたことが無い様子から、きっと月菜も楽しんでくれると思う。
しかしまぁ……なんというか、さっきから人とすれ違うたびに振り返られてる気がするなぁ。
常日頃から、月菜は可憐で可愛いとは思ってたけど、そう思うのは俺の身内贔屓とかじゃなくて全人類の共通項なんだろう。
こうやって外に出て見れば、月菜の絵のような美しさと儚さにみんなの視線が釘付けなのがよくわかる。
月菜自身もその視線事態にはなんとなく気が付いてるみたいで、あんまり外に出てなかったことからこういうのに慣れてないんだろう、怯えてるのかギュっと俺の腕に身を寄せてくる。
でも、そんなようすがまた庇護欲をそそり触れたくなるような愛らしさと屈託のなさを遺憾なく発揮しているのに月菜は気づいてるんだろうか。
気づいてないんだろうなぁ……しょうがない、あんまり居心地悪く思ってもらいたくないし、さっさと視線を切れるとこに行こう。
それに、なるべく気にしないようにはしてるけど……さ、やっぱり完全に意識しないようにするのはできないんだよ。
……何がって? よく考えてみんしゃい! 当たってるんだよ! 意外とある胸が!
こんなにくっつかれるとドキドキしてるのがバレそうで嫌だ!
「あ、月菜。あそこにある服月菜に似合いそうだ、ちょっと見て行こう?」
だから、ちょうど見つけたお店にあるマネキンが目に入ったから誤魔化すようにそう言って、「う、うん」とおずおずといった感じの月菜を連れて向かった。
「これ?」
「そうそう、月菜に似合うと思うけど」
「……よくわからない」
少しだけ、ボーっと俺が勧めた服を見てたけど、自分が着てるところが想像できないのか、本当によくわからなそうな顔をしてた。
……いや、もしかしたら。
「……月菜、つかぬ事を聞くけどさ。今まで外に出る時に服とかどうしてたの?」
俺は高校生の女子は基本的に結構服には気を使ってると思ってるしそれは間違ってないと思うけど、月菜はどうなんだろう?
女子にこんなこと思うのはどうだろうと思うけど、なんとなく今日まで一緒に生活してきてそういうオシャレとかに無頓着なんじゃないか? って思い至り、そう聞いてみたところ、それは案の定。
「お母さんが買ってきたのを適当に」
「えぇ……ちなみに、今日の服は?」
「これ? 流石に気合入れようと思って、お母さんにメールで今日兄さんと出かけるんだって言ったら、これこれを着て行きなさいって」
「……」
衝撃だった、今時男子でも割とオシャレに関心を持つと思ってたのに、まさか月菜がこんな「とりあえず着れればよくね?」みたいな感じだったとは。
「う~ん……やっぱり、こういうのよくわからないし、今度お母さんにまた選んでもら——」
「ばっかち~~~んっ!」
月菜が何か言いかけて歩き出そうとするのを、俺は月菜の腕を掴んで引きとどめる。
「に、兄さん?」
「いいか月菜、もう高校生なんだからいつまでも母親に服を選んでもらってるなんて恥だぞ」
「でも、私そういうのわからないし…‥」
「そこで、だ。今から選び方とか色々教えながら俺が見繕ってあげる! ということでレッツゴー!」
「で、でも——ちょっ、兄さん!?」
俺は何かといい渋る月菜を多少強引に引っ張ってお店の中に連行してく。
月菜も学校で友達ができれば休日に遊びに行くだろうし、その時に恥ずかしい思いをしてほしくない。
だからここは兄として、しっかりとできることをやろう!
そんなちょっとした使命感を覚えながら、俺のコーディネート講座が始まった。
……え? 本当は可愛い妹を着せ替え人形にして色々な服装を舐めるように見たいだけなんだろうって? はははっ! ……そんなわけないだろう(汗)
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