第四章:殺人の意味(значення вбивства) 中間


 今回の奇襲がいい成果を出したのは、時機を狙い、場所を選び、仲間が頑張ったおかげだ。覇遵会の成員は頭から煙が出るまで考えても、物資を貯めた倉庫で私たちに攻められたのを予想できなかった。私は負傷した姉御を逃して、リーダーに通報させようと考えた。負傷者がいれば、世話する人も必要だから、あいつらの戦力を減らせる…

 「バーン!」

 ……………だが、柚依は怒りのあまり、この濃い化粧をした姉御を銃殺してしまった!驚いた。

 姉御を殺した後、柚依の顔が青くなった。彼女はしゃがんで独り言を言った。

 「私、銃を撃って人を殺しちゃった…もう我慢できない、全てが嫌い!人間もゾンビも嫌い!」

 紀序くんは彼女を助け起こそうとしたが、彼女は立ちたがらない。涙があふれている目で私と紀序くんを見るだけだ。

 「あなたたちは分からない…放っといて。私は秋羽を傷つけたこの女を殺して、仲間のために復讐しなくちゃいけない…あなたたちは分からないでしょう!」

 私の答えはしゃがんで柚依を抱くことだった。

 「私は貴女の怒りと悲しみを負ってあげられないけど、もし誰かが紀序くんか柚依を傷つければ、私も復讐したくなるね。」

 柚依は涙が止まらない。彼女は両手で顔を隠した。この少女はあまりのストレスで神経衰弱に至ったようだ。

 柚依は確かに優しい。彼女は心を鬼にしてヤクザを殺したのも自分ではなく、友達のためだった。その上、手を出した後で後悔してやまないようだ。彼女に比べたら、私は殺人に対してもう感情が鈍麻してしまった。

 私が初めて人を殺した…というより、他人の自殺を手伝ったのはただ十歳の頃だ。今まで正しいかどうか分からないが、あの時、私は友人の月沙を疾病から解放させるために、彼女を殺す必要があった。月沙が死んだ後、私は長い時間悲しんだ。法律の制裁から逃れたが、自分の手で人を殺した罪を追憶すると胸が痛んだ。しかし、ある日、私はやっと理解した――月沙は私に殺してほしかった。私は自分のために人を殺したのではなく、一つの命を解脱させた。

 「僕もスヴィタ姉と逃亡する時、人を殺したことがあります。殺したのは強盗だけだけど、重いストレスを感じました…しかし、私はずっとこう言い聞かせてきました――一人の強盗を殺して十人、二十人の難民を助けた…」

 「それでも私は人を殺したくないんだ!人間は暴力を振るって恨み合わなきゃならないのか?」

 「柚依、これはこの世の常だ。善良な姿を保ったまま、側にいる親友たちを暴力から守れるわけがない。こう自身に問ったほうがいいかも。柚依にとって「善良」とは何なの?もし道徳と秩序を違反して人を救えるなら、違反してもいいの?」

 道徳と法律に従うのが一番大切だと考えるやつらは、どんな状況に遭っても人を傷つけたり、殺したりするのはだめだと考える。ただし、そんなやつらには命を守るために命を取る人のほうがもっと徳が高いのだと理解できない。

 柚依は顔を遮った手を下げて、緩々頭を縦に振った。

 「私は特殊能力を持ってるので、仲間が傷つけられたらどうにかするのが私の責任だ。」


 覇遵会が集めた物資が本当に多い。八人乗りバンに載せても全然おかしくない。何日かかって集めたのか?

 「スヴィタ姉、物資をチェックする前に、どうぞ服を着て。」

 紀序くんは私に服を返した。彼のスピードが素晴らしいね。服には幾つかの焼け跡がついただけだ。

 「ところで、僕は手帳を見つけた。中には彼たちが集めた物資のリストを書いてある。」

 「それなら数えやすいね。」

 私は服を着て灰色の手帳を受け取った。五ページにざっと目を通した。あれ?馴染みの名前か?詳しく見れば、物資の分配リストには「関重輔:ミネラルウォーター、胃腸薬、風邪薬、非常食(カレーライス、チキンライス、五目ごはん)」と書いてある。これは前川村に送る物資なのか?

 違う。物資の分配リストには人と町の名前がある。前川村のリストは関村長と違う…覇遵会がわざわざ関村長に物資を送ったのは、彼が取り持ち役を務めていることに感謝するため?

 「何かおかしいところがある?」

 「いえ、彼たちがどの町と物資を交換しているのかちょっと確認した。バンにある物資を全部取って戻れば多すぎるから、先ず重要なものを選んで。車を運転しに行くね。」

 運転席のドアを開けようとする時、私は再び紀序くんと柚依に念を押す。

 「私たちは物資を前川村の村民に送った上で、曇島村にも持って行く。速く選ぼう!私たちにはもう時間がない。」

 覇遵会をに突撃した後、私たちはこの地域に泊まるのは危ないから、早速曇島村へ逃げて行き、そこで進化者のヤクザたちと戦う準備をしないといけない。でも、私はまだ関村長に覇遵会へニュースを伝えさせていない。

 

 「私たちは物資を手に入れた。関村長にみんなに分けてほしいです。」

 前川村に戻った後、泉さんに会いに行った。彼は村民たちと一緒に体操をやって体を鍛えているところだった。私たちは奪った食べ物、薬、文房具、電池などの物資を彼たちに見せる。

 「よかったです。あなたたちは前川村の救世主です。ありがとうございました!」

 「やはり若い者は凄いですね!ありがとうございました!」

 「もし今お金を引き出せるなら、銀行の貯金を全部渡したいです!」

 「竹島たちのように勇敢な若い者は日本の未来だ!」

 村民たちは関さんのほうへ知らせに駆けて行った。三分の、関さんが微笑みながら向かってくるのを見た。

 「竹島さん、平山さん、天笠さん、どこからこんなに多くのものを取ってきましたか?」

 「これ奪ったものですよ、覇遵会から。」

 それを聞くと、彼は笑えなくなった。

 「ちょっと待って…冗談ではないんですか?」

 「早く物資を取りたければ、もちろん強盗から取るのは効率がいいですね。関さんはそう思いませんか?」

 関村長、泉さん、あと他の村民たちが驚いた様子はまるで爆弾が彼たちの側で爆発したようだ。彼たちは物資を見たり、私たちを見たりした後、やっと話し続けた。

 「無鉄砲な若いもの、あなたたちはみんなに災いをもたらしました!そんなバカな行動で、覇遵会は村民全員を殺すかもしれません!あなたたちの知力は怪物のようなレベルなのか?」

 激怒した関村長に怒られたが、予想通りのことだ。

 「心配しないでください。私たちはすぐ前川村を離れますから。これは村民たちへのプレゼントです。」

 私は視線で紀序くんと柚依に暗示を与えて後退った。

 「他の人はともかく、お前ら、覇遵会からも物資を奪った?怪物だらけの場所を逃れて生き延びたから、あの進化者の暴力団とも戦えると思ったのか?」

 「お前らと一緒に死にたい人はいないんだ!さっさと村から出てけ!」

 一分前私たちを褒めていた村民たちは、今私たちを非難している。でも、私は言い返したくない。なぜかというと、乱世で生き延びているこの村を戦争に巻き込ませるのがすまないと感じたからだ。彼たちは戦争に参加したくなければ、放っておいてもいい。私たちを邪魔しなければ大丈夫だ。

 「私たちはすぐ村から出ます。申し訳ありません。しかし…」

柚依は勇気を持って前に一歩進んだ。

 「覇遵会は道徳を無視する暴力団です。みなさんはそういう事を理解すべきです!彼たちの要求に従わなかったら、いつか殴られたり、凌辱されたり、殺されることもありえますよ!」

 「もし自分たちが強いと思うなら、自力でヤクザたちと戦え!私たちを巻き込むなよ!」

 村民たちの怒りの元は覇遵会に対しての恐怖だから、簡単に止められないようだ。

 「物資を奪った時、何人殺したのか?」と関さんは厳正に私たちに問うった。

 「四人だわ、ここへ物資を取りに来た姉御も殺した。」

 関さんは口がちょっと開けて、そして眉をしかめて私たちを指した。

 「幹部も殺したか…それなら、あなたたちを逃すわけにはいかん!みんな、この若い者三人を捕まえて覇遵会に送ろう!そうしなきゃ、みんな大変なことになる!」

 私は手を軍刀の柄に置いた。紀序くんはクロスボウを出した。さっき後退したのは距離を保つためだ。軍刀を抜き出すと人を切ってしまって、険悪な事態になるから、それは避けたい。

 柚依はベルトについているナイフとサバイバルナイフを一瞥したが、取り出さなかった。力強く手を振り、みんなを落ち着かせようとする。

 「やめて!みんなやめてください!これ以上人を傷つけないで!私たちに村を離れさせてください。」

 「泉さん、大友さん、城崎くん、一緒にこの三人を捕まえよう!」

 村民たちは騒いでいるが、手を出したいのは一人もいない。私たちが覇遵会のやつらも片付けられたので、携えた兵器は飾りではないのだと彼たちは分かっている。

 関村長は前に二歩進んで、空手の構えをしている。彼の大きい体は私たちに強い圧迫感を感じさせた。

 しかし、私は怖がらずに前に突進して、彼の正拳と鉄槌打ちをさっと躱して、連発の寸打で彼の胸を打った――そして、彼の服を掴んで持ち上げた。

 「本気で関さんが私を捕まえられると思う?」

 関さんは何回も苦しく息を吐いた。彼が私の手を掴もうとする時、私は身を回して、上手く勢いを使って彼を何メートル以上か投げた。彼は落ちた後立てないようだ。

 ゾンビより生きている人を殴ったほうが面白い。思考できる人の動きはゾンビより遥かに複雑だから、関村長を倒す達成感で情緒が高ぶった。

 「急いで私たちを捕まえたいのは、覇遵会と協議があるから?」と私は軍刀を抜き出して、彼の胸を指しながら言った。

 「スヴィタ姉、ちょっと待って、それでやりすぎじゃない?」

 「平和に話し合うより、暴力のほうがこんなやつを白状させやすい。」

 私は左の足を上げて、力を入れて倒れた男の腹を踏んだ。彼は痛みで呻いた。

 「あら、少女の体重も我慢できないの?失礼だわ~軍刀は軽いので、少し刺し込めば多分大丈夫よね?」

 私はやめたくなかった…彼の腹を狙い、また二回踏んだ。そして、彼の膝関節を蹴った。

 「離れさせますから、これ以上関村長を傷つける必要はありません。」

 泉さんは急いで大声で言った。

 「竹島さんと友達の敵は覇遵会で、私たちじゃないです。前川村の人たちはあなた達の争いに関わりたくないんです、早く村を出てください。」

 「待って。私の質問はまだ終わらないよ!村長さん、初めて覇遵会をここに連れて来たのはあなただ。リベートを受けたのか?」

 私は澄んだ声でゆっくり質問した。

 「何でたらめなことを言ってるんだ!私はみんなのために…」

 「そうか?紀序くん、あの手帳を出して、『物資分配リスト』に関村長の名前が書いてある部分を読んで。」

 「はい、関さんを打たないで、お願い……………関重輔:ミネラルウォーター、胃腸薬、風邪薬、非常食(カレーライス、チキンライス、五目ごはん)。」

村民たちはお互いを疑いの顔で見ている。みんな私の意味が分からなさそうだ。

 「みなさん、あれは関さんが覇遵会に渡したものじゃなく、ヤクザたちからもらった割リベートだよ!信じないなら、この手帳を読めば分かる。」

村民たちはひそひそと話をしている。関村長は口が開きっ放した。彼たちにとって、事件の成り行きは小説より不思議だ。

 「あれは私が覇遵会に追加注文で買ったものだ。私は薬を村民たちに分けたんだ!」

 関村長は自己弁護をしている。

 「でも、以上の物が手に入るなんて、多分裏取引があったでしょ?例えば、定期的に彼らに村民たちが集めた物資の数を伝えるとか。」

 「私にそう非難する意味がある?」

 「ただの推測だけだけど、みんな村長の家をチェックしに行けば、サプライズがあるかも。」

 村民たちは疑っているようだが、誰も私に答えなかった。

 「私たちはすぐ離れるから、物資を受け取ってくださいね。自分で使うとか、ヤクザに返すとか、どうでもいいわ。さようなら。」

 私は言い終えた後、関さんに挨拶するのを忘れない――また彼を二回蹴った。

 人に暴力を使ったり、制圧したりするのはいつも楽しい。

 私たちは車に乗るところで、いつからか車の側で私たちを待っている絃美に気付いた。

 「金髪女、私たちに災いをもたらしたのに、そのまま逃げたい?」

 絃美は私に駆け寄って、右手で私の服を掴みながら、左手で私に手紙を渡した。

 「私たちは止められないから、早くあっち行け!」と私は頭を振って彼女に答えた。

 そして、私は彼女を床に投げて、ドアを開けて車に乗った。

 「紀序くん、柚依、ベルトを締めて、行こう!」

 アクセルを踏む前に、私は頭を回して、絃美が私に薄ら笑いを作っているのを見た。


 平山柚依の視界(точка зору Юзуя)


 私は人を殺しちゃった、殺しちゃった…頭が回らない。私の頭に暴力事件が溢れてもう何も考えられない。どうしてみんなはゾンビと怪物に囲まれているのに、お互いに敵意を持って戦える?

 戦闘中に敵を殺すのはともかく、反撃できない敵を処刑したのは、本当に他の命を助けることだったのか?

 私たちは曇島村に進んでいる。もし私は仲間と再会できたら、心が少し穏やかになるかもしれない。

 「平山さん…少し水を飲みますか?総合ビタミン剤を水に入れましたから、元気の回復に役に立ちますよ。」

 「ありがとうございます。」

 「平山さん…」

 私が少し水を飲んだ後、天笠くんは何か話そうとする様子だが、私を呼んでまた止まった。

 「どうしたの、天笠くん?」

 「前の戦闘、平山さんがいたからこそ勝てました。ありがとうございます。」

……………

 「そんなこと…私はあなたたちを戦争に巻き込みました。」

 天笠くんは私が戦った後、心の闇に陥って逃げられないのを心配して、わざと私を励ましたね。それ分かっている。思いやりがあるね、この子。

 「仲間を守るのは全然易しくないと分かっている。でも、悪い事ばかり働いた覇遵会を放置するわけにはいかない。」

 「柚依、あの姉御を殺したわけを理解できるよ。私が彼女を殺さなかったのは、彼女に戻らせて覇遵会のリーダーに報告させたかったのだ。」

 「スヴィトラナ、すみません…貴女は戦った時、全然迷いがなかったの?」

 「言いたいのは『敵を殺す時』でしょ?私は自分が人を殺した理由を知ってるので、あまり迷わなかった。」

 今は平和の時代ではなくて幸いだ。でなければ、みんな少女の口からそんな話を聞けば、スヴィトラナは頭が狂っていて、隔離されたほうがいいと思うだろう。今日まで、私はスヴィトラナが賢くて冷静な淑女だと思っていたが、さっき、彼女の性格の危うさに気付いた――関さんを訊問する時、スヴィトラナは興奮して…自分の力を実感じて興奮していた。

 関さんは少なくとも80キロ以上だ。しかし、スヴィトラナは片手だけで彼を持ち上げて投げた。彼女の体を見れば、そんなに恐ろしい力を持っているのが想像できない。彼女も進化者なら話は別だが。

 現在、スヴィトラナの側にいるのは危険だと感じてきている。彼女は他人に暴力を使う時、まさか愉快だと感じるのか?私は彼女の性格を理解できない…

 「天笠くん、前も強盗犯を殺したことがある…と言っていたでしょう?」

 「そうだね、あの時、五人の生存者は道に停まった車の中に隠れて私たちを襲撃しました。でも、僕は拳銃で一人を撃った後、他のやつらは蜘蛛の子を散らすように逃げました…」

 「撃たれた人はどうだった?」

 「それは…僕とスヴィタ姉は彼に『仲間はどこにいる?』と聞いた後、彼を殺した。」

 天笠くんは私の顔が暗くなるのを見ると、早く説明を補充した。

 「しょうがなかったです。僕はあの男の腹を撃ったので、病院に送れないなら生き残るわけがないので、殺すよりほかになかったです。」

 「そうだけど、私たちはあいつらがよくどの道で伏撃するのか知った後、他の道を選んだから、無駄に敵を殺すことはなかった。」

 スヴィトラナは特に「無駄に」を強調した。

 「ハア…私は人を殺したくなかったけど、そうしたから他の生存者を救えたわ。そんな環境で、もし強盗に物資を盗られたら、手が切られたかのようになる。」

 天笠くんの話から彼は暴力が好きではないと判断できる。私は少し安心した…非常の際、彼はスヴィトラナを止められるかも――が、私は考えを変えた。本当に覇遵会に手加減する必要がある?スヴィトラナが関村長を殴ったのは本当に残酷なことだった?


 「僕たちは空が完全に暗くなる前に、曇島村に到着できるの?」

 天笠くんがその質問をしたのはちょうど午後四時になる時だった。もうこんな時間なのに、GPSを見ると、まだ松本市の隣の鹽尻市にも着いていない。

 「分からない。進むよりほかにない。」

 群馬県の前橋市から上信越道で松本市に行けば、二時間半ぐらいかかるだけだ。でも、私たちは一般道路を選んだ上に、車に阻まれた道をも避ける必要があるので、休む時間を除くと、もう四時間以上運転している。

 一滴、二滴…雨が車の窓に落ちて来た。黒い雲が日を遮っている。パラパラ――五分も経たないうちに、雨がすぐ強くなって、車の窓が曇り出した。前方の道路状況が判明できない時に、こういう天気になって更に憂鬱だと感じた。視界が悪くなれば、もちろん危険性は上がる。遠方で食い物を捜している感染者が見えないから。

 「スヴィトラナ、ちょっと休んだらどう?」

「賛成します。僕たちは市中心に近づけば近づくほど、もっと感染者に遭うので、視界が良い状態で運転したほうが安全です。」

 「二人とも、運転手である私を信じてくれる?私たちは今早く行かないと。夜になったらもっと面倒くさいわよ!」

 「スヴィタ姉、二十分ぐらい停まってくれる?もし雨がすぐ弱くなるかも。」

 「一分たりとも無駄にしちゃいけない。」

 「僕たちの安全!安全を考えて!」

 「あの…私たちの運転手がそう考えるなら…私も早く曇島村に戻りたいから、停まらなくてもいいけど…」

 「じゃ、柚依、敵の偵察また頼むね!」

 私は窓をちょっと開けて、集中して周りの音を聞いている。雨がちょっとうるさいが、ゾンビと怪物の足が水しぶきを上げる音も聞こえた――

 「次の曲がり角で五体のゾンビが散歩している。」

 「了解、あいつらを避ける。」


 「前方には二体のゾンビがオフロード車の後ろに。」

 「Добра、左へ曲がろう。」

 半時間が過ぎても、雨は弱くなりそうもない。幸い、私の優秀な聴覚と四つカメラが付いているドライブレコーダーのおかげで、何度も感染者の手から逃げられた。

無事に曇島村に到着できるだろう…

 「ボーン!!!」

 「それ何の音?」

 「やばい、怪物だわ!」

 四つの手を持っていて体に粘液がついている怪物が車のルーフへ跳んで来た。「バン、バン、バン」と力強くフロントガラスを叩いている。ガラスは裂けてしまった――

 「みんな、しっかりつかまって!」

 スヴィトラナは先ず加速して、そして、90度に近いカーブを曲がって怪物を振り払おうとしたが、車が滑って二回ぐると回ってやっと停まった。

 「スヴィタ姉、ライフルを!」と天笠くんは素早くライフルをスヴィトラナに渡した。

 「Дякую! Йди до біса!地獄へ落ちろ!」とスヴィトラナは窓を開けて、あの怪物の頭に弾を食らわせた。

 「あああ!」

 呻いているのは怪物ではない、紀序くんだ。

 「天笠くん/紀序くん、大丈夫ですか?」

 私とスヴィトラナは同時に声を出した。彼は車が滑った時にドアにぶっつかることを思い出した。そんな状況で痛みを我慢してライフルを捜すなんて…本当に英雄だ。

 「僕は頭を守ったけど、手がめっちゃ痛い…!」

 私は彼の右の二の腕を見た。明らかに何ヶ所が赤くなっている。もし骨にひびが入っていたらどうする?

 「ちょっと我慢して!」とスヴィトラナはバックパックからスプレーを出して、彼の二の腕に噴いた。

 「お久しぶりのコールドスプレーだ。あ、あ…骨が折れていなきゃいいけど…」

 さっきの怪物は、恐らくある民宅の囲いの後ろに居た。私は油断してしまったのか…曇島村に到着する前に仲間の一人が傷ついてしまった。どうしよう?

 スヴィトラナは天笠くんに応急処置をして、彼の頭を撫でた後、また運転席に戻って運転を再開しようとする。

 「ちょっと待って!休もう!僕はもう手を上げられなくなったから、急いで運転しないでよ!」

 天笠くんはスヴィトラナに「一体何をやっているんだ!」という顔を示した。

 「後ろには追手がいることを忘れないで。曇島村まで安全ではな。私は道にいるやつらにもっと気をつけるから、心配しないでね。Не хвилюйся!」

 今…天笠くんの顔は「一体何を言っているんだ!」に変わった…私は何か話して気分を和らげてあげないと!

 「貴女は『一分たりとも無駄にしちゃいけない。』と言ってたけど、結局、怪物に攻撃されちゃった。みんなの安全をもっと考えてくれる?」

 この様子から、天笠くんはもうすぐスヴィトラナと喧嘩になると予測できるのだ。どっちの味方になればいいか分からない。私はもちろんできるだけ早く曇島村に戻りたいが、仲間が無事に到着できるかは覚束ない…

 「暫く車を停めたほうがいい。私が何回も松本市の郊外へ物資を取りに行った時、感染者の数は非常に多かった。スヴィトラナ、天笠くん、私の事で喧嘩しないで、ね?」

 私は二人の喧嘩を止められなくなる前に、止めようとした。

 「すみません。でも、言いたいことを全部言う。スヴィタ姉、今回の旅には、貴女がみんなを指揮してばかりだ。病院へ薬を取りに行った時とか、覇遵会を襲った時とか、前川村を離れた時とか…貴女の決定が全て危なっかしかった、行動を取る前にちゃんと考えたの?」

 「紀序くんは傷ついたけど、心配しないで!私が守ってあげる。以前一緒に逃亡した頃のように。」

 「僕をペット扱いするか、僕の気持ちや考えを全然知りたくないだろう?」

 それを聞いて、私はびっくりした。天笠くんはこんなにスヴィトラナに反抗する勇気があるのか?スヴィトラナは頭を回して彼を睨んだ。私は鳥肌が立っている。

 「あら、反抗期になったのかな?」

 「もうこの危ない旅をやめたい!」

 天笠くんは自分の右肩を触り、声を震わせて言い続ける。

 「今日、僕は燃えて炭になるところだった。しかも、今手が上げられなくなった!僕がどんなに恐れているのかを知ってる?」

 「この旅は危険があって当たり前だ。紀序くんは私が鍛えた戦士だから、危険を乗り越えられると信じてるわ!」

 「信じてる?貴女のように子供の頃から武術を習ったわけではないし、優秀な運動神経も持ってない!それを考えたことがある?」

 「紀序くん、生存のための戦闘から逃げようとするのはいけない。最後に笑うのはきっと私たちだから、お姉ちゃんの話を聞きなさい。」

 「何かあったらお姉さんづらをするのはやめて!僕が年下で特殊能力がないので、僕の意見には耳を貸さないの?」

 天笠くんはそう言いながら、わざと私を見ていた。彼が皮肉なことを言ったのが分かった――彼はスヴィトラナは私の話をもっと重視したいのだと思っている。何か言って雰囲気を和らげないと…でも、何を言えばいい?

 「私は安全ゾーンで穏やかな生活を送っていたのに、今はいつも命の危険がある。いつまで安心して休めるようになるのか!」

 紀序くんは叫んだ。私は何をしたんだ…二人の友達にトラブルをもたらした上に、彼たちを守れない。

 「紀序くん、今はラストステージだ。頑張り続けていれば沢山の命を救える。」

スヴィトラナは運転席から身を伸ばして、天笠くんの頭を撫でている。

「後で楽に生活できるね。」

 しかし、天笠くんは彼女の手を振り払った。

 「騙さないで、誰もこの世で楽に生活できない。前で僕たちを待っているのは終わらない殺し合いしかない。」

 涙が天笠くんの目から零れた。彼は鼻を啜った。

 もし私がもっと強ければ、仲間はそんなに苦しくならない。もし私が特殊能力を活かせるなら、一人で他の生存者を救える…

 「口を開けなさい。」とスヴィトラナは突然天笠くんの顎を掴んで、彼の口にチョコレートを入れた。

 「チョコレートを食べてから、言いたいことを言えばいいわ。」

 スヴィトラナは手を天笠くんの頭に置いて、少し力を入れた。厳しいお姉さんに命令された天笠くんは選択肢がなく大人しくチョコレートをかんでいる。

 「紀序くん、あなたは血糖の濃度が低すぎるせいで憂鬱になってるのだと思う。私たちは前川村を離れた後、缶入りパンしか食べなかったから、栄養が足りないようだ。」

 「すみません。私はみんなが疲れてると気付かなかった。ちょっと休んでお菓子を食べよう。」

 彼女は私にも謝ってクッキーとチョコレートを渡した。

 「スヴィタ姉、食べ物だけで私を黙らせることはできない。私が凄く不満を感じるのはお腹が空いていて、血糖値が低いせいだけじゃない!」

 チョコレートを食べ終えた後、天笠くんはまた文句を言い始めた。

 「貴女に騙されたからこの旅が始まった。私たち三人と曇島村の生存者たち、それで覇遵会に勝つ見込みがあると思うの?」

 「必ず覇遵会に勝つとは保証できないけど、私たち全員が死ぬことはないと確信してる。」

 戦闘中、スヴィトラナの勇姿を見た後、私は多少なりとも彼女を信じている。もし覇遵会に勝てないなら、みんなで山奥に行くという次善策もある。強敵に遭ったら長野の山は緑の城壁だ――と考えた後、私は少し安心できた。


 「死ぬことはない?それは確信できないだろう。お願い、『敵の基地に突撃しよう』という計画二度と作らないで。」

 「安心して。曇島村に入れば、敵を防御しやすいから、ヤクザたちを待てばいいだけよ。」

 「言っておくけど、もしまた危ないところに行きたいなら、僕は行かない。」

 二人の喧嘩は暫く止まったが、その後、どうなるか分からない…私はもう傷ついた天笠くんの分まで頑張って戦わないと、仲間も身を寄せるところを守れない。


 午後六時頃、私たちはやっと鹽尻を通って松本に来た。スヴィトラナは郊外の道路を松本の西南へ向かっている。そちらは覇遵会の成員を避けられる。

 松本に到着すると、私はあちこち見回した。物資を集めるために出かけた仲間と会うかもしれない…私は早く秋羽と会いたい。ペルシャ猫の絵がついているパスケースを彼女に送りたい。

 「松本市のゾンビは私が予想したより少ないね!」

 とスヴィトラナは言った後、車をターンさせて一体のゾンビを田圃へぶっ飛ばした。

 「私たちが何度もここへ物資を取りに来たから、半分ぐらいのゾンビはもう片付いたよ。」

 「あ、それならよかった。でなきゃ、スヴィタ姉は我慢せできずに車を降りてゾンビを斬って、自分の武術が凄いと証明しようとするだろう。」

天笠くんは右肩を掴んでいて、まだ怒っているようだ。

 「紀序くんが私と一緒に戦ってくれないなら、多くのゾンビを殺しに行きたくないね。」

 「フン、平山さんがいるじゃない?彼女は多くの敵の動きを見切れるよ。僕が手伝わなくても大丈夫だろう。」

 天笠くんは私のことが嫌い…?彼は私と出会った後、終始面倒くさいことが起こると思っているのか?

 「紀序くん、私と長い時間一緒に暮らしてたのに、平山さんに嫉妬する?」

 「いいえ、僕のような無力な人が嫉妬するのはスヴィタ姉だ。」

 「スヴィトラナ、先ずは波田駅へ。私の仲間はあそこにいるはずだ。」

 どうすればいいか分からない…再び天笠くんに謝っても彼の気持ちを和らげられないと感じたから、何も答えないほうがいい。もし秋羽を救いたい私のせいで、スヴィトラナか天笠くんが死んだらどうする?

 早く曇島村に戻ろう。そして、みんな山に隠れよう。そうしたら、傷つかない上に、他人を傷つけることもない。


 「ここで停めてね、ありがとう。」

 もうすぐ前方に私たちの「検問所」が見えるはずだ。私たちは上信電鉄の終着駅から三つの駅――波田、渕東、新島々を中心として、周りの道を封鎖して、ゾンビが山に進むことを防ぐ。

 覇遵会の二回の攻撃は新島々駅で阻まれたが、彼らも私たちがもっと土地を占領するのを止めた。彼らの妨害があれば、駅の周囲の田圃で農作物を植えることはできない。

 「柚依の仲間たちはこの辺りに?」

 「分からないけどその確率が高いから、捜して見よう。」

 私たち三人は車を降りた。どういう訳か、松本市の空気が懐かしい。

 その時、私は確かに近くの家から出た足音を聞いた。彼たちに暗号を送るべきだ。私はオカリナをポケットから取り出して、雲雀を真似して短い鳴き声を作った。

 「柚依、オカリナが上手だね。まるで本物の鳥の声のようだ。仲間と連絡を取ってるの?」

 スヴィトラナは頭を回して庭園がある別荘を見た。

 「あれ?あそこの鳥がオカリナに答えたようだ。」

 彼たちは多分近くにいるから、またオカリナを吹く。今回はシジュウカラの長い鳴き声を真似した。

 「また返信があるね。それは柚依の仲間がオカリナを吹いたの?」

 「私の仲間だけど、彼はオカリナで返信してるのじゃない。」

 別荘のドアが開いた。出て来たのは仲間である「猿さん」と「鸚鵡さん」だ。よかった!

 「柚依…!生きていたのか!あなたが失踪した後、俺たちはあなたの姿を捜した…怪物になったんじゃないかとみんな心配してた。」

 猿さんはとても興奮した様子で私の両手を握った。彼は私より五つ年上だから、兄さんのように私の面倒を見ている。

 「あなたたちを助けを求めに行かせた後、私たちは悔しい思いをしたんだ。だから、生きていたのはよかった。」

 側の鸚鵡さんはメガネを外して、濡れている目頭を拭いた。十日ぐらい彼と会わなかったのに、この35歳のおじさんは白髪が増えてしまった。

 「猿さんと鸚鵡さんと再会できて、私も嬉しいよ…みんなが覇遵会に殺されたんじゃないかと心配してた。」

 実は、私はそういう悪夢を見た……曇島村に戻った時、私を待っているのはいっぱいの死体だという夢だ。だから、仲間たちがまだ生きているのを知ると、嬉しくて、みんなに伝える言葉がみつからなかった。

 「ちょっと紹介するね。彼たちは私の新しい仲間、山梨から来た竹島スヴィトラナと天笠紀序。彼たちのおかげで、私は安全ゾーンから抜け出して、曇島村に戻れた。」

 「柚依を助けてくれてありがとうございます!」と猿さんは腰を折り、最敬礼をした。

 「どういたしまして、今こそ助け合うことが大切です。」

 スヴィトラナも天笠くんもお礼を返した。

  「あ、そうか、俺はまだ自己紹介していない、でしょう?俺は前野と言います。『猿さん』って呼んでもいいです。俺は進化者で、家の壁と屋上に攀じ登ることが得意ですから。」

 彼は手を伸ばして、普通の人より二倍大きい掌と太い腕を見せた。

 「私は鶴岡、ニックネームは『鸚鵡』です。私の特殊能力は色んな動物の鳴き声、あと他人の声を真似することです。例えば――」

 鶴岡さんはまた雲雀の声を真似した。

 「これは私たちの暗号です。でも、昼にそう鳴くと、時々他の雲雀が返信することもあります。」

 「二人の特殊能力は頼もしいですね!よろしくお願いします。」

 スヴィトラナは頭を上げて、もう現れている月を見た。

 「もうすぐ空が完全に暗くなるので、私たちは早く曇島村へ!二人とも車で村に戻りますか?」

 「いいえ、俺たちは電動自転車で。」

 「それはそうと、秋羽はどう?彼女は逃げて村へ戻ったの?」と私は焦って仲間に聞いた。

 「秋羽…彼女は戻ったが、酷く怪我をしちゃったせいで、意識不明で熱が出ている。下屋先生はできる限り彼女を治療したが、私たちには薬が乏しい。」

 鸚鵡さんは深く嘆いた。

 「心配しないで!私たちの車には沢山の薬があるよ!解熱剤も抗生物質もあるので、早く戻ろう!道を教えてください!」

 私は一も二もなく車へ戻った。秋羽、私を待っていてね!

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