生物の進化の終焉

地獄公爵

プロローグ・消えてゆく人性(Зникло Людстбо)


 生きてゆくか、人性を保ってゆくか、これは問題である。「大疫病」という世界の終末が来た後、僕は人々が生き延びるために、良識と道徳を捨ててしまった姿を見て来た。僕は自分の人性が消え始めたあの日、永遠に忘れない……

 短い三ヶ月間、僕が歩いた距離は、たぶん前の十年間の総和を超えた。しかし、もし僕のペースが少しでも遅くなれば、ゾンビ、或いは怪物になる二種類の結末しかない。

 「だめだ。私たちは逃げ続けられない、水と食べ物を補給するところを探すべきだ。」

 「でも、この辺りの村にはあれらのものがいっぱいいる。」

水と食べ物を捜しに行くことと提案したのは、僕の先輩である竹島スヴィトラナ、彼女は僕のパートナーというより、リーダと言ったほうが相応しい。竹島先輩が僕を連れて逃亡しているおかげで、色んな危険から生き残れた。

 しかし、彼女と再会した原因は、僕が大切な家族を失ってしまったことと関係があったのだ。

 「心配しないで、あれらの村の人口が少ないから、たとえ全部ゾンビとモンスターになっても、私がやつらと全力で戦えるわ。」と竹島先輩が自信の顔をみせながら、 腰につけた軍刀を握った。

 そうだ、彼女だけなら大丈夫だけど、僕、天笠紀序はただ中学三年の男子生徒だ。こんな想定外のことがなければ、今年の十二月は高校受験をつもりだった。学校は刀剣の操り方なんて教えてくれなかったよ。

 僕は竹島先輩の後をつけていき、彼女の足を引っ張らないことを望んだ。


 「この町が大きくない、この高いところから下を見れば、二、三百人のゾンビに加えて、二十何人の怪物もいる。後で私の指示に従ってコンビニと薬局に進みなさい。」

 竹島先輩は陽射しに金色の髪が映えており、彼女は日本とウクライナのハーフなのだ。昔のお姫様の如く美しいが、自分を守る騎士が要らない。原因は彼女が軍刀を持っている時、まるで高貴で英勇な騎士のようで、どんな強敵でも倒れていく。

 「後で、戦闘に夢中してはいけない。絶対に私を離れないように。もし敵が近づいたなら、前の練習のように包丁でやつらの頭を切りなさい。」竹島先輩は緑玉みたいな目で私を見て、マジメに詳しく説明した。

 僕はテープと縄でモップの柄を纏った包丁という臨時に作った武器を持っていて、ゾンビの弱点である頭を切り砕くなら、やつらを打ち倒せるという。

 厄介なのは怪物、ゾンビに咬まれた人は、もし運がよいなら、速度も力も知能もゾンビに勝る怪物に「進化」する。ある者は鋭い爪と太い腕を得、あるやつは体に刺を得る。狼のように四足で駆ける者もいる。とにかく、この三ヶ月間、僕はもう生物の進化の千姿万態と不思議さがわかった。これは教科書から習えない知識だ。

 「幸い、ウイルスが広まった後でも携帯とインターネットはまだ使える。」と竹島先輩はポケットからスマホを取り出して、この地域のマップを検索し始める。

 「それは日本の文明のはまだ全て崩壊していないことだ。」

 「文明の徹底崩壊でさえなけれな、僕たちがいつかこの災いの起源を発見して世界を正常に戻させる。」

 「もし政府がわざと真相を隠そうとするなら、民衆は恐らく起源を知りにくい。」と竹島先輩がため息をつき、「しかも、真相は人を頭が狂うことにさせるかもしれない。」

 長長しい時間が過ぎた後、竹島先輩の知った物事は僕が思い及ぶのより多いと判った。

 「目標はもう設定してある。ここから三キロ歩くと、コンビニがある。」先輩は肩からライフルを取って、「でも、まずは敵をひきつけておこう。」と続けた。

 この銃はソ連のSKSライフル、元は先輩の父のコレクションで、彼女が上手に使っている。彼女がスコープを調整して、よく敵を探して、トリガーを引いた。

 遠くのがっちりと体に刺を付けた怪物は、ヘッドショットされた。敵は攻撃源を捜した後、地獄の悪鬼のように僕たちへ上がってきた。

 竹島先輩の策略は、先に面倒な怪物を片付け、路地で囲まれることを避けるために、ゾンビを引きつける。彼女は何も恐れずに、小麦を刈り取るみたいに軍刀を振り、ゾンビたちの頸部は切られていた。この軍刀は竹島先輩の十八世紀の貴族である先祖から承継されてきた貴い武器だ。こいつは戦場に戻った時、ちっとも使用者を失望させなかった。

 「進んで!」先輩は優雅に身を旋回させて、連続で二体のゾンビの首を割った。

 これらのゾンビとの戦いは、技術より勇気のほうが重要だ。だって、外観が恐ろしい敵が絶えない上、一回でも咬まれたらさようなら、だから、誤りは許されない。

僕は身を翻して逃げたい気持ちを抑え、先輩についていく。

 この三ヶ月間、僕はもう何回もこいつらと戦っていたが、まだ緊張し恐れていて、呼吸も脈搏も速くてたまらない。

 僕はずっと自分に「落ち着いて、落ち着いて、自分を良く守れ、竹島先輩の足手まといになるな!」と伝えた。

 長い手を持った手長猿に似ているモンスターが現れた。彼の体を見れば、ゾンビに咬まる前は、たぶん運動部員だったのだろう。

 怪物の二発のパンチを先輩が見切って避けるとともに、軍刀で怪物の右手を斜斬って断とうとしたが、筋肉が固まっている手に深い傷だけ残し、怪物は痛みで叫んでいる。

 「すごいわ、貴方は武術を習ったことがありそうね、どんな武術をやったの?」

 先輩の言葉がわからないであろう、怪物は一発の鉄槌打ちで答えた。

 この際、何体かのゾンビは僕に近づいていた。先輩に助けを求めることができない、自分を自分で救うしかない。

 僕は力を入れ、包丁で女ゾンビの首を打つと、奴は倒れた。次に、僕はもう一体の男ゾンビを攻撃したが、奴の身長が180センチくらいあるせいで、攻撃が外れて奴の肩に包丁が突き刺さってしまった。

 包丁を抜こうとしても動けない。もう一体のゾンビが僕に飛びついてきた。しばらく武器を諦めるしかない。二体のゾンビが互いにぶつかった。

 くそ、僕はただ一体の敵を殺しただけだ。あと五体のゾンビと戦闘しないと……

僕は先輩がくれたミニクロスボーを取った。この武器は近距離だと致命傷を与えることができる。ゾンビは矢に当たると倒れた。僕は再び装填して射撃した。

 でも、僕の速度はまだ遅い。ゾンビが僕を掴んで咬もうとしている。僕は懸命に奴を押している……

 軍刀の光が虹を引いて、ゾンビらの頭は切り裂かれた。先輩はすでにあの拳闘家モンスターを切り捨て、急いで僕を助けに来た。

 「ありがとうございます。竹島先輩、どうやってあいつに勝ったんですか?」

 「私は攻撃を回避した後、あいつの膝を傷つけた。あいつが立ちあがれなくなっている時、一刀で斬首した。」竹島先輩が包丁を抜いて僕に渡した。「覚えておきなさい、自分より高くて強い敵と会っても慌てないで、敵の下半身を攻めて転ばせなさい。さあ、進もう!」

 「先輩、待ってください。僕たちはもう取り囲まれた。」

 敵の数は僕たちが予想したより多いから、半分の道も過ぎないうちに囲まれてしまった。もし僕がもっと強ければ、進み続けられるかもしれないが。しかし…

 「どうしましょう?僕たちは撤退すべきですか?」

 「私たちは確かに撤退する必要がある。怪物が全員揃う前に!」

 拳闘家のモンスターの叫び声を聞いた怪物らは揃っている。いくら先輩が武術に優れていても、同時に三体以上の怪物に勝つのは難しい。

 くそ、僕はまたしても先輩の足手まといになって、いつもそうだ。彼女が傷つけかれ た時も、僕は何もできなかった。

 ゾンビらは再び殺到してきた。僕と竹島先輩はまるで狼に包囲された馬のように戦いなから逃げ続ける。でも、奴らは無尽の食欲に駆られているので、いくら仲間が死んでも恐れを感じず止らない。

 竹島先輩が軍刀を操り、中国武術の足払い、蹴りを加え、何体かのゾンビを倒した。僕もすぐ奴らの頭を切り裂いた。「ライフルを使ったほうがいいかも!」そう言った僕はすでに呼吸が荒くなり、疲れてしまっていた。「こいつらと接近戦をするなんてデメリットしかない!」

 「だめ、弾薬が貴重なので、私たち…」

 先輩の話が終わらないうちに、僕は銃撃の声を聞いた。ある中年の男性が拳銃でゾ ンビを打ち倒し、僕たちに向って来た。

 だが、僕の目を引くのは彼の拳銃じゃなくて奇異な左手だった。

おじさんの左の腕は右より二倍大きい、しかも、厚い胼胝ができている。かにの親爪が僕の頭に浮かぶ。ゾンビたちは彼に駆け、彼が直接拳と肘で卵を割るかのように簡単にゾンビを砕き散る。

 「早く来い!お嬢ちゃん、少年、俺はあなたたちを安全の場所に連れて行くから!」

 ある怪物は突然いえの窓から飛び降り、おじさんに襲いかかる。「邪魔するな!」とおじさんはワンパンチで怪物を家までぶっ飛ばした。あの声から判断すると、たぶん殆んどの骨が砕け断った。

 「英雄と出会ったようだね。」と竹島先輩が言った後、僕と一緒におじさんに従った。


 おじさんは僕たちをあるうちに連れて行き、ドアをロックしてイスで防いでおいた。「俺は藤沢、この町の警官だ。どこから来た?」

 「私たちは愛知県から逃げて来て、あそこの人々はほとんどウイルスに感染してしまいました」。

 「静岡県の東部もそうだった。あー俺は三週間活人と会ってなかった。」藤沢警官は僕たちをリビングのイスに座らせて、「ドリンクを飲むか?」と言った。

 「はい、ありがとうございます。」僕と先輩はドリンクをもらって、一気に飲むと、体力が回復してゆくのを感じた。

 「藤沢さん、力が強いですね。素手でゾンビを撃ち殺してくれましたし。」

 僕は目の前のヒーローに敬意を払った。

 「べつに……俺の左手は最近こうなって、ゾンビに咬まれた後から。」

 「傷の状況はどうですか?本当に大丈夫なんですか?」驚いた僕が立った。

 「気にしないで、俺は意識がまだ明瞭で、貴方たち二人を食べたくないんだ、ハハハ。」と藤沢さんが笑い始めた。

 僕は竹島先輩に視線を向けた。彼女は警官がゾンビに咬まれたことに配慮していなさそう。「お一人でここに居続けられますから、水と食べ物などは足りるでしょう。」

 「安心して!俺はコンビニからたくさん飲料と食べ物を取った。水を沸かして、後でカップラーメンを食べていいよ。」

 「ありがとうございます。ところで、なぜこの町を離れなかったんですか?救援を待っているんですか?」

 「いえ、住民を救援する機動隊はもう来た。」おじさんの顔が暗くなる。「町の警察が機動隊と協力しても百人くらいしか救えなかった。」

 「疫病がそんなに大蔓延しましたか…」

 僕は不安が募った。一体安全地域を見つける機会があるの?

 「俺は住民を助けた時、ゾンビやろうに攻撃を受けた。仲間に危険をもたらすことを心配したから、この町に残るって決めた。長い時間が経っても死なないと思わなかったさ。」

 「すみませんが、左の手が変異した以外、ほかの症状がございますか?」

 「症状と言えば、俺はよく攻撃欲望が沸く…街を駆けてあらゆるゾンビとモンスターを砕き散りたくて仕方がない。しかも、この欲望はどんどん強くなる。」

警官が以上のことを話している時の表情は、僕に恐れを抱かせる。暴力の情熱と殺戮の望みが相まって、彼の目に宿る。

 「これからどこへ行きたい?もし人がいっぱいいる場所はどこでも危険だ。」

 「はい、そうですけれど、私の知る限り、甲信越の一帯は山地が広いし、人口が少ないし、もし私たちが山梨、長野の田舎に逃亡すれば、生き延びる機会があるかもしれません。」

 竹島先輩はいつも自分の判断が正しいと思っている。大都市は生存資源を集めやすいとはいえ、大量の敵にも遭いやすい。

 「何日か前、俺はまだ機動隊の人員と電話で話していた。政府は山梨県の山間地帯の村に、防衛地を造ったようだ。」藤沢警官は僕と先輩を見て、「休んだ後、俺が貴方たちを無事に町を離れるまで援護して、安全地域の方向を教える。」

 「はい、お願いいたします。」

 「それはそうと、家に銃器があるんですか?あれらのモンスターと戦うには、距離を取るのがもっとも良いですから。」

 「交番にはリボルバーしかないけど、機動隊は俺に短機関銃と自動式拳銃を残してくれた。心配の必要ない!俺は素手と拳銃で奴ら鎮めてやろう!」

 「ありがとうございます。私たちはとても疲れたので、部屋で休ませていただけませんか?」

 「うん、付いてきて。」

 「今日は救援してもらってありがとございました。」と竹島先輩がお辞儀をして改めて感謝を示した。

 「いいえ、この世界が滅ぶ前、俺は警察の職責を果たすよ、ハハハ。」

 この警官は本当にいい人、この活人が死人に追撃される狂った世界でも、頑張って平民を守る。僕は人性のライトサイドを発見したようだ。

 先輩は突然迅雷耳を覆うに及ばない速度で軍刀を抜き、刃がギラリと光り、鮮血が舞い散った。

 僕は警官の首がゆかに落ちるのを見ると、十秒間舌を巻いていた。

 「どうして……どうして……彼を殺したの?」信じられない、心から信じられない。

 「天笠くんも見たでしょう。彼は変異する途中のゆえ、一刀で殺したほうが手間を省ける…あと、私たちには銃や水や食べ物が必要なんだ。」

 「何を……いったい何をやったの!」

 悲しみと怒りが相まって、僕が改めて竹島先輩に訊いた。「藤沢警官はゾンビでも怪物でもなく、人間なんだよ!さっきは僕たちを救ったのに、貴女は彼をも殺したなんて!」

 「今彼を殺して手間を省けたと言った。天笠くんが生きてゆきたければ、自分に危害を加える人に容赦できない。」

 「僕たちがここを離れれば大丈夫だ!わからないの?」

 「この人がいつ私たちを攻撃するか予測できない。」竹島先輩の目付きは雪女のごとく冷たい。「ダラダラしないで、水と食べ物をリュックサクに入れて、私が銃器を捜しに行ってくる。」

 僕はそのまま立ち止って、竹島先輩を見据える。彼女が殺人した後、物資を取って進み続けるの?そんなことできない。

 「これは命令だ。よく見なさい、今の世界はもう天笠くんが知っている世界じゃないのよ!」

 僕は深く息を吸って、血の生臭さを嗅ぐが、前のように吐き気がすることがない。 地獄に生きてゆく僕は、良識をいつまで保っているの?

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